Ⅱ レジエントーⅻ
「お知り合いがおいでかな? 長官のどなたかがおいでになると聞いているが。長官級がここまで来るとなると、あの盗賊は相当厄介な相手だということだろうな」
そう言って茶をすする男爵に、ハーシェルは頷く。
長官が動く。となれば、こんなところまで来るのは長官とはいえ若造の役目だろう。そうすると、ガゼルか、クロシェが来る可能性は高い。
(待ってみるかな)
もしも彼らなら、討伐隊に加わるのも良さそうだ。
「護衛というのは、四六時中?」
「いいや。ユリゼラが館の中にいるときには、心配していないんだが……臥せっているのも多い娘で。少し散策に出る折や、出かける際にはついていてくれると」
「なるほど。危険がないと判断出来る時には離れてもいいと、そういうことですね」
「もちろんだ。礼をするつもりが、こんな願いを押し付ける形になって申し訳ないと思っている。危険がない時にはもちろん、自由にしてくれて構わないし、貴殿が望むものがあれば用意したい」
「自由にできる時間を戴けるなら、お引き受けします。あー……警護するに当たって、ひとつだけお願いをしても?」
「何かな?」
「姫の部屋にバルコニーがあるなら、盗賊が捕まるまではない部屋に移動していただきたいのですが。バルコニーのある部屋は、二階だろうが三階だろうが、忍び込みやすい」
なるほど、と男爵は頷き、ユリゼラに視線を向ける。
「もちろんです」
涼しげな微笑みの横で、母親も安堵しているのが窺えた。
「ならば決まりだ。彼の部屋はユリゼラの部屋を守りやすいところがいいな」
すっかり安堵したような男爵に、ハーシェルはふっと息をつく。
宿屋に置いてきた荷物を取りに行きたいというと、すでに話を聞いていた執事のルイが下僕に取りに行かせたらしく、そのまま館の中を案内された。
「そして厩舎があちらです。こちらが世話係のオダリス」
「綺麗にしてるんだな」
清潔に整えられている厩舎に、ゼタの機嫌も良さそうだ。ハーシェルの言葉に気を良くしたのか、オダリスが嬉しそうに話し出す。
「男爵も、馬がお好きなんです。ユリゼラ様もお好きなんですよ。お体が弱いので、あまり乗馬をなさることはありませんが、よく見においでです。お客様の馬は素晴らしいですね! お嬢様が素敵な馬だったと仰っていましたが、本当によく鍛えられてる」




