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Ⅰ 旅立ち― ⅹ

「そうでもない。実際、ダリの腕には驚かされた。俺の見立て以上だった。でもそれ以上に、ダリ自身に興味がある。目的があるらしいが、その目的が終えたら、俺たちの商隊に加わる気はないか」


 いつもなら、茶化したような物言いしかしない男。それが今は真剣なまなざしをくれている。ハーシェルは(おのれ)自身を認められているのだと、胸が熱くなった。


 しかし。


「話は、ありがたいと思う。でも悪い。俺の目的は、それほど早く手に入れられるとは思えないんだ」

「俺たちで手伝えることはないか?」

「それは商売か?」

「ははは! そうだな。場合によってはいただこうかな」

「じゃあ頼まねぇよ」


 はっと笑ったハーシェルに、マルヴィンはぽんと肩を叩いて言った。


「出来ることがあるなら、商売抜きで力になる。ダリは、命の恩人だからな。お前の腕で今の報酬は破格の安値だ。先だっての賊だって、お前じゃなかったら女の一人や二人、どうにかされていてもおかしくなかった。何の犠牲も代償も払わずに旅が出来たのは、初めてなんだ。それに、お前は馴染んでくれた」


「ほかの護衛で雇った奴らは、馴染まなかったのか?」

「ああ。一度なんかは到着する前の日に、売り上げを盗んで姿を(くら)まされた。それに、腕がいいと気位が高いのが多くてね。商売人は低く見られる」


「マルヴィンの見立て、どうやら腕っ節だけなんじゃないか? そもそもの人を見る目が甘いんだろ」

「言うじゃねえか」

 からからと笑い、マルヴィンは続ける。


「だからこそ、お前のような人間が仲間になってくれたら嬉しいと思ったんだ」

 その言葉が本心だと、空気が告げる。偽りではないと、十分に信じられた。しかしハーシェルは静かに微笑み、首を横に振った。


「俺には、俺のやるべきことがあるんだ。それは何年かかるかわからない。でもそうだな。どこかで行き合ったら、また護衛で雇ってくれ。結構居心地良かったし」

「……そうか」

 マルヴィンは残念そうに嘆息すると、念を押すように言った。


「まあ、ダリは商人て感じじゃねえしな。でも、護衛を生業(なりわい)とする連中とも違う。どんな事情があるかは知らないが、お前は多分、貴族なんだろう? それで旅慣れてる感じもよくわからないが、ひょっとするとどっかの騎士章なんか持ってたりもするのかな。俺たちは、お前に感謝してるんだ。いつかその気になったらいつでも来い。助けがいるなら、俺たちは必ず力になる」


 そのまなざしの強さに、ハーシェルは深く頷いた。

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