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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役令嬢が転がり込んできた~同性だっていいじゃない平民落ちした悪役令嬢をメイドと一緒に愛してあげる~

作者: シャチ

あんまり深い設定はありません。

私がこの世界が生前やっていた乙女ゲームの世界だと気が付いたのは10歳のころ。

高熱を出し生死をさまよっている間に前世の記憶を思い出し、国名や陛下のお名前で気が付いた。

問題は、乙女ゲームの時間軸よりも少し前の時間に転生したこと。

攻略対象者やヒロインたちとは10歳の差をもって、この世界に転生したようだ。

私はゲームの世界線とは何一つ関係ない普通の貴族というポジションだった。

そのせいもあってか、すぐに「これは現実でちゃんと生きないといけない」とも思いなおすことができた。

それに見た目も生前の自分と同じで、黒髪のショートヘア、瞳の色は濃いグレー、可もなく不可もなくって感じの前世と同じ見た目だったので、現実に引き戻されたともいう。

貴族令嬢としてショートヘアはどうなのだと思ったが、この国には髪を伸ばさなければならない文化はないらしい。

むしろエクステなどで夜会では盛るそうだ。

きっとゲームの世界で、同じ時間軸で、今と同じ男爵令嬢として転生していたら舞い上がって現実を見ることができなかっただろう。

推しの王子や宰相候補たちを見てニヤニヤしたかったし、ヒロインちゃんとも友達になりたかった。


転生してから5年、私アンナ・ショコラ男爵令嬢は、男爵になった。

父から家督を譲られ、私が当主となったのだ。

貴族令嬢だったとはいえ、特に贅沢ができるわけでもなく、領地も持たない貧乏貴族。

父は仕事の引退と共に王宮勤めをやめ、母と共に隠居すると母の実家へ行ってしまった。

この国では女性でも家督が継げるとはいえ、瞬く間に両親は引退を決めて隠居してしまった。


引継がれた男爵家の家計簿は真っ赤だった。

”私を教育するための費用”であれば申し訳なかったなと思えただろうが、残されたのは父と母の贅沢の痕跡。

確かにちょっと良い食事をとっていたとは思っていたが、他にも宝石やドレスに礼服と身の丈を超えるものだったようだ。


女男爵となった私は、まず男爵家を立て直すことに注力した。

屋敷の不要な美術品をすべて売り払ったし、残されていたドレス礼服に宝石、それに自分のドレスについても不要なものは下取りに出した。

20歳になった私には数着のお気に入りのドレスがあれば十分だ。

男爵家なので自らお茶会を開くことはないし、呼ばれるのは数人の友達の子爵家程度、問題ない。


また、メイドも知り合いである子爵家や伯爵家への推薦状を渡し、1人を残し解雇した。

一人だけ残ったメイドのサラは、ずっと私の専属をしてくれていた子で、屋敷のことは知り尽くしている。

料理出来る為、料理人も解雇した。


