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65.境の森 9(Side ヨーン男爵)

 

───暫くして『ティストームは不当に森を独占している』と苦情。


そちらの狩人も商人も自由に出入りしているが、整えられた境の森が欲しくなったのだろうことは子供でもわかる。


そして、苦情が来た次の日、ノッツの関所が森の内側に移動した。

人の足で、ほんの10歩ほど。

明日はもう10歩進んでいることであろう。


「あの関所が道の中腹に来たら、森の所有を主張し始めるのだろうな」


関所が動いたら、俺たちも行動を起こすと決めていた。


これまで無条件に従ってきたヨーン男爵が怪しい動きを始める……ノッツはどう反応を返してくるか。

この計画は、前もって国に報告して了承を得ている。


「あの木も森の一部だと言い出しそうだな」


森から少し離れた場所に1本、若木が生えている。


「引っこ抜きましょう。森から見える背の高い木はすべて」


森とヨーン男爵領の境をはっきりさせるための計画が開始された。



◇…◇…◇



国境とわかる、無駄がない、ノッツには無価値なもの。


商業ギルド、皮革ギルド、冒険者ギルド。

各ギルドの〈ティストーム王国・ヨーン男爵領支部〉


立派な共同建屋を用意して組織を迎えた。

ギルドの不可侵条約を関所代わりに利用させてもらう。


こちらの動きに刺激されたノッツ領兵の武装が重くなってきた。

わかりやすい反応に、王都へ向けて鳥を飛ばす。


そして男爵としてやるべきことをする。



───暫くして『ティストームは不当に森を()()している』と。


『独占』から『占拠』に移行したことで、王都に最終の鳥を飛ばした。

ガーランド領とオマー領にも警告の鳥を飛ばした。


慣れた様子で苦情書を提出したノッツの使者は、いつものように帰ろうとしていたが──今回は牢屋行きだ。


ノッツ伯爵、もしくは伯爵夫人の苦情は、事実上の『宣戦布告』となったのだ。


トルドンの国王が何も知らないはずはない。

ティストーム国からの再三なる質疑状への返答もない。


ノッツの関所が撤収した。


こちらの各ギルドも一時閉鎖する。


女子供(おんなこども)は妻に託して奥の村まで避難させた。

この日を見越して集めた兵はみっちり仕込んである。

ヨーン領に住む者はみな、ノッツが大嫌いだ。

士気はこれ以上なく上がっている。


「仕掛けられたら応戦していいっすよね」


逸る者もいる。

頼もしいが国軍が来るまでは押さえてくれ。

もちろんあちらから来たら突撃許可は出すがな。



◇…◇…◇



境の森は長く中立地帯だった。


それが揺らぎだしたのは、魔素溜りが暴走を始めた頃。

そして、ノッツ伯爵領にデリネ王女が降嫁してきた頃。


思えば、あれから4年がたった。


何か引っかかる。

デリネ・ノッツ伯爵夫人は、最初から境の森を望んでいたのではないか?

魔素溜りの暴走と関係付けるのは穿ち過ぎか?


「魔素溜りに干渉して暴走させる方法は、残念ながら、あります」


結婚してヨーン領に残った魔導士が言った。


どちらにしろ領土問題に発展してしまっては、国王同士の話し合いが必要だ。

しかし、それは既に破綻している。決裂は必至だ。



カーン、カカーン。カーン、カカーン。



国軍を率いるロッド王子と将軍が到着。

王命は『境の森の中立の堅守、及び条約締結』と公示された。


ノッツ領では招集された兵が陣を構えつつあると、王子に報告する。


王子の合図で偵察兵に向けた鏑矢が放たれる。

直ぐに偵察兵からの返答鏑矢の音が響く。

次いで聞こえる二鳴りは、敵陣に近い偵察兵への合図だ。

この後、敵陣へ確実に聞こえる位置から鏑矢が三本放たれる。

ノッツへの最後通告だ。


敵陣からの反応なし、もしくは敵対行動を確認した場合は、後退しつつ連続鏑矢が放たれる。



………連続で矢が鳴った。



王子が剣を振り上げる。



「装甲隊、前へ! 進めーーーっ!」



境の森は、戦場となった。




……で、和平条約の証しとして、ロッド王子とトゥーラ王女の政略結婚となったわけです。

事実上はティストームの勝利に終わったので、トゥーラは半分人質のような感じでした。

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