別視点のアリス
「ここは…何処だ…?」
1人の少年が暗い場所で目を覚ました。寝ていた場所は何処かの倉庫のような感じで、コンクリートがむき出しになっている。何処からか明かりが入ってきているのか、部屋全体が薄暗く朧気だが部屋の中も見える。扉が正面に1つある意外に、装飾も何もない。
「おかしいな…俺は学校から家に帰ってる途中だったんだが…。…あ、俺の鞄!」
見渡すと、鞄がない。
「ちくしょう…盗られたのかよ…。あん中に財布と携帯入ってたのに…チッ、絶対取り返してやる…。」
少年がぼやいていると、扉から1人の男が入ってきた。年は20代後半位、体格も良さそうだ。
「やぁ、起きたかい?」
「お前が俺をこんな所まで連れてきたのか…ご丁寧に鞄まで盗っていきやがって…。」
「ところで、君は『不思議の国のアリス』という話を聞いた事があるかい?」
いきなりの話の展開に少年は面食らった。
「は…?まぁ、多少は…。って、お前…」
「君は選ばれたんだよ。アリスを守る為のキャストにね。」
「アリスを…守る…?」
男は何かに酔っているような口調で話す。
「アリスは不思議の国ではイレギュラーな存在だ。全然違う存在が混ざると、その世界は弾き出そうとする。まるで体の中に入った病原体を追い出すようにね…。そして元の世界に帰った時、無事に帰れるか分からない。そんなアリスを守る為、キャストが必要なんだよ。」
「な、なんだよ…、そんな話、俺は聞いた事ねーぞ…。大体、アリスなんて何処にもいないじゃねーか…。」
すると、男は笑いながら言う。
「アリスはこの建物のずーっと奥にいるよ。アリスはイレギュラーな存在だからね。言っただろう?その為に君たちキャストがいると。」
少年は、この男が正気ではないと思った。同時に恐怖がわく。この男は自分を本気でキャストにしようとしているのだ…。
「う、うわああああぁぁぁ!!!!」
少年は叫び、逃げ出した。しかし、部屋を出る前に男に捕まってしまう。
「ヒィッ!!!」
「何処にいくんだい?」
少年は暴れる。しかし、男の方が力が強く、逃げる事が出来ない。
「嫌だ!放せ!」
「キャストは君だけじゃないよ。話を知っているって言ってたよね?」
尚も少年は暴れる。
「それじゃ、お薬をあげようね。大丈夫、何も考えなくていいんだよ。」
少年の腕に注射器の針が刺さる。そのまま、少年の意識は暗闇の中に落ちていった…
「…今日午後8時頃、全国を騒がせていた誘拐犯が捕まりました。誘拐犯は28歳の男で、男は腕に注射針の後があり、薬物乱用の疑いがあります。また、捕まった少年たちの腕にも注射針の後があり、同じ薬を男から投与されたと考えられています。少年たちの監禁場所の奥にある部屋には部屋を埋め尽くさんばかりの白ウサギの写真やグッズ等があり、少年たちが『不思議の国のアリス』の登場人物で呼び合っていたことから、何らかの関連性があると調査をしています。次のニュースです…」
end