次に取り掛かったのが、屋敷の売却。男爵家として我が家はデカすぎる。

庭付きの屋敷には客間を合わせて30もの部屋があり、厨房も大きく無駄だ。

売却先は、フォンテーヌ子爵。

彼は交易で国に貢献したため、最近子爵に陞爵(しょうしゃく)された。

もともと住んでいたのは貴族としては小さな家。

客間を合わせた部屋数は5、そのほかにダイニングとキッチンがある。庭はない。


そこで、フォンテーヌ子爵に、屋敷を交換することを提案したのだ。

こういった貴族間の屋敷のやり取りはそれなりにある。

陞爵などで広い屋敷が必要になった貴族に、地方貴族で資金繰りや王都のタウンハウスを売り払いたいものなどが交渉をするからだ。

フォンテーヌ子爵の娘が生み出す新製品が飛ぶように売れており、人手が増えたことで屋敷が手狭になっていたそうだ。

お互いに渡りに船と商談が成立した。

このフォンテーヌ子爵の娘が、何を隠そうゲーム本編のヒロインちゃんである。

ゲーム中で子爵家は小さいままだったが、私が歴史を少し変えてしまった。

だが、自分の生活がかかっているのだ、それぐらいは許してほしい。

ちなみに、ヒロインちゃんは転生者ではない。

本編中でも本当に自力でいろいろなものを開発しているのだ。

主に下着とか。

私はありがたく愛用させていただいている。安いし前世の物に近く楽なので。

屋敷交換の取引で、敷地面積差分の利益を確保した私は、借金を全額返済した。

ショコラ男爵家の財政は改善した。


サラと二人で快適に暮らせる屋敷が手に入り、これで安らかに生活できると思っていた。

そんな折、王宮の仕事が忙しくなった。

私の仕事は、王家の代筆。

王家が貴族向けに発表する御触れなどを私たちは手分けして書く。

例えば王妃様が開くお茶会の準備のため、参加者への案内状の代筆送付などが主な仕事。

王族の方が決めた参加者に対して、案内状を出すのだ。

私は文字だけは綺麗に書ける。

活版印刷が発明されると仕事がなくなるなとは思っているので、今のうちに別の仕事をとは思っているが…


忙しくなった理由は、王太子殿下が10歳となり、婚約者候補を選定しているため頻繁にお茶会が度々開かれる。

お茶会の招待状の中には、ゲーム本編の悪役令嬢マリアベル・ナーシサス公爵令嬢宛の物もあった。

何事もなく婚約者になるのだろうか?


後日結果が分かった。

「王子殿下の婚約者がナーシサス公爵家のマリアベル嬢となった」

さっきからこの文を何十回と書いている。

ゲーム進行通りに進んでいるらしい。

シナリオ通り話が進むと、5年後にマリアベル嬢は、断罪ざまぁされて平民落ちする。


婚約者の発表から4年、王子殿下が王太子殿下となった。

マリアベル嬢は王妃教育の傍ら”王家の予算”でお茶会を開かれたりしている。

仕事なので案内状を書いているが、これ問題があるのでは?というやつだ。

ゲーム本編でもヒロインちゃんにちょっかいをかけ嫌がらせをしていたが、その内容自体は高位貴族の令嬢と考えると、手ぬるいものだったが、なんで平民落ちしたのだろうと疑問だったのだ。

