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「怨霊……」
「こ、これが……」
おぞましい姿だった。
腐敗した人間の生首の、両耳の穴から腕が一対突き出ている。それらは生え際から手首まで針金細工を連想させるほど細く、肘のあたりで『Z』の字のような曲がり方をしている。そして腕とは対照的に、手の部分は通常の三倍以上肥大化しており、足の役割を果たしていた。
ソイツの耳元まで裂けた口が大きく開かれるのと、僕が双葉さんを背後に隠れさせるのはほとんど同時だった。
ソイツの口から、先端が刃状になった舌が飛び出してくるのと、僕が鞄から刃渡り四十センチ超えの大型シースナイフを取り出したのも(当然銃刀法の規定に抵触するため、鞄にはこれをうまく隠すための偽装が施されている)、ほぼ同時。
邪魔な鞄はアスファルトに落とす。
――現実架装・基礎式、一章三節、“纏”。
除霊を前提とし、霊子操作や霊体干渉を体系化した術――現実架装。その基礎の一つを使い、僕は自身の霊気をナイフの刃に纏わせた。
直後、怨霊の舌とナイフが衝突する。
思わぬ防御に警戒したのか、怨霊が後方に飛び退いて僕から距離を取った。
「な? 実在するだろ……取り敢えず僕の家まで一人で逃げろ、双葉さん」
後方の双葉さんに声をかけるも、彼女はどうやら腰を抜かしていて、声も出せないようだ。
……勘弁してくれ。
僕は前方の敵を見据え、シースナイフを構える。
そして、自分を鼓舞するように、無意識に独り言が一言、零れる。
「……怖くないっ」
「――――え?」
直後、僕は疾駆した。
手の震えを無理矢理に押さえつけて。
勝負を勝つ方向で決めるなら、これ以上時間は掛けられない。
恐怖の渦はもう、首元までせり上がってきている気がする。それに飲み込まれてしまえば、たちまち身体の制御を奪われてしまうだろう。
鼓動が、心臓と密着しているのかと思うほど近くに感じる。
……大丈夫、この距離なら双葉さんに攻撃は届かない。奴が下手に近付いてくる前に、こちらから向こうの射程に飛び込んでしまった方が良い。
まずはあの長い舌を防ぎ、そのまま一気に走りこんで本体の生首を両断する――直後に訪れる戦闘のイメージを身体に刻み付ける。
見たところ、敵には舌以外に大きな脅威は見当たらない……大丈夫だ。
刹那、怨霊の舌がうねり――僕のナイフに衝撃が走る。金属音が迸り、唾液と共に舌は弾き飛んだ。
敵の攻撃をどうにかいなすことに成功した僕は、速度を緩めず走り続ける。Uターンしてきた舌に追い付かれるよりは速いはずだ。
だが、怨霊の本体に刃が届こうという段階で――その口から二本目の舌が飛び出してきた。
「――ッ!?」
再び、空間に金属音が拡散する。
すんでのところで攻撃は防いだが、体制が崩れ、後退を余儀なくされた。
二又になった怨霊の舌が、僕を連続で襲う。
……時間切れだった。
僕は足の先からつむじまで恐怖に覆われてしまっていた。
金属音が間を空けずに木霊する中、思考が混乱していく。
何度目だろうか――僕はまた恐怖に屈していた。
もう、攻撃を仕掛けるべきタイミングも計れない。
舌の攻撃を受ける度、腕のしびれが増していく。
そして――いよいよもう限界かと思われた、その時。
「──現実架装・戦式、五章八節、“烈線舞々(レッセンマイブ)”」
よく知った声が住宅街に響いた。
直後、霊子によって構成された複数の糸が出現し、怨霊に巻き付く。
怨霊は宙に釣り上げられ……一瞬静止したかと思うと、各部位ごとに解体された。
血が迸ったのは僅か一瞬のことで、すぐにその残骸は霧散して消えていった。
安堵と同時に、僕の身体には別種の緊張が走る。
