Ⅱ レジエントーⅴ
測りかねているところに、もう一騎が挟むように現れた。槍を受け流し、体を逸らして同士打ちに導く。その間にハーシェルはゼタを全速力で走らせ、逃げ切った。
「お前は男爵令嬢なのか?」
城を示されたときにやはりかと得心したことを問えば、ゼタにしがみつくようにしている女が、顔を少しだけうしろに向けて頷いた。
「はい……大変なご迷惑をおかけしてしまい……」
「詫びはいい。あと少し口を閉じてろ。舌咬むぞ」
彼女の容姿なら、盗賊が欲しがるはずだ。貴族の姫は、高く売れると聞く。この美貌ならなおのことだろう。
全速力で城まで駆けると、慌てふためいていた家の者たち総出の出迎えに会う。
「姫様~‼」
降ろした彼女に取り縋り、安堵の涙を流す女が複数いて、ハーシェルは笑った。あんなところに一人でいたから、どんな放蕩を繰り返しているのかと思ったが、どうやら我儘なお嬢様という訳でもないらしい。遠巻きにしている男たちも、ほっとしている。こんなに慕われている姫を助けることが出来て良かったと、自分も心から安堵した。
「ゼタ、お前もご苦労だったな」
戻ろう、と踵を返したとき、「お待ちくださいませ」と呼び止められる。
「お嬢様を助けてくださいまして、ありがとうございました」
「いえ。たまたま通りすがっただけなので。足に怪我をしておいでです。応急処置はしていますが、きちんと消毒したほうがいい。では、私はこれで」
ひらりと愛馬に跨り、出て行こうとするところを助けた女が呼び止める。
「どうかお待ちになってください! せめて何かお礼をさせていただきたいのです」
「そういうのは別にいい。それより、あんまりふらふら出歩かないほうがいいぞ。じゃあな」
真剣なまなざしで送られるのは、悪くない。
それなりの格好をさせたら、それはそれは美しく仕上がるだろう。
(名前くらい聞いておけばよかったな)
五人も娘がいると聞いている。だがあれは多分。
(末のユリゼラ、なんだろうな)
黄金の髪に琥珀の瞳。雪を欺く白い肌、麗しの果実のような唇に鈴の音の声。吟遊詩人もうまいこと謳うもんだと、マルヴィン一行に教わった歌を思いだす。
顔色は悪く唇も紫色だったが、見事な金色の髪に琥珀の瞳はきらきらしく、震えていたが声も美しかった。おそらく、あれが本人だろう。どんな事情であの場にいたのかはわからないが、捕まらずに良かった。
「さてと」




