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Ⅱ レジエントーⅶ

「ああ……それで姫さんが狙われてるってことかあ。色好みらしいしな」

「実際、ユリゼラ姫に話を聞いたところによると、襲われたところを助けられたらしいぜ」


「助けたそいつは?」

「名前も言わずに立ち去ったらしい」

「出来すぎだろ、そりゃ」


 ははは! と声高に笑う二人に、夕方のことがもう広まっているのかと感心する。ここの役人は、仕事も早いが口も軽いらしい。


 フィルセインとつながっている、というのはどこから出たものなのか。聞いてみたい気もしたが、彼らがしているのはあくまでも噂話だ。


 ハーシェルは最後の肉の塊を呑み込むと、勘定を払って次の店に行く。そこでも周囲の話に耳を立てながら酒を飲み、この街の情勢とフィルセインの動向に関する噂話などを仕入れてから、宿屋に戻った。


 旅の者も多く、街には活気があった。治安が良かったのも本当らしく、話の中心はここ最近現れた盗賊のことが一番のネタになっていた。


 ロムニア男爵はセルシア院の騎士団と連携を図り、討伐に乗り出してはいるものの、なかなかの手練れでうまくいかないとのことも。そしてどこの噂も、美姫と名高いユリゼラを欲しているとの推測がされていた。盗賊が襲ったのはどこも、ユリゼラが参加すると見られていた行事ばかりだというのがその根拠らしい。ロムニア男爵がセルシア騎士団の手を借りてまで討伐を果たそうとするのも、愛娘可愛さあってのことだというのだ。それに、この土地には「セルシアの枝(セル―ジャンノルディ)」が派遣されていないが、代わりをしているのがそのユリゼラだという。彼女を守ることは、セルシア院の騎士にとっても筋は外れないのだと、そういうことらしかった。


 美しいだけの噂だったが、ここに来てユリゼラの噂には教養が高く、知識も多方面に深いとの話が加わった。自分たちの「お姫様」に対して、そうあって欲しいという願望が混じったものだろうと思って聞いていたが、ハーシェルは少なくとも、その人気の高さは素晴らしいものだと感心する。実態はわからないが、表向きを整えられるだけでも大したものだ。


 寝返りを打ち、暗がりの中で床に散らかした地図を眺める。夜目の利くハーシェルにも、輪郭が捉えられる程度の見え方でしかないが、どこにも居場所などない気がした。自分のことを誰も知らない、それは今の自分を保護する絶好の環境だが、同時にハーシェルに孤独を教えた。見張りでもなんでも、必ず自分を見ていた人間がいたということは、幸せなことだったのだと。


 それに。


 セルシア院に出入りしていたときは、あの四人ばかりでなく、多くの騎士たちと馬鹿なこともした。セルシア院の中のことだから、王家の人間にことさら気を遣うことはしない。だからハーシェルも、一個人として受け入れられた。あの時間が、とてつもなく。


(楽しかった)


 愛おしいとすら、思える時間だ。

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