25.魔導士長は凄い人
「メレンゲをこれからもつくるのでしたら、らくにつくれる、メレンゲスティック…メレンゲぼうを、ランドしょくにんちょうに、つくってもらいましょう。それと、ジャガのかわが、かんたんにむける、ピーラーもつくってもらいましょうね」
先人たちが狂喜するような反則調理器具って、いっぱいあるよね。
「藁紙に描いて、ランドとチギラを交えて話し合いなさい」
むむっ、商会長は料理道具に興味がないご様子。では……
「くだものをつかわない、アイスクリームという、つめたいおかしも、たべたぃ…つくりましょう。ざいりょうは、たまごと、きヤギのちちと……」
「チギラと相談……いや、プリンアラモードの需要で黄ヤギの乳が足りなくなりそうだ。以前言っていた豆から作る乳もどきはどうなった?」
ほいきた! 枝豆は畑で育ってますよ!
「しょくぶつせいちょうまほうをつかえば、しさくのぶんは、すぐにつれます」
私はシブメンに視線を送った。
「お手伝い致しましょう」
やった!
「なぁ、冷蔵庫と冷凍庫を作ったのはゼルドラ魔導士長だろ? だったら薬草課の保温具は?」
お? おおお? ベール兄さま、鋭い洞察力!
「数年前、私が作りました」
きゃーっ! シブメン、素敵よーっ!
「卿が?」
アルベール兄さまは目を見開くも……
「はい。研究促進のために作りました」
しれっ、と返されちゃったね。
ニクイね~、シブメ~ン。
「魔法陣構築後の複製は容易であると聞いたのだが、事実か?」
「事実です……あぁ、薬草課と共用しているのでしたな。菓子に妙な臭いがついても面白くありません。ここの厨房にひとつ作ってまいりましょう。大きさは冷蔵庫と同じでよいですかな? 外枠が余っているのです」
「そんな簡単に……魔導保温具は高価なはずでは?」
ミネバ副会長は胡乱顔でシブメンを見る。
「価格をお決めなったのは陛下です。発売当初はそれでも売れたのですよ」
「………なるほど、そういうことか」
合点がいったという顔のアルベール兄さまは、背もたれに体を預けて大きくため息をついた。
「初期の売買権は国のものだったのではないか?」
「よくご存じで。国内外の研究機関が欲しがりましてな。陛下は談判の材料にしておりました」
「現在の売買権は卿のものになっているのではないか?」
「商業ギルドに委託しているだろう?」
「原価は断熱処理をした箱代程度か?」
「愛娘発見…『追跡探査具(販売名)』と同じ経緯ではないのか?」
……質問攻め。
「国費を使って研究製作したものについては、まず国に還元させてから陛下の判断で製作者に返されます。遠慮申し上げても返されます。売れなくなった商品の登録繰越料をギルドに払いたくないのでしょう。私もそろそろ保温具の特許を取り下げるつもりでしたが、アルベール商会にお譲り致しましょうか?」
今日はシブメンの舌が滑らかだ。
「倹約王とはよく言ったものですなぁ」
なんか言われてますよ、お父さま。
「ルベール、わかったろう? これが父上だ」
「保温具の事情を隠して甘液の権利を奪い取る……前言撤回します。本当に父上は国第一なのですね」
「うむ」
長男と次男の結束が強くなったようだ。
「会長、魔導保温具の特許権譲渡の書類も用意しますか?」
「ゼルドラ魔導士長の厚意に感謝する。譲渡を受けよう」
「では兄上、冷蔵・冷凍・保温と、アルベール商会の連続商品を作りましょう」
セットだけではなく、シリーズも好きなんですね。ルベール兄さま。
それにしても魔導保温具も来るのか。嬉しいな。
薬草課の保温具は甘液作りの『麦もやし』でいつも満杯だったから使えなかったのだ。これでやっと天然酵母が作れる、けど、シブメンがちょっと心配。
「むりしていませんか? しごとのしすぎは、よくないですよ」
社畜経験のある前世持ちとしては見過ごせません。
「複製するだけですから労はありません」
まぁ、そう言ってましたけど。
「温度の魔法陣は基本がみな同じなのです。その上に別の魔法陣を重ねるわけですが、その重ね合わせの安定構築が難しい。難しいのですが、これが実に楽しいのです。魔法陣が結合した瞬間など言葉では言い尽くせないほどの快感を味わえるのです。しかしながら、今回の冷蔵具と冷凍具には手を焼きました。程よく物を『冷やすだけ』『凍らせるだけ』の弱い冷魔法が陣に起こせなかったのです。いやはや、対象を粉々に砕く攻撃冷魔法は簡単なのですが…………熱弁中…………………まだ熱弁中……………………「チギラりょうりにん、おかわり」……「俺も!」……「僕も」「私もだ」…(熱弁しながらシブメンも手を上げる)…(ミネバ副会長はチギラ料理人に視線を送るだけ)…………………………まだまだ熱弁中……………………苦労しましたが、面白かった。久しぶりに有意義な休暇を過ごせましたぞ」
そっかぁ、研究オタクだったのですね~。心配して損した。きっと頭を使うから甘党なのだわ。
「それでは、ほおんぐをつかって、ふんわりパンをつくります。しょっぱいパンも、あまいパンも、からいパンも。パンはとてもおくぶかいのですよ。パンのおかしも、それはそれは、おいしいのです。ゼルドラまどうしちょうの、こうぶつはなんですか? それをつかってつくりますよ」
「それでしたら、蜂蜜をふんだんに使ったパンを所望いたします」
「りょうかいです!」
カルシーニ蜂蜜でお菓子を作るのを忘れていたのは極秘事項だ。
「シュシュ、何種類ぐらいあるんだ? 味見は俺にまかせろ」
「たくさん!」
「『たくさん』は答えではないと言ったはずだが?」
「いま、つくろうとおもっいているのは、ひとつです。でも、チギラりょうりにんが、ほかにもかんがえてくれるので、たくさんです」
「お任せください」
「シュシュ、干し果物のお菓子も頼むよ」
「はい、つぎはやきたてのものをたべましょう。アルベールにいさまのすきなものも、つくります。なにがいいですか?」
「マヨたまだ。他にもマヨネーズを和えた具もあるのだろう? たくさん作りなさい」
はい! 全部、賜りました!
 





