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94.ルーちゃんがスポン

 

【ティストーム王城にて】




『あ、動いた』って妊婦さんが言うと、触りたくなるじゃない?


それがお母さまだったから遠慮なく触らせてもらっているわけなんだけど、初めてのあれは衝撃的だった。



『むにょん』『むにょん』『むにょん』


(きもーーーっ!!!)



足の運動らしきあれは、お腹の表面まで動くのよ!

ビビりすぎて両手を上げて仰け反ったね。



でも慣れた今では、この『むにょん』がたまらなく愛おしい。


「お姉さまに~(ポン)早くぅ~(ポポン)会いに~(ポン)おいでなさ~い♪」


ポポンポン、お腹ポンポン。



『むにょん』『むにょん』



「あなたが歌うとこの子はよく動くようです。聞こえているのかもしれませんね」


お母さまは聖母のように微笑む。


むふふふ。なんと嬉しいことを……


「今までで誰が一番、お腹の中で暴れましたか?」


「ベールですね。夜中に動かれると目が覚めるほど元気でした」


まぁ、やんちゃはお腹にいるときから。


「わたくしは?」


「あなたの出産はとにかく楽でした。湯浴みをしていたらキュッときて、体を拭いていたらもう動けなくなって、お父さまに横抱きされて寝台に入ったらすぐにスポンと」


おぉ、超安産。


「ねぇ、お母さま~(ポン)前世で聞いた~(たと)え話なのですが~(ポポン)出産って~『鼻から丸瓜(スイカ)を出すような』というのは~(ポン)本当ですかぁ? ララァ~♪」


ポン、ポポン。


『むにょん』『むにょん』


ルーくんもスポンと産まれておいで~。





「……瓜………………ふっ、ぷはっ!」



ぷはっ?



「うっ!」



うっ?



ほわん……湯気が。


お漏らし?


ちゃう。




破水したぁぁぁぁぁ!!




「じじじ、侍女長ぉぉぉぉーーーーっっ!!」


「何ですか? 大きな声で呼んではいけませんとあれほど……はっっっ!」



ピュフィ…ピィィィィィーーーッ!!



侍女長が懐から取り出した笛を思い切り吹いた(”ピュフィ”は失敗)


(笛!? なんで笛!?)


途端に廊下が騒がしくなり、たくさんの足音が近づいてきた。笛、有用!


「お母さまっ! お母さまっ! ヒッ・ヒッ・フゥーです!」


お母さまの手をギュッと握る。


「落ち着きなさい、シュシューア。まだ陣痛は来ていませんよ」


握った手をポンポンと優しく叩かれた。

私が励まされてどうする!


「お妃さま、歩けそうで…「ぅう……産まれそう、です」


え”っ!?


「おおお、お母さま!『スポン』ですか!?」


「ふぅふぅ……そのようです」


「じっ、侍女長、わたくしの時みたいに、スポン!」


侍女長は当時を知っているはず。



※この時の私のジェスチャー(コマネチ)は黒歴史となる。



「……承知しました。衛兵! 長椅子ごと妃殿下を医室へ!「はっ!」あなたたちは先導しなさい!「はいっ!」典医への知らせは?「もう向かいました!」結構。後は予定通り動きなさい」


侍女長はテキパキと指示を出す。


「……ううぅ、ふぅふぅふぅ」


あああ、苦しそう……


衛兵4人がかりで長椅子が持ち上げられ、医室への移動が始まる。

侍女たちは、扉を開けたり廊下の道を開けるよう声をかけるために先頭を切る。


私もそれについていこうと部屋を出たところに、ベール兄さまが走ってやってきた。


「産まれるのか!?」


「ベール殿下、姫さまをお願いできますか? 私は出産に立ち会いますので……」


「わかった、まかせろ。母上を頼むぞ」


侍女長は頭をひとつさげて、お母さまのもとにパタパタと向かった。


私も……私も行くっ。

痛そうだった。ポンポンする!


「シュシュはこっちだ。ほら、手を繋げ。一緒にアルベール兄上の執務室に行くぞ」


でもっ、ポンポン……


「アル、アルベー……はやく、はやっ……っ…うぅ、うえええぇぇぇ、こわいぃぃ~」


どうしよう。


痛そうだった。死んじゃったらどうしよう。痛すぎると死んじゃう。私はあれを知っている。死んじゃったら会えなくなっちゃう。お別れは嫌です。お母さまっ。


「大丈夫だ。《予言の書》でも無事に済んでいたんだろう?」


半ば引き摺られるように手を引っ張られて、廊下を進む。


城人たちが何事かと声をかけてきたが、ベール兄さまは『母上が産気づいたんだ』と手を振ると、喜んだり、心配したり、私を励ましたり。

私も『平気(へいぎ)ぃぃ~』と強がりを言いって、すれ違うたびにハンカチーフで何度も鼻水を拭われながら……気が付いたら執務室のソファでアルベール兄さまに膝抱っこされていた。

ベール兄さまはその隣でお菓子を食べながら、私の膝をポンポンしてくれている。


「家族と言えども、分娩中は立ち入り禁止なのだ。知らせが来るまで(ぐぅ)…寝たか」











「元気な()()が誕生しましたよ!!」



はっっっ! 寝てた!?



「妃殿下もお元気です!」


「そうか、会えるようになったらまた知らせてくれ。ご苦労だったな」


私はまだアルベール兄さまに膝抱っこされたまま、んん?


「男じゃなかったんだな。予言の書がはずれたぞ~、シュシュ」


ベール兄さまはまだお菓子を食べている。あれ?


「……ベール兄さま、そのお菓子は何個目?」


「3個目。執務室に来てまだ半時もたってないぞ」


「お前が産まれた時もこんな感じだったな」




そっか……スポンか。


……スポンって、産まれたんだね。




「……やったーーーっ!」




産まれた! 生まれた!


ルーくんが生まれた!

お母さまも元気!

超々安産!


ブラボーーーッ!




……あれ? ちょっと引っかかる。




「えっと……姫君って言ってた?」


「そうだぞ、妹が生まれたぞ」


「第二王女の誕生だ」


「……女の子、ですか?」


「そうだ」


「女の子ですか!?」


「そうだと言っている」





あるぇ~!?





ルーくん、どうして……?


あ、でも、女の子を選んで産まれてきたのかも。


自己防衛本能かしら?


まぁ、凄いわ。


私の妹、賢いのではなくて?





「ふっ、ふふっ……くくくっ」





拝啓、ヒロイン様──


ルー王子の攻略が出来なくなっちゃいましたで候。





ははぁ~ん、残念でしたぁ~!



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