「葛葉……」
現れたのは、僕と同じ高校の制服を身にまとった中肉中背の少女。
肩まである黒髪をポニーテイルに纏めており、形の良い切れ長の目が特徴的。
その円らな瞳が、睨めつけるようにこちらを向いていた。
「相変わらずね、兄さん」
「い、妹さん!?」
素直に驚きの声を上げる双葉さん──鬱陶しいので今は意識から除外する。
僕は、おそらく引きつっているであろう笑顔をできるだけ自然なものにしようと、四苦八苦しながら妹との会話を試みた。
「そ、その……助かったよ。危ないところを──」
「勘違いしないで。わたしは除霊師の義務を全うしただけよ。それに、あれは元々わたしが追っていた怨霊だし」
久しぶりに会っても相変わらずの、軽蔑が染み込んだ声。
「そ、そっか……ごめん…………」
つい反射的に謝罪の言葉が口を出ると、樟葉は露骨にため息をついた。
「相変わらず、馬鹿の一つ覚えみたいに何でもかんでも謝れば良いと思ってるのね。会うたび情けなくなってるみたいで身内として恥ずかしいわ」
言葉を浴びせられるたびに、腹の底が重たくなっていく。
そしてふと、その中に違和感を覚えた。
『元々わたしが追っていた怨霊』と樟葉は言った。しかし彼女ほどの除霊師が、あの程度の怨霊を取り逃がすとも思えないのだ。
ということはまさか、僕の反応を見るために怨霊をこちらに誘導したとでもいうのだろうか。
また、僕を試すために?
そして……僕は再び、彼女を失望させたと。そういうことか?
真偽は不明だが……そこまで考えると自己嫌悪のあまり頭痛がしてきた。
「……あなたも気の毒ね。こんな腰抜けが担当だなんて」
「え?」
ふいに樟葉が、気まずそうに浮遊する双葉さんに声をかけた。
「"アストラル局”からしたら"順番待ち"浮遊霊の身の安全なんて、本気でどうでも良いということみたいね……」
心底憐れむような樟葉の口調に、双葉さんもいよいよ困惑の表情を深めていく。
「アストラル局……? 順番待ち……? 何ですかそれ」
いやそっちかよ。
「嘘……そんな根本的な説明もしていないの?」
「されてないです」
「いやしたよ僕も湯ノ沢先生も! 聞いてなかっただろ君!
アストラル局っていうのは霊界関連の事案を統括する政府の機関で、“順番待ち”っていうのは──」
「あなたみたいな立場の浮遊霊のことよ」
僕の説明の先を樟葉が引き継ぐ。
「“アストラル局”には浮遊霊を保護し、成仏をサポートするような設備が整っているけれど……一日の死者の数は膨大であるため、その全てをケアすることはできないわ。すると当然、成仏する見込みの高い者が優先される。そうでない浮遊霊は、俗に“順番待ち”と揶揄され、出来の悪いカウンセラーや護衛が付けられて、空きが来るの延々待たされるの」
「それが、わたし……」
今さらのように自分の現状を理解する双葉さん。
「そうよ」
「じ、じゃあ、わたしってあんまり良くない立場にいるんですね……」
「そうね。空きを待っている間に未練を拗らせて怨霊化する例もあるというくらいだから、決して良いとは言えない。その場合は担当の除霊師に祓われるみたいだし。“成りたて”の怨霊は例外なく、兄さん程度でも殺せるくらいには弱いから」
樟葉が滔々と説明を終えると、双葉さんはそれとは対照的に、場違いにも目を輝かせだした。
「え、てことは……自分が怨霊になれば、除霊師さんに殺してもらえるってことですよね!? 盲点でした!」
「彼女は何を言っているの?」
さすがに困惑した樟葉がこちらに疑問を向けてくる。僕は言葉を選んで、かいつまんで説明を試みた。
「…………つまり、その……この子は転生するのを嫌がってるんだ」
