第十話 トラブル解決
小部屋から出た俺は大勢のギルドの人たちが仕事をしている方に足早に向かった。
若い男が慌てて俺を追ってくるが、男の名前を聞いてなかったのでこれは丁度良い。
「おーい! こいつの上司は誰だ!」
俺は大声で叫んだ。すると大勢のギルドの人が一斉に俺の方を見た。
「こ、困ります。へ、部屋に戻ってください」
男は狼狽してオロオロするものの、口で俺を注意するだけだった。
名乗り出てくる人がいなかったので、もう一度叫ぼうとしたら、一人の中年男が慌てて立ち上がってこちらに駆け寄ってきた。
それを見た若い男は顔を青ざめさせた。
◇
俺は中年男にその場で事情を話し、公平に判断できる第三者の参加か、担当の交代を申し出た。
「そ、それは申し訳ありませんでした。す、すぐに対処しますので、部屋でお待ちください」
中年男も俺の容姿が怖いようで、ビクつきながら俺に部屋に戻って待つように言うと若い男を連れて行った。
それを見て俺は部屋に戻った。
◇
「全く初日から無駄な時間を取られる。これじゃあ、割の良い依頼は残ってないかもしれない」
俺は独り言を呟きながら、これからのことを考えた。
依頼で稼ぎになりそうなのを2つ見つけていた。それは大鹿とクロコダイルだ。
大鹿は危険生物の退治報酬に、薬効のある角と食肉、それに皮で十万プル以上は確実だ。問題は大鹿の逃げ足が速いことと、出没地域までの距離が町から離れていることだ。
一方、クロコダイルの方は、危険生物の退治報酬に、食肉と皮でこちらも十万プル以上は確実だ。問題となるのは、いかに水中戦を避けて陸上戦に持ち込むかだ。
もし、これらの依頼がなかったとしても退治報酬は変わらずに支払われる。しかし、肉などの買取価格が下がるようなので出来れば依頼を受けたい。
「それにしても、いつまで待たせるんだ」
俺は焦りから苛立つが、これ以上、ギルドの心証を悪くする行動は憚られる。だから、俺は大人しく待っているしかない。
イライラしながら待っていると、先程の中年男が一人で入ってきた。
「お、お待たせしました」
「早くしてくれ。今日の稼ぎが減る」
「は、はい。け、結論から申し上げますと、そ、その……」
中年男は言いづらそうに、ハンカチでしきりに顔から噴き出る汗を拭っている。
「結論? 俺の事情聴取はどうした?」
イラついているので、どうしても俺の言葉は刺々しくなる。
「は、はい。あの男が、あ、あなたを孤児院から、その、追い出したくて……」
「罪をでっち上げたってか?」
「は、はい。おっしゃる通りでして……」
「それじゃあ、俺はもう帰ってもいいんだな?」
「は、はい」
「だが、帰る前に3つ確認させてくれ。あの男の行動理由と処分。今回のことを踏まえた改善策。俺に対する賠償。以上だ」
「そ、それは、その、あの男は借金がありまして、その返済猶予の交換条件で、あなたをですね、その、孤児院から追い出せと言われたようでして……」
「孤児院から俺を追い出せと言ったのは誰だ?」
「ナ、ナオという男です」
「そう言う事か……。それで、処分は?」
今後のこともあるから確認したが、クラウディアから聞いていた孤児院の土地と建物を欲しがっている奴だった。帰ったら一応クラウディアに報告しておこう。
「ク、クビにしました」
「そうか」
この世界では、何か問題があればすぐに解雇されるようだ。だからと言って、人を貶めるような奴に同情も湧かない。
「か、改善策は、その、これから、です」
中年男の汗は止まらないようで、未だにハンカチで顔を拭っている。
でも、もうビショビショで汗を吸っていない。
「まあ、そうだろうな」
「そ、それから、その、賠償ですが……。お、お金を、は、払うような、その、事柄でなくてですね、しゃ、謝罪を申し上げることしか……」
中年男の声は段々と小さくなって、最後の方はほとんど聞き取れなかった。
賠償を求めたのは別にお金が欲しかったからではない。ただ、今回のことでギルドが俺に対して負い目を感じてくれればそれで良かった。それによって、今後は俺の容姿で善悪を判断しないことを期待したい。
「謝罪してもらえればそれで良い。今後は、今回のようなことがないようにしてくれ。それじゃあ、俺は帰らせてもらう」
俺はすぐに小部屋を後にすると掲示板の所に戻った。