まだ婚約者なので”王太子妃”ではないはずだが…止められていないということは、これらを理由に断罪されるのかもしれない。


それから1年、王太子殿下が貴族学校を卒業した。

卒業パーティーでマリアベル嬢は断罪され、王家の予算を無駄に使ったことや学校での振る舞いなどにより、公爵家から廃嫡されて平民落ちとなったそうだ。

その後、ナーシサス公爵は国家反逆罪まで適用されて廃爵となった。

ここ数日はずっと公爵家取りつぶしと婚約者候補の選びなおしの連絡ばかり書いていた。

きっと最近王国の方針を蔑ろにする公爵家をつぶす狙いがあったようで、マリアベル嬢は利用されたようだ。

本編でも、マリアベルが断罪された後、公爵家は取り潰された。

ゲームを遊んでいた時は気にしなかったが、令嬢一人の粗相で公爵家が取りつぶしなどおかしいと転生してから思っていた。

何らかの政治的なものを感じる。


で、家に帰ってみると、サラが困ったように出迎えてくれた。

「どうしたの?サラ」

「アンナ様それが…ですね…」

「どうしたの?猫でも拾ってきたような顔して」

「猫…ならいいのですが行き倒れていたご令嬢を拾いまして」

「は?」

「現在は客間でお休みいただいております」


なんでも、我が家の勝手口の前で倒れていたらしい。

身につけていた高級そうなドレスは、薄汚れていたが、明らかに高位貴族が着るようなもの。

今夜の夕食の買い物に行こうと外に出たサラによって発見された。

汚れたドレスを脱がせ、体を拭き、寝間着を着せ客間に寝かしてあるという。

「とりあえず、様子を見てから夕食にしましょう」

「はい、アンナ様」

客間へ行きそっとドアを開けると、確かに一人の少女が眠っていた。

呼吸は落ち着いており、特に心配することはなさそうである。

病気という感じもない。

年のころは14~6ぐらいだろうか?今年デビュタントいう感じだ。

少々くすんだ金髪、整った顔立ち。間違いなく高位貴族だと思うのだが…

「なんで行き倒れ?」

「身分証などはなく、何方かわからない状態です」

「とりあえず貴族年鑑を取りに行きましょう」

二人で書斎に行き、貴族年鑑を紐解く。

余計な予算はない我が家だが、貴族年鑑だけは毎年更新している。

仕事柄絶対に必要な本だからだ。

「えーと…あぁ…えぇぇ」

「どうしたのですか?変な声を出して…」

「たぶん、マリアベル・ナーシサス嬢だわ」

「え、断罪されて平民落ちしたという?」

「間違いないわね、ほら、左目の下に黒子があるでしょ?髪の色はあっているし、目覚めればわかるとは思うけど、えらいものを拾ったわね…サラ」

「まさか元公爵令嬢が勝手口に転がっているとは思いませんでしたので」

「まぁ倒れている人を見捨てるのは気が引けるものね…さてどうしようか?」

マリアベルはすでに罰も与えられており、刑が確定して執行されているので、法的には何の問題もない、平民なので、どこにいようと家主の許可があれば、それこそ貴族の屋敷にいてもいい。

国外追放だとか、打ち首だとかで匿うのは問題だろうが、ショコラ家に彼女がいたからと言って問題とはならないはず。

であれば、目覚めた彼女がどうしたいか聞いて、判断しよう。


サラと二人とりあえず夕飯をたべ、再度様子を見に行ったところ、彼女は目を覚ました。

「お加減はいかがです?マリアベル嬢?」

「・・・えーと、どなたでしょうか?」

「申し遅れました、アンナ・ショコラ男爵です」

「男爵…様ですか。はい、マリアベル・ナーs…いえ、わたくしはマリアベルです」

「あぁやっぱりかぁ…」

目を覚ました彼女の瞳の色も確認ができた。

そのルビーのような赤色から間違いない。本人からも確認が取れたし。

あー…悪役令嬢を拾ってしまったかサラよ。

「申し訳ありません、ショコラ様すぐに出ていきますので…」

「お待ちなさい。出て行って、行く当てはありますの?」

「…っ!」

そんな苦虫をつぶされたような顔をすると可愛いのが台無しですよ。

悪役令嬢キャラだが、今はそれほどきつい顔はしていない。

きっとメイクでゲームの悪役令嬢のように見せていたのだろう。素の顔はとてもかわいらしい。

しばらく無言の時が流れ、彼女のお腹から”くぅ~”とかわいらしい音がした。

「我が家の裏で倒れていたところをサラが助けたのですが…何か召し上がりますか?」

真っ赤になったマリアベルは、随分とかわいらしかった。

彼女は私の問いにコクコクと首を縦に振った。

「サラ、スープの残りはあるかしら?」

「すぐご用意いたしますね」

そういって、サラは部屋を出て行った。

「ひとまず食事をとって、これまでのことを話していただけませんか」

「えぇ、貴族の方ならすでにご存じかもしれませんが…」


スープを食べ終えたマリアベル嬢から聞いた話は、ぶっちゃけ楽しかった。

乙女ゲームのシナリオでは、悪役令嬢マリアベルについて語られていなかったからだ。

彼女、我儘放題に育ったとかそういった感じでは実はなかった。

両親からは将来の王妃になるべく英才教育を叩き込まれ、何をするにも父の言いなりという人生だったらしい。

学園での行いが悪いという話も、父親から「学校でくだらない勉強をするぐらいなら自分を磨きなさい」と”命令”されていたためで、下位貴族への仕打ちに関しても、父親の息がかかった取り巻き貴族令嬢たちが行っていたことだったらしい。

