Ⅱ レジエントーⅵ
寝床の確保をしなければ。先程の場所に戻るのもいいが、なんだか間が抜けている。ひとりになりたいと思っていたが、野宿するには治安は悪そうだ。結局街に足を向け、宿屋を探すことにする。
厩舎の整った宿を見つけ、ハーシェルはそこに二、三日の逗留を決めた。ここで何をしようとも思わなかったが、次に行くなら情報を集めて行き先を決めたいと思ったからだ。
近隣の地図を買い集め、部屋中にばらまくように広げて眺める。どの場所のことも知識として知ってはいるが、実際に行ったことのない土地ばかりだ。事実、自分は王都から出たことなど数えるほどしかない。それも、セルシア騎士団の動きの中だけのこと。しかしあのときのことが、野宿をするにも怪我の手当てをするにも、狩りをするにも役立っている。
(将来を見透かしていたのかね、俺は)
こんな事態に陥ることなど、考えもしなかったが。
周囲にしかつめらしい顔をされながら体得したことが、今、自分を生かしている。
本当にひとりになったことも、これが初めてだ。街の人間も、先程のユリゼラと思しき女も、ハーシェルに気が付きはしない。最も王位継承権に遠い王子の存在など、認知されているはずもなかった。それも、今となっては身を隠すのに好都合だ。
(それにしても)
小さかったな、とハーシェルは思い返す。末の姫とはいえ、結婚適齢期と聞いている。表情は大人びていたが、ずいぶんと小柄だった。
(魔性、かぁ?)
顔色も悪く、怯えていた彼女に色気などは微塵も感じなかったが。
マルヴィン一行に遭ったら、そのときは教えてやろう。確かに綺麗な「子供」だった、と。
空腹を覚え、ハーシェルは街に繰り出す。一人で適当な店に入り、酒を飲みながら周囲の噂話に耳を傾ける。
「……てことは、盗賊の心配はもうないってことか?」
「いいや。吏員が調べたところ、首領じゃないらしいがな。ただ、中央から長官が派遣されてくるという噂もある」
「なんでだ? ここのセルシア騎士も、生半可な腕じゃないだろう」
「ほうぼうを荒らしまわってた重要参考人らしい。フィルセイン公爵とつながりもあるとかでさ」




