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Ⅱ レジエントーⅺ

 ハーシェルの手を握り締めて一人納得している男爵に、呆気にとられて言葉を継げない。


「いや、礼をしたいのだが貴殿が何かを欲しがる風もない。ならば次の目的地が決まるまでの間、ここにいて……娘の護衛となってもらえないだろうか」


「姫の?」

「噂にすぎないことではあるが、フィルセイン公爵がユリゼラを欲しているという。確証はないが、公爵の生活を考えれば、あり得ないとも言い切れない」


「ああ……」

 若い女を何人も囲っているという話は、ハーシェルも聞いたことがある。壮年の彼は外見からはそれが見えず、むしろ清潔感さえ漂わせた、若い頃には社交界の花形だったと言われる男だ。王族が死に絶えたなら、最も王位に近い血統にあり、今、実際に王を操っていると目されている男。


「あの盗賊も粗野ではない。むしろ騎士の剣術に通じる腕だ。貴殿もそれは十分におわかりだろう?」

「ええ。あれは、王統院の騎士たちが使う剣術でしたね」


 ふと思いだして言った言葉に、目の前に座っていたユリゼラの目が、少し見開いてこちらを見つめた。


(しまった)

(あんまり言わないほうがいいな)


 観察眼の鋭い女だということを忘れていた。もし噂の通り多方面に深い知識を持ち合わせていたら、ハーシェルの素性にたどり着くとも限らない。


「治安を預かるセルシア院でも、事態の収拾が現況では厳しいと判断し、中央に応援を要請したほどの手練(てだ)れだ。このレジエントの騎士たちも、決して弱くはないのにだ」


「ええ、そうでしょうね。でなければ、このレジエントの治安がこれほど保たれている訳がないでしょうから」


「うむ。ダリ殿の旅を邪魔しようとは思わぬ。しかしだ。せめて中央から応援が来るまでは、娘の傍についていてもらえないだろうか」


 身を乗り出し、近すぎる顔をさらに近付けられ、ハーシェルはのけぞる。


「お父様、ダリ様がお困りです」

 ユリゼラの声に、男爵が「おお、すまない」と手を放し、いそいそとティーカップを持ち上げた。


 ほっそりとした娘に反し、やや丸っこい体型の彼は、その風貌と愛嬌ある性格で民から愛されていそうだなと、ハーシェルは微笑んだ。きっと彼は、民と話合いなどを設け、穏当なやり方でこの土地を守っているのだろう。


「中央からは、誰が?」

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