高位貴族の令嬢として、親の傀儡というのは問題だと思うが…

で、彼女が傀儡であることを逆手に取り、王宮で好きにさせていた結果が、度重なる王家でのお茶会だったようだ。

「王子の婚約者なのだから、王宮でお茶会を開いて何が悪いことがある」とは彼女の父親の発言。

それを真に受け、止められることもなかったため、言われるがまま頻繁にお茶会を開いていたらしい。


「もう少しでも、自分で考えて行動していれば、こんなことにはならなかったんじゃないかと…」

「ところで、マリアベル嬢は殿下をお好きだったのですか?」

「…いいえ、そこに愛などありませんでした。言われるがまま婚約者をしていただけです」

「そうですか…ナーシサス公爵家が国家反逆でお取りつぶしになったのはご存じで?」

「え…知りません。そのようなことになっていたのですか?」

本当に知らなかったようで、彼女が震えはじめる。

「ご存じないのか…もしかするとマリアベル嬢が平民になってからの沙汰かもしれませんもんね。

 マリアベル嬢のせいではありません。

 国家方針を無視した軍拡、仮想敵国との交易拡大、贈賄、買収。

そして、マリアベル嬢を”悪用”しての王家の傀儡化を狙っていたとして取りつぶしです。

 ある意味、御父上の謀略の駒でしかなかったマリアベル嬢は、すでに平民になっていたことで罪を逃れたのかもしれません。

 うーん、これは王家側の恩情かなぁ?」

「父たちは…」

「現在は投獄されていると聞きます。裁判の後、処刑じゃないでしょうか?」

「そ、そんな…」

「お気持ちはわかりますが、命あっての物種ですよ?マリアベル嬢」

「…そうなのでしょうか?私は今や悪女です。生きていたって…この先…どうしましょう」

マリアベル嬢は貴族令嬢としてはあり得ないほど声を上げて泣かれた。

どうも感情を殺してまで両親に従い続けた雁字搦めの令嬢だったようだ。

その糸がすべて消えてしまったことで、彼女自身の感情の堰も崩壊したのだろう。

私はハンカチを渡して、一度抱きしめてから、落ち着いたら声をかけてくださいと言って部屋を出た。


「さーて、どうしよう?」

「アンナ様はもうある程度心に決めているのでしょう?」

「まぁね。彼女が受け入れるかどうかだけど…なんかあっさり受け入れそうだなぁ」

「可哀そうな方でしたね」

「貴族令嬢には偶にいるタイプだけど、高位貴族の令嬢としてはダメね。

ましてや自分で考えられない人間を上に立てようなんて…ナーシサス家はつぶれてしかるべき、か」

力を持ち国家掌握を試みたナーシサス家の人々は、処刑となるだろう。

ある意味マリアベル嬢は、被害者として難を逃れたわけだ。

王家はそれを許している。つまり、これ以上罪に問わないということだ。

であれば、私達の家にいてもお咎めはないだろう。


であれば、明日は仕事も休みなので、やることは一つ。

「さぁ!寝るわよ」

「はい、アンナ…」

私達は二人ベッドに入った。

そう、普段は主従の関係にあるが、ベッドの上でだけは二人は対等だ。

一糸まとわぬ姿で二人、愛を語り、体を合わせる。

外乱があるからこそこの日は少々燃えてしまった。

私もサラも女性が好きなのだ。

彼女…マリアベルもなかなかの美少女だったなと思っていたら、サラも同意見だった。

私たち二人が出した結論は同じだった。


スズメの鳴き声がする。

昨日はサラを求め、求められしながら寝てしまったらしい。

横ではサラがまだ寝息を立てている。

少しボーっとしていると、ドアをノックする音がした。

「すみません、ショコラ男爵…少しよろしいでしょうか?」

