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20.マヨが主役

 

今日試食するお芋は二種類あって、どちらも丸いジャガイモ系であった。

里芋は今回もない……残念。


「昨日のじゃがバターと同じ食べ方でいいんだね。それではいただこうか……万物に感謝を」


この場で一番身分の高いルベール兄さまが音頭をとる。

万物に感謝を。いっただきまーす。



「ほっ、はふっ、旨っ、旨っ」


ベール兄さまの反応が一番早い。そしていい旨顔。


「バターもそうだったけど、マヨネーズも何にでも合いそうだね」


ルベール兄さま……昨日のミネバ副会長と同じこと言ってますね。


「……ほぅ」


シブメン……ほぅ、じゃわかりません。


「ゼルドラまどうしちょう、どうですか?」


「芋とは旨いものだったのですな。シチューにいれて煮崩れたら良い風味がでそうだ。この調味料も料理の幅を広げることになりそうです」


そうなのです。マヨネーズは何でもありなのです。なにしろマヨラーという種族がいたほどですから。


「チギラりょうりにん。もうひとつの……それをパンのうえに、のせてください。もっとたっぷり……はい、そのくらいです。では、みなさま、これは手でもって、たべるのが、さほうです。どうぞ」


今日は手を使って食べるのでお手拭きも用意した。


メニューは『じゃがマヨ』だけではなく、『マヨたま』との二段構え。


──…さぁ、どうだ?


「これっ! これが一番旨いぞ! これは何だ!?」


ベール兄さま、ここ最近の一番輝いたお顔ですが、マヨたまの欠片が口端についています。可愛いですが。


「『マヨたま』といいます。パンにのせたあとに、もういちどやいたものも、おすすめです」


「うん、美味しいね……卵に卵の調味料か……面白い」


ルベール兄さまからも高評価をいただけた。

でも、今日もお芋が霞んでしまったかな。


「……わかりました」


何がわかったんですか? 唐突なシブメンですね。


「ゾウゴウ菌を除去させる魔導具を作りましょう」


わぁ、そこで魔道具に思考がいっちゃうんだ。さすが魔導士。


「マヨネーズを使った料理をまた作っていただきたい。しかも、他にも生卵を使った料理があるのでは?」


睨まれちゃったよ……あ、これは期待されている目か。


「マヨネーズの調理法と、その魔導具を合わせて販売……」


ルベール兄さま、その話はアルベール兄さまへどうぞ。



……でも、魔導具を買えない人は殺菌しないで作っちゃいそうな予感がする。

食中毒を起こされて、罪のないマヨネーズが風評被害を受けるのは嫌だ。


そうすると、一般に広めるなら豆乳マヨネーズの方がいいかもしれない。

大豆が見つかればの話だけど。見つかってほしいな。醤油と味噌も作りたい。


「まめでつくるマヨネーズもあります。こんど、ししょくしてください。でも、ゾウゴウ菌をなくすまどうぐは、あったらうれしいです。ゼルドラまどうしちょうが、むりせずつれるのでしたら、おねがいします。えと、それと、なまのおさかなのわるいやつも、なくなるようになると、うれしいなぁ、なんて……」


お刺身が食べたいのだ。

試したことはないけど、塩でもたぶんイケるのだ。


「シュシュ、生の魚なんてどうするの? 生のまま食べるの? 違うよね?」


ルベール兄さまの笑顔は盛大に引きつっている。


うふふ、お寿司も食べたいのだ。


「生魚は王女殿下だけが食べることになりそうですので、私が直接鑑定いたしましょう。では、魔導具の作成に取り掛かります。中座する失礼をお許しください」


立っ。早っ。


「魔導士長! 先に冷凍庫をよろしくな! シャーベットが待ってるぞ!」


念を押すベール兄さまは笑顔だけど、目が真剣で可愛い。


「そうでしたな。シャーベット………………氷菓子も楽しみだ」


去り際の最後の呟きはひとりごとね。

シブメンもあっちに往っちゃうタイプの人のようだ……仲間かもしれない。




本日の試食会も美味しく終了した。


卵の白身を焼いたものをすっかり忘れていたので、ランド職人長とチギラ料理人に、マヨたまパンにあわせて食べてもらった。


アルベール兄さまとミネバ副会長の分は、冷めた芋とマヨネーズでは可哀想なので、マヨたまの方を用意することになった。


チギラ料理人が作ったのは、薄めに焼いたパンでマヨたまを軽く巻いたタコスのような、ブリトーのような……軽食として食べやすい形で取り置きされた。


水鉢の青菜を刻んで入れていたな。あれは絶対パセリだ。今度食べさせてもらおう。




☆…☆…☆…☆…☆




チギラ料理人による『食べやすいように』というこの気遣いは、後に『チギラ巻き』として王都平民層へ販売されることになる。


品種改良後の芋……改め、新野菜『ジャガ』の一般の普及にも一役買った。


賽の目に切ったジャガとベーコンと数種の野菜を炒め、挟んだものが『早い・安い・旨い』の三拍子で、平民の間で昼食の定番となったのだ。


ジャーマンポテト・ティストーム風味……美味しいものは異世界でも美味しいのである。


続々と新しい具味が増えて、チギラ巻き専門の露店があちこちに出る頃には、昼食だけではなく、仕事前の朝食に立ち食いする姿も多く見られようになった。


この立ち食いに貢献したのが、何をかくそう藁紙である。


手が汚れないように、汚れた手でも食べられるように、チギラ巻きに巻かれた藁紙は大活躍したのだ。


なにしろ藁紙は安価である。

品質を無視するのであれば、こうやって包むための紙として大いに活用できた。


そして、食べ終えた後に残った藁紙は決して捨てられることはない。


平民にとっては、油染みがあろうが、皺があろうが、紙は紙。

立派な筆記用紙として再利用された。



こうして、ジャガと藁紙は、王都を超えて広くティストーム全体に浸透していったのである。



同時にこれを手掛けたアルベール商会の名も、高位層から新たに平民層にも認知されていったのだった。




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