Ⅱ レジエントーⅲ
ゼタを連れ、川に沿って歩き出す。少し草葉のあるところの方が眠りやすいかと下流に行くと。
(ん……?)
茂みに隠れるようにしてうずくまる、女を見つけた。
「どうした? 具合でも悪いのか」
放っておくのも気が引けて、ハーシェルは一応声をかける。親切の押し売りをするつもりはないが、本当に困っているなら見過ごすのも後味が悪い。それに、一見すると小さくて、まだ子供のようにも見えた。
ピクリと肩を動かし、恐る恐る振り向いた彼女は。
(お)
(美人じゃん)
王都でもなかなかお目に掛かれないほどの、清楚さが零れ出るような美しい顔立ちをしていた。
「攫おうとか思っていないから安心しろ。具合が悪いなら、家か病院まで送ってやるが」
端麗な顔には怯えの表情も見え、白すぎる顔色は明らかな不調を訴えている。
「ご親切に、ありがとうございます……」
わずかに震える声で、けれどしっかりとそう答えると、彼女は少し迷ったようだが、ハーシェルをまっすぐに見上げて言った。
「家に、送っていただけますか。足を、痛めてしまって。手を、貸していただいても?」
身なりは質素だが、彼女のその物言いは貴族だ。お嬢様がお忍びで無理でもしたのかと、ハーシェルは彼女に近付いた。
「失礼を」
ドレスの裾を少しだけめくり、これは痛そうだと思わず顔をしかめる。片方の足は靴がなく、擦り傷と切り傷で血が滲んでいる。そして赤く腫れあがり、少し触れるだけでも激痛が走りそうだ。
「どこかから落ちたのか? とりあえず、汚れを落として止血だけしたいんだが、いいか?」
青い顔のまま彼女は頷き、「お願いします」と小さな声で言った。
ハーシェルは川でハンカチを濡らし、彼女のドレスをそっとめくると、右膝から足首にかけての傷を慎重に拭う。悲鳴でもあげられたら面倒だな、と思っていたが、蒼白な顔はじっと耐えてのけた。細かな石の破片なども取り除き、広い傷口を綺麗にしたところで、新しい布を裂き、巻き上げて止血する。