私は少し考え、部屋に入れることにする。

この惨状を見ておびえて逃げるならそれまでだ。

「えぇ、どうぞ。ちょっと散らかっているけれど」

恐る恐るという感じで扉が開き、マリアベル嬢が入ってきた。

「!!」

シーツで下半身は隠れているが、裸の私。その傍らにはメイドであるはずのサラがこれまた裸で寝ているのだ。

普通の令嬢であればびっくりするだろう。

「ところで、ご用は?」

「えっと…あの…その…」

「あぁ気にしないで。私恋愛対象が女性なのよ。サラとはそういう関係よ。まぁ我が国の宗教的にはマズイ関係だけど」

「いえ、すみません。…取り乱しました。

 あの…もしご迷惑でなければ、しばらく住まわせてほしいと思っていたのですが、お邪魔ですよね…」

「マリアベル嬢。あなたが住むことは問題ないわ。昨日サラとも話し合った結果よ。

でも、あなたが私たちの関係を見ても気持ち悪いだとか、目も合わせたくないとお思いなら出ていくことをお勧めするけど?」

「いえ、驚きましたが、美しいなとさえ思ってしまいました…」

「あら、そうなの?」

「…私も、男性より女性のほうが好きです」

「じゃあ同類ね。無理に私たちを好きにならなくてもいいけれど。

 さて、この屋敷に住むのは構わないけれど、そのためにはマリアベル嬢にやってもらわないといけないことがあるわ」

彼女はちょっと、体がビクッとした。

別に体を差し出せとかは言わないわよ。

相手がよいと思ってもいないのに押し倒すようなことをするほど無粋じゃない。

てか、サラも起きたな。

「うちのメイドとして働いて頂戴」

「へ?」

「働かざるもの食うべからず。

ショコラ男爵家は王宮勤めをしていますが、給料も高くなく、領地も持っていないので、人を雇う余裕がないのよ」

「おはようございますお嬢様方。いやもう一人は同僚ですかね今後は」

「サラがメイドの仕事を手取り足取り教えてくれるわ。

あなたがメイドの仕事を覚えてもらえれば、サラが出稼ぎ出張メイドとしての仕事ができる。

それで、あなたの分の生活費を捻出するからしっかり働いてね」

「え、あ、はい…?」

「マリアベル嬢、それでも家に住む?」

「ほかに行く当てはありません。今の私では貴族の家にはどこも入ることは出来ないでしょう。

 無一文の元貴族女性が市井に降りてタダで済むとは思いません…ここ以外行く当てはないと」

「わかった、じゃあ貴女はこれから“ベル”ね」

「へ?」

マリアベル、なので、ベル。呼びにくいのと元の名前では色々不都合だろう。

どうせこの国の平民など国籍はアヤフヤなのだ。貴族の証人がいれば国民とみなされるようなところもある。

なので、彼女はこれからベルだ。

ベルは豆鉄砲を食らったハトのような顔をしている。だから、かわいい顔が台無しだよ。

「サラ、ベルをメイドらしくしてほしいのだけど出来る?」

「そうですねぇ…まずは髪を短くしましょう。仕事の邪魔ですし。それだけでも印象が変わると思いますよ」

「なるほど、それがいいわね。じゃあ、ベル申し訳ないけれど着替えるから元の客間にいてくれる?」

ようやく元の顔に戻った彼女は、慌てたように取り繕う。

「あ、はい。わかりました」

とても高位貴族だったようには見えない彼女の動きを見て、なんだか二人しておかしくなってしまった。


着替えて客間へ向かう。

ノックをすると入っていいとのことなので、中に入るとベルはちょこんと椅子に座っていた。

「さて、ベル。もう貴族ではなくなった貴女にその長い髪はひつようないとおもうのだけど、切ってしまっても大丈夫かしら?」

