23.お父さまの執務室2
王様はひとり会議進行中……王様はひとり会議進行中……王様はひとり会議進行中……
「王都で備蓄を増やしつつ、北の三領地に芋…ジャガ栽培の王命を出そう。もともと麦の収穫が少ない土地であるから損はない。開墾していない広大な荒れ地もある……ふむ、芋…ジャガの収穫祭を来期から開かせるのもよいな。開催の規模を事前に報告させれば正確な情報も入ってくるだろう。2年後に何が起こるにせよ、視察を装って祭りに参加してみるか……」
「おとうとがうまれてから、しゅっぱつしてくださいね」
「それはどうかな。しかし、弟が産まれるということは、お母さまには内緒だぞ」
「ないしょですね。うふふ」
「アルベール」
「はい、陛下」
──…ぎょっ!
「芋…ジャガの普及はアルベール商会に任せる。北に王命は出しておくから、芋…ジャガの準備が整ったら北に誰か向かわせなさい」
──…隠れてた! 隠れてた! カーテンの影に隠れてた!
「父上、芋から離れてください。せっかく品種改良したのに悟られるではないですか」
「無理を言うな、芋だぞ。いくら旨くても芋は芋だ」
「この国で最初に食べたのは私ですが?」
食わせたのは誰だか言ってみろ……こんなアテレコがぴったりな顔になった。
「アルベールにいさま……カーテンにかくれるおうじは、カッコわるいです」
王子ゲージが20下がりました。
「ふん、お前を驚かせたいと言う父上の希望を叶えて差し上げただけだ。お前をおびき寄せるエ…菓子を用意したのも私だ。商会で販売しているものだ。旨いだろう」
「……はい、うまいです…けど」
──…餌って言いそうだった?
「シュ~シュ。旨いじゃなくて、美味しいでしょう?」
──…ギョギョッ!
「あ~俺の分が。シュシュ、全部食べたな」
──…ふっ、旨かったぜベイべ。
「ベール、安心しろ。試作のクッキーを持ってきている。これは酒を使っているからシュシューアは食べられない」
アルベール兄さまは、脇に抱えていた箱をパカリと開けた。
途端に深い香りが鼻を直撃する。
「うわぁ、ラム酒の香り……レーズンサンド? できたのですね!」
いい香りなのに、子供の鼻には臭く感じるという摩訶不思議感。
「あぁ、何とも贅沢な菓子が出来上がったぞ。ミネバが販売価格に頭を悩ませているところだ」
レーズンサンドの作り方は簡単であります。
バターと蜂蜜を練り合わせて、そこに黍酒に数日漬けた干しリドを混ぜて、冷蔵庫で寝かせて下ごしらえは終了。今は無いけれどホワイトチョコレートを混ぜ込んでもイケた味になったはずだ。あとはお好みのクッキーなどに挟んで召し上がれ……なのです。
簡単なんだけどね、アルベール兄さまの言う通り、材料がお高いもので出来ているという困ったお菓子なのだ。
砂糖ほどではないものの蜂蜜だって高級品。原価を下げる試みで甘液でも作ってみたが、風味が全然違うとチギラ料理人に却下されてしまったそうだ。プロのこだわりというものかな?
そしてサトウキビから作られている黍酒などは、南大陸から輸入するしかないうえに、その一樽の価値は大粒の黄宝石に匹敵するほどの物らしい。黄宝石の価値……わからん。
前世の私は食べたことはないけど、ブランデー(果実酒を蒸留したお酒)を使うタイプもあると聞いたことがあるので、いちおうチギラ料理人に伝えておいた。国内で流通しているブランデーなら多少なりとも安く済むものね。
「ほしくだものがすきな、ルベールにいさまのために、つくったおかしです。おさけのにおいがにがてでしたら、すこ~しじかんをあけてから、たべてくださいね」
「大丈夫、いい香りだよ。もむっ……かじったら中身がはみ出てくるかもしれないかと思ったけど、バターが程よく固まていて、クッキーがしっとりしていて…もむもむ、うん、美味しいよ。ありがとう、シュシュ」
お待たせしてしまいましたね……ちょびっと泣いてる?