「ふうん? ……そうなの。そういう人もいるのね……」と、納得しているのかしていないのだか分からない様子で頷く樟葉。「……でも、それはそれとして……あなたさっきの見てたでしょう? あんな化け物に変化することを許容できるの?」
「あ。……それは盲点でした」
君は盲点が多すぎるよ。
樟葉は呆れたとばかりに小さな溜め息をつくと、再度口を開いた。
「それより、あなたは自分が怨霊に襲われる危険を心配した方が良いんじゃないかしら」
「……と、いうと?」
双葉さんによる要領を得ないリアクションを受けて、樟葉は二度目の溜め息を発する。
「……良い、浮遊霊さん? さっきの戦いからも分かるように、わたしの兄に『護衛』なんていう役目は果たせないわ」
再び、冷酷な軽蔑の気配が、殺気のように僕へと向けられた。肩が強ばる。
「この男は、除霊師なんて名乗っているけど、怨霊が怖くて戦場から逃げた恥知らずなのよ」
その瞬間、あの日の記憶の全てが凝縮され、僕の脳天を高速で掠めたように感じた。
「樟葉ッ!!」
直後、脊椎反射のように無意識に妹の名前を叫んでいた。
「黙りなさい。『それ以上言わないで』なんてあなたに言う権利はないから」
今の僕の表情を言葉で代弁され、すぐに否定される。
何も言い返すことはできなかった──できるはずがないのだ。
逃げ道を探すようにあらぬ方に視線が泳ぐ。気付けば骨が軋むほど両の拳を握り締めている。自分の身体の制御を失ったように。
視界の端──樟葉が口を開けてしまう。
「この男は、目の前で両親が怨霊に殺されているにも関わらず、恐怖に負けて逃げ出した。そしてその後は、下級の怨霊との戦闘すら怖がるようになってしまったの」
僕の過去なんて要約すれば一瞬のことだった。
首筋に不快な感触をした何かが張り付いている気がした。
自身の体温を殊更強く意識する──焼けるほど熱いと感じ、それが収まるよりも前に強烈な悪寒が訪れた。
樟葉がまた言葉を継ぐ。
「あなたを護衛しているのは、とんだ人でなしのクズよ」
***
樟葉が去った後。もはや歩く気力すらなくなった僕は近くの公園に入り、ベタなことにブランコに座って項垂れていた。
傍らには当然のように双葉さんが漂っていて、双方何も話すことはない。
何だか、授業中に皆の前で先生から怒られたときのような気まずさがあった。
「……………………」
「……………………」
そんな重たい空気に耐えかねてか。
「……みっともなかっただろ。妹にあんなこと言われて」
やがて僕は、半ば無意識に口を開いてしまう。
こんな台詞を言う方がよほどみっともなくなるということに思い至った頃にはもう手遅れだった。
「……そんなことないですよ」
少し間を置いて紋切り型のフォローが返ってきた頃には少し驚くと共に、より一層自分が情けなくなった。
この子にすら気を遣わせてしまった。
だが、僕の自己憐憫はまだ止まらない。
「情けないよな……でも事実だからしょうがない。樟葉が言ったことはすべて本当だ。僕は家族を見捨てたんだよ。引いたでしょ正直?」
「そんなことないですってば」
「いや。あんなみじめな姿見て引かないはずがないね]
「引いてないですって」
「除霊師のくせに怨霊と戦うのが怖いなんて、バカみたいだろ?」
「そんなことな──」
「どうせ僕はカスだよ」
「あーもう!! そんなことないって言ってるじゃないですか鬱陶しい!!」
そこで、結構な声量の怒鳴り声が、僕の言葉を遮った。
「それとも何ですか『はい』って言ってもらいたいんですか!? 何がしたいんですかあなた!?」
僕は双葉さんにブチキレられていた。
ちょっと意外だった。
「……ご、ごめん」
ほとんど何も考えず、反射的に謝罪の意を口にしてしまう。