「はい、ショコラ様。もう未練はありません。昨日散々泣いて自分の今までのことを思いなおしました。

 これからは自分の意思で生きようと思います」

「そう、じゃあサラやってしまいましょう」

「希望があれば言ってくださいね。じゃないとアンナ様と同じ髪型になりますよ」

「大丈夫です。それでお願いします」

私の髪は肩口に向かって長くしているショートヘアだ。

貴族令嬢としては“結婚する気はない”“純潔ではない”を意味する。

私は一生男性に体を預ける気はないので、この髪型で登城している。

「それこそ自分の意思を持ったほうがいいわよ?ベルの顔だと私と同じは似合わないわ。

 サラ、宜しくね。私は朝食を用意しちゃうわ」

「お任せくださいアンナ様」

「え、ショコラ様が朝食を?」

「えぇ、後私のことは“アンナ”または“ご主人様”と呼ぶこと。もと公爵令嬢だからといって容赦はしないから」

「!は、はい」


さて、私は宣言通り朝食を用意しよう。

この世界、魔法があるおかげで、生活はとても便利だ。

家電やガスの代わりを魔法で行える。

私は生活魔法しか使えないが、それで十分。

コンロに火を点け、卵を3個焼く。

その間にパンもオーブンへ。

そういえば、お風呂に入っていない。ご飯を食べたら皆で入ることにしようか?

「アンナ様、お待たせしました」

「ご、ご主人様どうでしょうか?」

ベルはセミロングにしてもらったらしい。確かによく似合っている。

「ベル、よく似合っているわ。メイド服もね。さぁ朝食にしましょう。サラ、残りの卵とオーブンにパンが入ってるわ」

「かしこまりました。ベル行きますよ」

「はいっ」

私は両手に持っていた卵の皿を置く。

ほどなくして二人がパンやバター、残りの卵の皿を持ってきた。

ベルも意外と様になっているわね。

「公爵令嬢の時じゃ、自分で料理なんて運ばなかったでしょ?」

「あ、はい。なんだか新鮮です」

「我が家では自分のことは自分でやらないといけないからね。朝食の後はお風呂にしましょう。私昨日はいり忘れたわ」

「わかりました、沸かしておきます」

ベルがおずおずと手を挙げる。

「あの、私の魔法でお湯を用意しましょうか?」

「できるの?流石元高位貴族」

「それぐらいでしか今はお役に立てないと思いまして」

「いえ、十分すぎるほどだわ。お湯沸かすとお金かかるからね」

どうやらベルは魔法でお風呂をお湯で満たせるらしい。

高位貴族ともなると魔力量も多いはずだ。

生活魔法ではお湯が沸かせないので、上水道の水を魔道具に通してお湯を沸かす。

その魔導に使う火の魔石が高い。それを魔法で補えるならかなり光熱費が浮く。

「とりあえず、朝食を食べてしまいましょう」

3人で座りお祈りをする。

私とサラは教義に反することをしているので大変滑稽だろうが、食べ物への感謝は忘れてはいけない。

「おいしい…」

ベルからポロリと声が漏れた。

「それは良かったわ」

朝食の時間は和やかに過ぎた。


「では、この浴槽に湯を張ればよいですね?」

「えぇお願いね」

ベルは両手を前に出し呪文を唱える。浴槽の上に水の球が現れ、徐々に湯気が出始める。

そして、ゆっくりとその水の球はおりてきて、浴槽の中をお湯で満たした。

「さすがねぇ…こんなにうまい魔力の制御初めて見た」

「攻撃魔法は苦手ですが、こういうことは得意です…父には役立たずとよく罵倒されましたが」

「そんなことないわ、あなたの親は本当に見る目がなかったのね。娘すら政治の道具でしかなかったということかしら」

私はしみじみ思った。きっと彼女は、親の愛情というものも知らないのではないだろうか?

