Ⅱ レジエントーⅸ
「いいえ。あなた様は盗賊を三人も倒し、お嬢様の無事を確保してくださいました。最近現れたあの盗賊たちは、一人ひとりが大変強く、取締りに難航しておりました。これがもし別の誰かであったら、その方も、お嬢様も、無事ではいられなかったでしょう。主人はあなた様のその腕にも、敬意を表したいと仰せです」
「敬意ねえ……」
やわらかい微笑みを湛えた執事は、きちんとした姿勢を崩すことなく、ハーシェルを見つめている。
「申し遅れましたが、私はロムニア男爵家の執事を務めております、ルイと申します。昨日、お助け下さったのは末のお嬢様、ユリゼラ様でございます。旦那様もお嬢様も、ぜひお礼を申し上げたいと切望されております。どうか私に、命じられた仕事をまっとうさせていただけないでしょうか」
すっと下げられた頭に、ハーシェルはため息をつき「わかった、伺う」と答えたのだった。
ゼタに騎乗して城へ行くと、先に戻ったルイが知らせたのだろう、家族、使用人が総出での出迎えに、ハーシェルは嘆息する。こんなに大袈裟にすることでもないだろうに。それほどに愛娘が可愛いということかと、昨日は拝み損ねた男爵の顔を覚えておくことにする。
「昨日はお礼も申し上げられず、大変失礼をした。私はこの子の父で、このレジエントを預かっているクロイツェル・ゼティ=ロムニア。この子は……」
「ユリゼラ・クレアドス・ラヴェンジェと申します。どうぞ、ユリゼラとお呼びください」
固く握手をする男爵に、ユリゼラが涼やかな声で淑女の礼を取る。この自然な流れで、「私は……」と本名を名乗りそうになり、慌てて「ダリと申します」とだけ答える。そう、下手に王族の名など名乗らぬほうがいい。
「ダリ殿は、騎士章でも持っておられるのか? あの盗賊のうち三人も一瞬に片付けたと聞いています。それほどの腕をどこで鍛えられたのか……」
「いえ、騎士章などは持っておりません。私の友などは、私などよりずっと強い者が何人もおりましたし。昨日のことも、運が良かっただけです」
そう言って微笑み、男爵の手から解放されて、ようやくゼタに括りつけていた布を取り、ユリゼラに渡す。
「今朝、散歩をしていたら見つけましたので」
「まあ……! 気に入っていたのです。見つけてくださってありがとうございます」
「いいえ。足の具合は」




