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11.植物図鑑1

 

私とルベール兄さまは、シブメンの口利きで魔導部の事務棟にある応接室に来ています。


植物相談窓口となる、内部で押し付け合って貧乏くじを引いたであろう、シブメンが言うところの『若い者』と会うためであります。


ルベール兄さまは自分の執務室に呼ぶつもりだったのだけど、私が魔導部を見てみたいとねだりました。

今いる事務棟を含めて、研究棟、薬草調合棟、制御棟、なんちゃら棟とか全部合わせて魔導部と呼ぶそうですよ。面白そうでしょう?


でも、事務棟に入ってすぐ横にある部屋が応接室だったので、期待していた見学は出来ませんでした、まるっ




☆…☆…☆…☆…☆




「王子殿下、ならびに王女殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう……? 薬草課から参りました、ワーナーと申します」


20歳ぐらいの穏やかそうな男性から、王族になど会ったことがないという雰囲気の挨拶をいただいた。


「仕事中に申し訳ない。調べていることがあって、魔導士長に相談したらこの場を設けてくれたのですよ」


ルベール兄さまはよそ行きの顔で対応した。

私もいつもよりお行儀よく座っている。



──…くんくん



ほのかに漢方っぽい香りがする……薬草課だものね。毎日ゴリゴリやってるのかな。指先が茶色っぽいのは薬草で染まっちゃったのかな。石鹸で落ちないのかな……あ、石鹸がないね。

お風呂にあったのは布袋の中になにかの実が入ってるやつだ。お湯でもむと泡が立ったけどあれは石鹸ではない。

やっちゃおうかなぁ~、石鹸、石鹸、石鹸チ~ト~♪


「それじゃぁ、シュシュ。彼に質問しようね。聞きたいことは何だい?」


シャボン玉で遊ぶ妄想をしていたら、ルベール兄さまに顔を覗き込まれた。シャボン玉がパチンと弾けた。


──…聞きたいこと? 聞きたいこと……たくさん。たくさん、え~と……


「ん? ん~? なんらっけ……」


──…ここに何しに来たんだっけ?


いくら首をひねっても思い出せることは何もない。3歳児の頭は回転がすこぶる悪い。仕方ないから笑ってごまかしておこう。


ルベール兄さまに、ニコッ!

ワーなんとかさんにも、ニコッ!


「………」

「………」


二人とも笑い返してくれたけど無言だった。



ニコ、ニコ、ニコ、ニコ…── スマイルは 0円である。



ルベール兄さまの眉尻が下がって笑みが濃くなった。

小さなため息と、上を向いて少し考えるそぶりをして、再び私に目を合わせると私の大好きな「なぞなぞ」の顔になっていた。



「……………今、離宮の工房と厨房を整えているところだよね。シュシュは、そこで、なにがしたい?」


工房、厨房……料理長、プリン、シプード……


「……シャーベット、はちみつ、たらぁ~り」


たりっ…と涎が垂れたらしく、ハンカチーフで口元をフキフキされた。


「うん、それから? 工房の方ではなにがしたい?」


「……ぐつぐつ、わらをにるの」


「そうだね。どうして藁を煮るのかな?」


はっ!!!


「かみ! わらの、かみ。せんいの、きのかわ。ネバネバ。かみを、つくるの。たくさん、つくって、アルベールにいさまのしょうかいが、おおもうけっ……」


「シュ~シュ、お行儀」


はいっ。腕を振り上げるのはよくありませんね。


「あの、植物の質問ですか?」


興奮する子供に引き気味の、え~と、そう、ワーナー先生。


「植物で作りたいものがあるのですが、何が適しているのかわからないのです。シュシュ、この人にわかりやすく教えてあげて」


「はいっ。むしてたたくと、かわがつるんとむける、きのえだ。たたいてつぶすと、にゅわ~ってなる、しょくぶつ。ほしいの、ふたつ」


楮や三椏のような繊維の多い木の皮。トロロアオイやアオギリの根のような粘液がとれる植物。


伝わるかな?


「当てはまる植物がいくつかありますね。図鑑を探してまいりますので、お待ちください」


伝わった! そしてあるのか! はやっ!



──…けど……



繰り返す失敗と、くじけずに何度も挑戦する熱血な展開がなくなっちゃった。

専門家に作ってもらって専門家に聞くだけって、なんかチートっぽくない。

もっと活躍するシーンをこう……



「シュ~シュ……シュシュはまだ3歳だよ。大人にまかせちゃっていいんだよ」


不機嫌になっていく私の頭をナデナデナデ……


ルベール兄さまの手、気持ちいい………ナデナデナデ……ふぁぁ……




おにいちゃま~。


お花畑が見える~、ふわふわ~。


うふふふ、あははは……




「お待たせしました」



パチン! お花畑が弾けて消えた。



──…早いね、ワーナー先生。


リボンくん並みの優秀さ? もうちょっと遅くても良かったのよ……あぁ、ナデナデが終わっちゃった~。


「かび臭いですが、お許しください」


図鑑が開かれると、かび臭がほわん、ほこりもふわん。


「……これですね」


すぐに目的のページが見つかって図鑑をテーブルの上に置くと、私たちが見やすいようにくるりとこちらに向けて滑らせてくれた。


木の絵だった。

葉と実と根の形が細かく描かれていた。

文字は読めないから今はスルーだ。


「え~、こちらが、その……つるんです」


──…へ?


「こちらも、つるん」


ページが次々めくられていく。


「つるん……にゅわ~」


ルベール兄さまも私も、図鑑を見ないでワーナー先生の顔を見る。


「にゅわ~」


ページをめくるたびに、ワーナー先生の真面目そうな印象が崩れていく。


3歳児が相手だものね。

私に合わせてくれているのよね。


「つるん」


もういいですからぁぁぁ~(泣)


「……ぐふっ」


兄が決壊した。


「ぷふっ」

「ぶはっ」


廊下から噴き出す声が。

盗み聞きされていたようだ。犯人は絶対ワーナー先生の同僚ね。



我に返ったワーナー先生の顔は真っ赤になっていた。



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