99.起4(Side ロッド王)
広いはずの食堂は、何とも窮屈でむさくるしい空間になっていた。
領主の護衛であろう兵。
領都民の各代表であろう男たち。
示し合わせたようなデカブツが揃っていた。
決してリボンは貧弱ではないのに、熊に囲まれた少女のように見えてしまう。
娘の琴線に触れた『リボン』の名の由来を思い出し……咳をして胡麻化した。
「陛下! 御無事でし…ルベール殿下はどうなさいました」
……似たもの夫婦だな。
「心配ない。畑の方を任せてきた。それで状況は?」
”陛下”と聞いて身を正す男たちに、手を横に振って無礼講を示す。
「予期した通り食料を狙っていますね。領都で出火しているのは東側の備蓄庫と西の倉庫街です。東の方は風下に建物はありませんが、西は住宅まで火が伸びてしまいました」
卓の地図には出火した場所にバツの印が書かれていた。見ている間にも次々と印が追加されていく。
「倉庫街の延焼地には、ここに来る前に寄ってきた」
「打ち壊しの指示を出しましたが、どうでした?」
「正しい判断だ。風がどうにも強すぎる」
「……そうですか」
リボンは悔しそうに卓の上でこぶしを握り締めた。
これに追い打ちをかけなければならない。
「みなに知り置いてほしい事がある」
全員がこちらを向き、背筋を伸ばす。
良い知らせではないことを承知している険面が並んだ。
「領都へ戻るために燃える畑道を通ってきたが、4~5歳の子供たちが火着けに使われていたようだった。ルベールが最初に保護したのが10人程。逃げ遅れて炎に呑まれた子供はそれ以上だ。一本の畑道から確認できた数がそれだ……総数は計り知れん」
強張っていた男たちの体が、一瞬理解できなかったように身じろいだ。
「……こ、子供…?」
「そんな……」
信じがたい気持ちは……痛いほどわかる。
間違いであってほしいと、みなの口が重くなり、言葉が呑みこまれた。
ざわざわと……避難民の存在がやけに遠くに感じられる。感覚も鈍くなっていく………何か物が割れるような音が飛んでくるまでは。
「……何と卑劣な」
やりきれない気持ちに顔を歪めたリボンは、腫れの引いていない頬の痛みに片目をすがめた。
「ちょ、待ってください。そんな大勢の子供…いったいどこから」
「子供の行方不明の報告は来ていません…が………あ…あぁ、いや…まさか……」
ふと、目線を上げた年かさの男は嫌なことを思い出したのか、一度頭を振り、二度振り、あきらめたように片手で顔を覆い声を吐いた。
「……今年は、観光客の中に、子供が多かったような……気がします」
男の声にハッとした者が顔を上げた。
「うちは宿屋ですが、子連れの泊り客が全組、昨日宿払いを……祭りを見ていかないのかと不思議に思っていたのですが……」
「そういや近所の宿屋が、客が全員引けたから祭りに行けるとか言っていた。ほかの宿屋も同じだとしたら、こりゃ大変だ」
そこで顔を煤で汚した男がおずおずと手を挙げた。
「倉庫街で泣いていた女の子を保護して連れてきています。親とはぐれたのだと思っていましたが……よく考えれば、夜にあんなところに用がある奴なんていやしないんです。まして子供が」
「邸にいるのか?」
男は頷く。
避難民のいる部屋に体を向けるが、私たちでは駄目だ。子供がおびえる。
「サハラナを呼んできてくれ」
通りかかった侍女にリボンが声をかける。
「サハラ……? どなたですか?」
領主夫人の名前を知らない侍女。
教育がされていない…いや、侍女の資格を持っていない者を家令が雇ったか……
リボンは小さく首を振って、自分についていた兵に視線を移す。兵は無言で頷いて食堂を出て行った。