「あなたはとても役立つ娘よ。自信を持っていいわ」

「っ…こういう時何と言えばいいのでしょう」

「ありがとうと言えばいいのですよ。ベル」

「あ、はい。ありがとうございます」

「うん、ところで。ベルは一人でお風呂入れるのかしら?」

「・・・・・」

そんなこったろうと思ったよ。貴族のお嬢様が一人で風呂入るわけがない。私じゃあるまいし。

「サラいる?一緒にお風呂入りましょう」

「なんですアンナ様。え?みんなでですか?」

「ベルは一人で体洗えないって」

「…そういえば、メイド服も着せてあげたんだった」

「それは…自分で脱ぎ着できないとねぇ」

「…はぃ」

ベルは消え入るような返事で答えてくれた。

今までそういった身の回りの世話は全部人がやってくれていたんだから、しかたがないことだ。

これから覚えていけばいい。


「ベルは、スタイルいいわね。サラほど胸はないけれど」

「ど、どこを見てるんですか!ご、ご主人様!?」

「女同士なんですもの気にすることないでしょ?」

「アンナ様がみられている場合は気にされたほうがいいですよ」

「何か言った?サラ」

「いえ、何も」

「まるで私が女性なら誰でも襲う獣みたいに言うじゃない」

「聞こえてるじゃないですか…」

「そういうサラだってベルの事見ていたじゃない」

「えぇバランスの取れた綺麗な体をされてますよね」

「そうよねぇ」

椅子に座って私たちに教えてもらった手順で体を洗っていたベルがみるみる真っ赤になっていく。

「あ、あの恥ずかしいのですが」

「気にしちゃだめよ。お風呂は裸の付き合い。こうやって仲を深めるの」

「そうなのですか?」

「ベルさん、なんでも信じてはダメです。私はそうやってアンナ様に落とされました」

「そういうサラだって、その気はあったじゃない」

「えぇそうですねぇ」

そんなやり取りをしているとベルがポカーンとした顔でこちらを見ていた。

あなた本当に元高位貴族だった?

「どうしたの?」

「いえ、お二人は主従関係でいいんですよね?」

「えぇそうね。そして愛人ね」

「愛人…」

「この国では結婚は出来ませんからね」

「そう、ですね。女性同士なんですものね…ご主人様とサラさんは」

「ベル、あなたも混ざりたい?」

「ひゃい!?」

「いつでも歓迎しますよ」

「っ・・・考えておきます」

考えてくれるんだ。

じゃあ半分落としたようなものだな。

今晩サラと夜這いでもかけてみようか?


その日から、サラはベルにメイド仕事をしっかりと教えた。

私も日常を取り戻し、一人使用人が増えたといった程度の関係にとどめている。

マリアベル、もといベルは思ったよりもメイド仕事をしっかりとこなしてくれた。

元高位貴族だが、素直すぎる性格。そして十分すぎる学力に魔力があるせいで、とても良い働き手だ。

おかげで、サラも日雇いメイドの仕事を増やすことができた。

3人に増えたショコラ男爵家はそれなりに平和に時が流れていった。


ベルが転がり込んでから1年、いよいよ私の仕事が危うくなった。

活版印刷が導入されることになった。

実際に導入されるのは1年後、しばらくは私達代筆の業務はなくならないようだが、人員は徐々に減らされるだろう。

さらに、両親から結婚しないのか?の手紙が増えてきていた。

男性と結婚する気はないし、このままでは主の仕事がなくなる。

私は悩んでいた。


「アンナ様どうされました、ため息なんてついて」

「いまの、サラとベルとの生活を守りたいけれど、うまくいかなくなりつつあるのよ」

「活版印刷…ですか」

「代筆の仕事はなくなるわ。別の部署へ移動も考えているけれど、良い仕事はないし引き抜いてくれそうなところも無いわ」

「ご主人様の字はとてもお綺麗なのに…残念でなりませんね」

「しかも両親からは結婚しろコール。男と結婚する気ないのよ、私は…はぁ」

「難儀…ですね」

「えぇとっても」

私は前世で何をしていただろう?

多分普通のサラリーマンだったはずだ。

これと言って特技もない。商売も出来ない…まてよ?