「マジで面倒くさいです発言のすべてが鬱陶しいです慰めてほしいの丸見えでウザいです!」
……凄い。いつも僕が思ってるのと全く同じこと言われてる。
「……凄い。いつも僕が思ってるのと全く同じこと言われてる。……あ」
ヤバい声に出てた。
「何をう!? 幽霊パーンチ!」
怒声と同時に肩に鈍い衝撃が走る。
「痛った!!」
数秒後、年下の女子に肩パンされたのだと理解した。
「殴りますよ!?」
「殴った後に言う台詞じゃないよねそれ!?」
結構ガチでジンジンするんですけど。
しかし僕の抗議は無視され、
「……とにかく、あれくらいで引きませんよ。わたしを何だと思ってるんですか自殺者ですよ? 現実逃避に関してはプロ並みなんですからマジ舐めないでください」
「胸張んなや」
双葉さんは何事もなかったかのように、何故かしたり顔で話を続けている。
「良いですか? わたしだって人のこと言えた義理じゃないんですから、わたしの前で自己嫌悪なんて感じる必要ないんですよ」
独特の慰め方をする双葉さん。
「……そうかな」
「わたしも、除霊師さんと同じです。人生逃げてばかり」
「……『同じ』、か」
そう言われると、何だか胸にモヤモヤが募る。焦燥感と不快感が混じったような不思議な感覚だ。
彼女は続ける。
「なんかわたしたち、意外と似た者同士だったんですねぇ」
モヤモヤが胸のあたりから喉元までせり上がってきた。
うーん……『似た者同士』、と来たか。
何だろう、そこまで言われると、それは──
「それは……嫌だな」
「今の流れでその反応はおかしくないですか!?」
いけない。思わずハッキリ言ってしまった。……いや、まあ良いか。もうここまで来たら全部言い切ってしまおう。
「確かに、君の意見は正しいかもしれない。今ので何で君を見てるとイライラするのか分かった気がするし」
「ハッキリ言いますね!!」
「僕が自分のことが嫌いで、かつ同族嫌悪も激しいからだ。このままだと君のことも嫌いになりそうだ」
「ハッキリ言いますね!! わたしは別に除霊師さんのこと嫌いじゃないのに!」
霊体の唾を飛ばしながら、怒りとも悲しみとも付かない感情を露にし続ける双葉さん。
同感だった。
「何ですかもう!」
よほど不満なのか、彼女は空中で地団駄を踏むような仕草を始める。
「……僕だって、できれば君のこと嫌いになりたくないよ」
だがその一言で、ご機嫌斜めな浮遊霊の表情は多少落ち着いたものに変わった。
「これから先何か月も、嫌いな人と一緒に過ごしたくなんてないからね」
最後まで言うと、地団駄は止み、少しだけ何かに納得したような眼差しを向けられる。
そして数秒の沈黙を挟んで、彼女は言った。
「なんかわたしたち、このままじゃ埒が飽きませんねぇ」
呆れと嘆きを足して二で割ったようなその台詞は、僕の気のせいじゃなければだが……今までよりほんの少し、ポジティブなニュアンスを含んで聞こえた。
「……本当にその通りだ。……ねえ、」
「何です?」
だから僕は思いきって、先ほどから何となく頭に浮かんでいたとある提案を口にしてみた。
「良い機会だし、お互いここらで少し変わる努力というのをしてみないか?」
言った後、何かの間が二拍ほど空いた。
「……本気で言ってます?」
そして彼女は訝しげに問うてくる。
「うん。『人の振り見て我が振り直せ』って言うしさ」
「努力って、具体的には?」
更なる問いに、僕は僅かに言葉を探す。
「……僕は、また怨霊と戦えるように特訓する。このまま妹だけ戦わせるのは正直嫌だ」
それはあの日からずっと、胸につかえていた本心だったはずだ。
「……できるんですか?」
