Ⅱ レジエントーxⅲ
「お褒めに預かり光栄だ。ゼタと言うんだ。世話になる。可愛がってやってほしい」
「任せてください!」
「ここの馬の世話は、一人でやっているのか」
「いいえ。あと二人おりますが、彼らは庭の手入れなども兼任していますので、今はそっちに」
年の頃は三十くらいだろうか。好感の持てる雰囲気に、ハーシェルも自然と微笑んだ。
そのまま庭を案内され、広大な敷地の中で、ユリゼラが好きな場所を案内される。
「お体が弱くておいでですので、あまり館から出ることをなさいませんが……気分の良い日などは馬で敷地内を回ったり、この四阿で本を読んだり、書き物をしたりしておいでです」
四阿は白く優美な造りで、ユリゼラを座らせたら絵になりそうだなと思う。
そうして用意された部屋に案内され、ハーシェルはようやくひとりになった。
ルイが宿屋に取りに行かせた荷物がきちんと置いてあり、今日整えられたことがわかる清潔な寝具に、ハーシェルは息をついた。
「護衛ね……」
ユリゼラが美しいことはわかったが、まだ性格のほどはわからない。あまり出歩くことはなさそうだが、誤解を招かぬような距離をとるよう、気を付けなければならないだろう。年を聞くのを忘れたが、子供とはいえ女性だ。
ハーシェルは手当り次第に地図を広げると、宿でしていたように床にテーブルにと散乱していく。自分がどこに行きたいのか決められないハーシェルは、いくつもの地名をそうやってただ眺めた。
夕食の席に着き、祈りを捧げて口にする。そこでも、男爵が感心したように口を開いた。
「ダリ殿は王都の出であろう?」
「え?」
出身地、が王都となる人間などたくさんいるが、今の自分がそこを出身地とすることが良いかどうかなど考えたこともなく、ハーシェルは手を止めた。
「いや、食事の作法も貴族のものだし、物怖じしない姿勢はどこかの領主のようでもあるし。わたしはこんな田舎で、王都に行くことも滅多にないものだから、大貴族の事情には詳しくないんだが……ひょっとして、家出の最中、なのか?」
男爵の言葉に、ハーシェルは笑った。「家出」といえば、確かに家出の最中だ。




