第十五話 これからのこと
子供たちが寝た後、俺とクラウディアはリビングにいた。
そこで今日あった出来事を話した。
「なるほどね。あんたも災難だったね」
「ああ。俺もまさか危険生物に間違われるとは思ってもみなかった」
「明日からはどうするんだい?」
「今日と変わらない。しばらくは退治や捕獲などの人と接しない仕事を受ける日々だ」
予想していたこととはいえ、俺の出来る仕事は限られる。
その中で稼ぎの多い仕事を選ぶしかない。
兎に角、必要な物を一通りそろえた上で、ある程度の手持ちの金ができるまでは、今後のことは保留にせざるを得ない。
「そうかい。この町は圧倒的に人族が多いから、あんたには窮屈かもね。もし窮屈に感じるなら獣人が多い国に行くことだ」
「獣人とは、子供たちのような容姿の人たちか?」
「そうさ。一部だけ動物などの外見を持つ人たちのことを獣人と総称する。猫族やトカゲ族などがいるよ。そこなら、あんたを気にする人はここよりもずっと少ないだろうね」
猫やトカゲだとモフモフは期待できないな。
まあ、別にモフモフの有無にかかわらず、しばらくはこの町を離れる気はない。
「クラウディアに迷惑と思われても、しばらくはここに厄介になる」
「迷惑だったら最初からあんたをここに置かないよ。ただし、あの子たちの面倒は見てもらうからね」
「俺にできる範囲なら良いぞ。自慢じゃないが、子供の相手はしたことがない」
「そんなことはわかっているさ。あんたは今日みたいに、あの子たちの遊び相手をしてくれればいい。私では、もうあの子たちの遊び相手が務まらない」
今日の鬼ごっこで子供たちが見せた動きはすごかった。
日本で生活していた頃の俺だったら、子供たちを捕まえられなかったに違いない。
槍を元気に振り回せるとはいえ、クラウディアも六三歳だ。もう子供たちの相手をするのが厳しかったのだろう。
「遊び相手なら問題ない」
「それと、明日からはあの子たちを一緒に連れて行ってくれ」
「おいおい、二人共まだ八歳だろ」
俺がする仕事は退治などの危険が伴うものだ。
いくら身体能力が高くても子供と一緒にできるものではない。
「今日、おかしな奴がうろついていたらしい」
「らしい?」
「私は気付けなかった。でも一緒にいたあの子たちは気付いた」
「それって、やばい相手ということか?」
「たぶんね」
「だが、俺も気配などわからないぞ」
「あの子たちがいる。あんたは倒すだけでいい」
「それなら、大丈夫そうだ」
ステータスを過信するわけではないが、今日一日動き回ってわかった。
今の俺は尋常でない。
マラソン選手を超えるスピードと持久力。
クロコダイルの攻撃を躱せる動体視力と反射神経。
クロコダイルの頭蓋骨を粉砕できる攻撃力。
1トンくらいはあるだろうクロコダイルを持ち上げたり、背負ったりできる筋力。
これだけのことを余裕で出来るとなれば、大抵のことは何とかできると思っても差し支えないだろう。
でも懸念がないわけでない。
「だが、子供たちを危険に晒すことになるぞ」
「あんたの言う通りさ。でもね、私とあんたのどちらと一緒にいた方が安全か考えてみな。例え危険生物の群れに囲まれたとしても、報酬を気にしなければあんたなら余裕で退治できるだろ」
「確かに掲示板で見た名前の危険生物だったら大丈夫だ」
ゴブリンやオークなどの異世界の定番や熊などの動物の名前を見かけた。中には知らない名前もあったが、飛びぬけて強いわけでもないだろう。
もし、脅威を感じるような相手だったら、オーガキングの時のように衛兵が退治に乗り出しているはずだ。
「でも暗くなる前に戻ってきておくれ。勉強もさせないとならないからね」
「子供たちがそれを聞いたら文句をいいそうだな」
「文句は受け付けないさ。それにあんたも勉強だよ」
「俺も!?」
「スキルなどの本を引っ張り出しておいた。読んでおいて損はないよ」
「驚かすな。俺も計算とかやらされるかと思った」
「何だい? やりたいのならあの子たちと一緒に教えるよ」
とクラウディアは楽しそうに俺を揶揄ってきた。
「遠慮する。子供たちが俺の計算速度を目の当たりにして自信を失ったら困る」
と俺も軽口で返す。
「そうかい。本はあんたの部屋に置いといた。それと、あんたに合わせて服を仕立て直しておいた。合わなければ言っておくれ」
「マジか! 昨日の今日でか! それは助かった」
子供たちが【洗浄】・【乾燥】で洗濯をしてくれるとは言え、破れた時のためにも着替えは必要だ。
「それにしてもクラウディアは多才だな」
「ふん。褒めても何もでないよ。それにこれは『裁縫』スキルのお陰さ。スキルがなければ、私に出来るのは破れた所を縫い合わせたり、穴をパッチで塞いだりするのが精一杯だね」
「スキルを取得するだけで急にできるものなのか?」
「その通りさ」
「スキルは便利だな。ただし、金額がネックだ」
「自力で取得できるスキルもたくさんある。頑張って覚えたらどうだい?」
「それなんだが……。俺は前の世界で計算に限らず、様々な教育を受けた。でもそれが反映されているスキルを一つも取得していない。強いてあげれば、【異世界言語】が該当しそうだが、俺の世界には存在していない言語だから、これも反映されていると言えないだろう。逆に全く関係のないスキルを取得している。もしかしたら、俺は自力でスキルを取得できないかもしれない」
「それなら、お金を稼いでスクロールを買うしかないね」
クラウディアの言う通りだ。
やはり今の俺に一番必要なのは金だった。