双葉さんによる三度目の問いは、何かに怯えるような表情で発された。その様子を見て、まるで自分自身を説得しているかのような気分になった僕は、それ故にか、自然に言葉を続けることができた。
「できるかは分からないけど……変わる努力をしたい。努力もしないで不満だけぶちまけてる人がいかにダサいかって、散々見せつけられたからね」
「それわたしのこと言ってます?」
「他にいないでしょ」
「クッソブーメランじゃないですか!」
またまたキレ気味に反論してくる双葉さん。忙しい人だ。
僕は宥めるように言葉を継ぐ。
「分かってるよ。だから、君も努力するんだ」
「……わたしも?」
きょとんとした目で見つめられた。……いや、そういう話だったでしょうが。
仕方がないので、僕は控えめに説得を試みることにした。
「君だって、このままじゃまずいのは分かってるだろう? 選択肢は二つに一つ……成仏するか、絶望を募らせた結果怨霊になるかだ。さっきも話した通り、後者の場合は殺してあげられるけど――」
敢えてそれを言ってやると、案の定双葉さんの表情は曇った。
「あんな化け物になるのは、ごめんですね」
先ほど生で怨霊の姿を見たのが少しは効いていたのだろう。幸いにも彼女は即答してくれた。
「だよね。良かった」
「う~ん……成仏する努力かぁ」
けれどそれでも、彼女は空を見上げながら、思案げに呟く。
渋っているようにも見えるが……しかし選択肢が限られていることは当人も自覚しているのだし、もう一推しといったところだろう。
「ね? やるだけやってみようよ」僕はありきたりな例えで言葉の追撃をする。「サイコロを振る前から目の数は分からないんだし、希望がないわけじゃないでしょ」
すると彼女は、渋々といった様子ではあるが、顔の角度を戻して、再度僕を見た。
「まあ確かに、転生先がまた悲惨な人生である可能性も、百パーセントなわけじゃないですし……」
「そうそう。良いぞ良いぞ。そうやってポジティブに考えるのは良いことだ」
「幸せな人生が送れる可能性も、ゼロじゃないですし」
「良い調子良い調子」
「努力するのに大きなリスクがあるわけでもなし、減るもんでもなし」
「うんうん。良い調子」
「もし転生先で嫌なことがあったら、また自殺すれば良いですし」
「うんう……ん?」
何やら雲行きが──
「そうやって人生リセマラ繰り返してけば、いつかは幸せになれるかもしれないですしね」
「お前の死生観狂気の沙汰だよ!!」
普通に叫んでしまった。
だって……調子悪くなるの早すぎるんだもの!
いや悪いどころか最後の脱線絶望的すぎるんだもの!
「よし、分かりました。やるだけやってみますよ。成仏する努力」
「……後半絶対間違えてるけど…………まぁ、その気になってくれたから良いか」
……いや、本当に良いのか? 結論がカオス過ぎて僕にはちょっと判断が付かないかもしれない。明らかに道徳的に重要なラインをぶっちぎってる気がするし。
ともあれ、
「それで、具体的にはどうすれば良いのでしょう?」
一応は成仏の決意をしてくれたっぽい双葉さんから、当然の疑問を投げられる。
まあ僕はこれでも霊界に携わる者の端くれなので、ざっくりではあれどその辺の知識はあるつもりだ。
「そうだね……まずは、自分の未練が何なのかを知ることかな」僕は柄にもなく講釈を垂れる。「双葉さんさ、先生との面談のときはいつも『皆無です』なんて言ってるけどさ、本当はそんなことないはずなんだ。未練がないのならこの世にとどまっていられるはずがないし……自分が気づいていないだけで、何か心に引っかかっているものがあるはず。それを考えてみてよ」
僕はそう説明する。
あといい加減ブランコからも立ち上がっといた。
「……未練…………わたしの、未練……」
そして双葉さんは目を瞑ると、深く考え始めた。