「ねぇベル。私とサラのことは好き?」

「え?どうしました突然。当然好きですが…」

「いつまでも一緒に居たい?」

「へ?えぇ出来る事なら…」

「抱いてもいい?」

「ストレート!!」

顔が真っ赤だが、ベルは嫌そうな感じではない。これはワンチャンあるな。

そうではなく。

「ちょっと二人のヌードを描かせてもらえない?」

「「は?」」

「思い出したの、私の特技。

そう、絵を描くこと!二人の裸婦像を描いて展覧会へ申し込むわ。

この国には女性作家がほぼいない。女性ならではの筆遣いには自信があるの!試させて」

「アンナ様の希望であれば、私はいいですよ」

あきれたようにサラは答えた。

「わ、私もご主人様の要望なら…」

ベルは、顔を赤らめて答えてくれた。

「ありがとう二人とも!」


こうして私は“宮廷画家”として生きる道を目指すことにした。

キャンバスとパステルを用意し、パステル画として仕上げることにする。

油絵に比べると時間がかからないからだ。

二人をひん剥き、ポーズをとらせデッサンをすれば、後は塗るだけだ。

こうして数枚の“天使の図”を描いた私は、絵をコーティングして展覧会へ提出した。

前世の記憶を活用しての絵だ。油絵ではない柔らかなタッチで精密に描かれた絵は、審査員の心をつかむだろう。

新しいもの好きの貴族からの依頼も増えるだろう。


なお、ひん剥いた二人は私がおいしくいただきました。

ベルも嫌がることなく体を許してくれた。

彼女の好きは”愛“にかわったようだ。


王宮の仕事をこなしながら、何枚かの絵を描きつつ、サラとベルの二人と愛し合いながら、日々は過ぎていった。

そして、絵画展覧会で私は見事“最優秀賞“を取った。

油絵が一般的な中で、柔らかなタッチで写実的な表現をした私の作品は新しいもの好きの貴族たちの目に留まった。

また、題材もよかったようだ。

二人の天使が舞い降り、天啓を授けるシーンなど、宗教画に寄せたおかげで、老獪な審査員の心もつかんだようだ。

おかげで、貴族のご婦人からの依頼が舞い込み始める。

爵位持ちの女性で画家というのは、ものすごい需要があったのだ。

・女性と二人きりになっても問題ない(私の本性を知っていると問題しかない気もするがそこはわきまえている)

・柔らかな雰囲気のタッチで写実的に描くので、肖像画にしたとき威圧感が少なく見合いの際の受けが良い

・貴族だから身元が保証されている

おかげで、前金だけでも城の仕事より稼げるようになった。

そして、城の部署も変わった。

受賞したことで、画家として再雇用された。

出来高払いではあるが、王家の行事などの記録画の作成が仕事となった。

そして、両親には「結婚する気はないので、ショコラ家は私が末代ということで国王の許可をもらった」と書状ごと送ってやった。

実際、国王の肖像画を描いた折、陛下はその作成の速さと正確さを大変喜ばれ、何か褒美をくれると言われたので、無理やり押し通してやった。

流石に陛下の印が押されている書状を見れば黙るだろうと思ったわけだ。

おかげで、外野は静かになった。


「アンナ様はすごいですね。いまや一躍時の人ですよ」

「それほどでもあるわね。でも贅沢する気はないわよ?」

「私は、今のままがいいです。サラさん、ご主人様」

ベルはどうやら私より、サラのほうが好きなようだ。

こないだ貴族の屋敷へ呼ばれて絵を描いた帰り、誰も出迎えに来ないので、サラの部屋にいったら二人でいたしていた。

途中から私も混ぜてもらったけど。

悪役令嬢にされていた?ベルも今ではメイドが板についた。

そして、一時は王子の婚約者だった彼女は、断罪の際の影響で男性恐怖症になったらしく、女性としか触れ合うことができないようだ。

「サラさんと、アンナさんじゃないとダメなんです」

とはベルの言葉。

ずいぶんと可愛いことである。

私達と関係を持ってくれて私もうれしい限りだよ。

ちょっと、ベルの場合は私達に母の面影を見ている気もしないではないが…まぁそれでもかまわない。

ショコラ男爵家は私達の愛の巣。

何があっても私はこの“巣”を守り通すと決めている。

愛する二人と共に。


Fin


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