「旨っ、旨っ」
ベール兄さまのウマウマ顔は相変わらず可愛い。
「父上は菓子をあまり召し上がりませんが、これは如何ですか?」
「ふむ、甘さをもう少し控えれば……なるほど、子供には過ぎた菓子だな。ベール、ひとつにしておきなさい」
遅かった。もう2個目に突入しています。
しかし3個目を確保しようとした手は空を切り、菓子箱はアルベール兄さまがルベール兄さまへ渡してしまった。
惜しそうな目で箱を追うベール兄さまが……うぅ、今日は可愛いが2回目!
「さて、その予言の書では、私は28歳で独身だったとか。理由は書いてあったか?」
アルベール兄さまは高級菓子を適当にかじりながら、ポスンと長椅子に体を落とす。
ルベール兄さまに「お行儀!シュシュが真似したらそうするんです?」と言われても知らんぷり……のふりしてちょっと顔をそむけたのを私は見た!
弟に叱られる兄の図……萌えますね!
「けんこくのせいじょのうまれかわりが、おにいさまたちを、ゆうわくしにくるのです。せいじょは、どのおうじとけっこんしようか、あっちにフラフラこっちにフラフラと、だらしがないのです。それでじかんがすぎていくのです。さいごには、おうひになって、ティストームを、せいふくしたいのではないでしょうか」
悪意を込めた説明をしてやる。
「建国の聖女? 伝説の?」
「はい……せいじょのうまれかわりは、おしろでくらすのがゆめだったと、いっていました。ぜんせいのきおくはないのに、よくぼうはおぼえているのです。おそろしいですね」
そうそう思い出した。
ゲーム開始時は前世の記憶はなくて、攻略した王子と婚約すると前世の記憶がよみがえるのだった。それで「私たちの恋は運命だったのね」とかほざきやがるのです。
「僕も誘惑されるの?」
「はい、ルベールにいさまもです」
「俺も?」
「はい、ベールにいさまもです……はらだたしいことに、おさないルーにまで、てをだすのです。わたくしの、かわいいおとうとを……」
まだ生まれてきていないけど。
「聖女が毒婦になって帰ってくるか……くくっ、予言者の創作であろう。シュシューア、お父さまは誘惑されなかったのかな?」
「おとうさまは、つまみぐいの、たいしょうです。でも、おかあさまが、まもってくれるので、だいじょうぶ」
攻略対象ではないが、国王のミニゲームがあったのだ。
王妃や衛士の目を掻い潜って迷路のような王宮の廊下を進み、深夜にふたりで月を眺めるとレアアイテムがゲットできるというものだった。
しかし、遭遇する王妃の回し蹴り(なぜか武闘派)が強烈で、食らってしまうとアイテムが得られないだけではなく、王子たちのラブゲージまで下がってしまうというデメリットがあった。
父親に接近したことなんてばれたら、そりゃ王子たちの信用も失うわな……クスクス、そんなエピソードは組み込まれていなかったけれど、私は二次的な妄想をしながらプレイしていたのだ。
「ふっ、父上、もしその聖女の生まれ変わりとやらが来たら、王城をくれてやりましょう。そして我々は新しい城に移るのです。なに、商会は順調に成長しています。資金なぞすぐ貯まりますよ」
嫌ですよ。ヒロインに城を明け渡すなんて。
「シュシュ。兄上が商会を立ち上げたのは、新しい王城を建てるためなんだよ」
ルベール兄さまがこそりと教えてくれた。
何でも、お父さまの辺境視察に同行した際に、領主邸が王城より立派だったのがショックだったのだそうだ───なにその可愛い理由!
でも、いいな、それ。
《秘密の国の秘密の恋》に新しい城なんてなかった。
古いお城に、ヒロイン、ぼっち。
くはぁ~っ、ざまぁ!
「アルベールにいさま! ぜんめんきょうりょく、いたします! おおもうけして、すてきなおしろを、たてましょう!」
「うむっ!」
「シュシュ~、兄上と同じ顔するのはやめようね~」
「シプール・シャーベットで儲け…あぁ、冷凍庫はまだか~」
「私の子供たちは仲が良いな。王位争いで殺し合っている国もあるのだぞ。その気概が片鱗も見えんとは、別の意味で寂しいではないか」
「父上と比べられるのは望むところではありません」
「賛成です。父上は人気ありますからねぇ」
「俺は近衛騎士団長になるから、無理」
「じょうおうは、いかがですか?」
「やる気があるのはシュシューアだけか?」
第四王子がやる気を見せるかもしれませんよ。楽しみですね。
 





