Ⅱ レジエント─ⅱ
ハーシェルは、与えられたものの中で生きてきた。王位につかない王子でも、王家の体面を守るための生き方を教えられる。死にそうなほど退屈で、いる意味さえ見いだせないほどの「教え」に逆らい、ハーシェルはセルシアを守る騎士団に潜り込むようになった。それには、「ご学友」として育ったガゼルとクレイセスがそこにいたから、という理由にすぎないが、ハーシェルの立場を理解してくれてもいた彼らといるのは楽でもあったし、剣の腕を磨くのは純粋に楽しかった。サンドラとクロシェも騎士団入りし、あっという間に騎士章を取ると、あれよあれよという間に、その頭脳と腕とで昇進していった。王立騎士団とは違い、セルシア院の騎士団は腕っぷしと頭脳とが純粋に評価されていく。王統院の王立騎士団は、昇進出来るのは貴族と限られている。セルシア院の風通しの良さが、ハーシェルの性格にも合っていた。
(俺なら)
(どこまで上がっていけたのかな)
ハーシェルは王族として、セルシア院に身を置くことが許されていない。臣籍に降下でもすれば、彼らと同じように腕や知識を競い合う土壌に立てたのだろうが、それは許されなかった。
何かとんでもない道楽を覚えられるよりはと、いつの頃からかセルシア院に出入りすることは咎められなくなった。ハーシェルは友人たちと切磋琢磨することに一所懸命で、ほかに「悪さ」と呼べるほどの悪事を覚えることもなかったからだ。今はその腕が、自分を守ってくれている。
(あいつらのおかげかな)
一度も勝てたためしのない腹心たち。彼らが強かったから、負けたくなくて、せめて追いつきたくて、剣術に打ち込んだ。政情不安になってからは、彼らもずいぶん心配してくれていたが。
クレイセスとガゼルには手紙を送ったが、届いただろうか。そして別れの挨拶のつもりで送ったそれは、きちんと処分されただろうか。自分と仲が良かった連中のところには、あらかた探りが入るだろうことを予想して、読んだら燃やせと書いておいたが。
(クレイセスとか律儀だからなあ)
ひょっとすると、残しているかもしれない。
(いや)
(律儀に燃やすか?)
ガゼルなどは、あっさりと燃やしてしまいそうだが。
これからのことを考えるつもりが、結局何も思い浮かばず、寝るのにいい場所を探そうと起き上がる。宿屋でも良かったが、今はひとりでいたい気分だ。




