Ⅱ レジエント─ⅰ
マルヴィン一行とは契約通り、レジエントに着いたところで別れた。彼らはこれから春になるまで、この領内を巡りながら商いをしていくらしい。別れ際には老若問わず、特に女性たちの残念がる声が盛大に上がった。年の近い男たちも別れを惜しんでくれて、ハーシェルもみずから決めたこととはいえ、若干の淋しさも覚えていた。しかし、いつまでも彼らと一緒にいて、迷惑をかけないとも限らない。王の追手がもしも自分を見つけたなら、そのときはどうなることか。これ以上のかかわりを持たないことが、彼らのためだった。
(ひとりになるのは)
(淋しいものだな)
清流の傍で馬を降り、水を飲ませて自分も休む。
これまで当たり前に会話をできた人間がいなくなるというのは、ハーシェルに改めて孤独を感じさせた。
「ゼタ、俺、これからどうするかとりあえず考えないとな」
愛馬はじっとハーシェルを見ると、耳を舐めた。
「よせ、くすぐったい」
セルシア騎士団で生まれたのを、仔馬の頃から世話をしてきた。茶目っ気のある性格をしている、とハーシェルは思う。
草がやわらかく茂る場所に寝ころび、ぼんやりと空を見上げる。薄雲がレースのように青を覆い、優しい色を帯びていた。
これから先、どうするか。
ずっと逃げ続けるのか?
自分がいなくなれば、王も手元に一人しかいなくなった息子を顧みるだろう。
以前は繊細ともいえた父が、徐々に暴君へと変わっていった理由が、ハーシェルには皆目わからなかった。王と息子とはいえ、近しく接する機会などほとんどないのだ。皇太子として、同じように政務を担う立場にあった兄ならば、何か知っていたのかもしれないが。
(俺もそのうち、謎の死を遂げるのかな)
ハーシェルが城を出て間もなく、城を追われた兄二人が、それぞれの地で暗殺されたらしいと噂に聞いた。噂、だから逃げ切れた可能性も棄ててはいない。そして王宮に残っている三人目の兄が、今はどうしているのかはわからない。しかし、平穏に暮らしているとは考えにくかった。
(どうすべきなんだ)
(どうしたいんだ?)
旅の間中考えていた。
義務と、己の希望。




