神の正体
「存在を証明されていない者……つまりソフィアはこの世界に神様は存在するって事を他者に認識させたって事か??」
「そう通りじゃ。 ソフィアはその当時に生きていた全ての者に神様は存在すると言う認識を植え付けたのじゃ、そしてその瞬間こそが我が誕生した瞬間でもある」
全ての者?? その瞬間?? ちるの説明に俺は再び混乱していた。
全てって言うのは人類全てなのか?
例えそうだとしても全人類が神様を認識したからって本当に神様が生まれるとは思えない。 さっきのナシと同じだ。 確かに人間の価値観や常識までも変化させるソフィアの能力は凄いが、それらかま変わったからといっても結局そこに何かが生まれる訳じゃない。
そこにあるのは無だけだ。
ちるが生まれたのは、その無をカミヤが有に変えた瞬間じゃないのか??
「つまりソフィアの能力で存在しない者を居ると認識させカミヤの能力でそれを現実の者として生み出したって事か??」
「まぁ簡単に言えばそういう事なのじゃがな、カミヤがくれたのは我の受け皿っ所なのじゃよ。 要は肉体じゃな」
ちるは元気無く答える。 ちるにとってもこの先は少し話辛い事なのかも知れない。
「つまり、ソフィアの能力が発動された時点でちるはこの世に生まれていたってそとなんだな??」
ちるが小さく首を縦に振る。
「正直カミヤの能力から生まれたって言ってくれた方がまだ納得出来るんだが……。
なぁ、本当に存在しない者を存在すると認識を変化させた所で、神様が生まれるのか? そんな簡単な話じゃ無いと思うんだが??
それにもしそれが本当だったとしても今まで神様が、ちるがしてきた事は奇跡的な事だ。 災害や疫病を止め多くの人間を救ってきた。
その力の源が本当に只の人間の認識の力だって言うのか??」
勿論人間の認識がこの世界に影響を与えるのは理解出来る所もある。
例えば大きく燃え盛っている火がそこにあると認識していれば、そこに近ずいた人は火傷をするかも知れないし、最悪死ぬ可能性だってあるかもしれない。
その人の本人の思い込みの強さも関係してくる事だろう。
だけどその火は人間以外を燃やしたりはしない筈だ。 もし近くに木があったとしてその木は燃えるだろうか??
その場を動物が通り過ぎたとして火傷を負うだろうか??
そんな事は起こりえない筈だ。
影響を受けるのは認識している人間だけ。
この地球そのものに影響をもたらす程の力が生まれるとは俺には到底思えなかった。
しばらくの沈黙が続いた後、ちるは静かにゆっくりと口を開いた。
「確かに、お主の言う通り簡単な話ではないのじゃ、最初に言ったが我を生み出したのは彼等二人ではあったが他にも大勢の犠牲の上に我は存在している」
「犠牲??」
「そうじゃ。 まず第一にソフィアが認識を変化させたのは、人類だけではない。 文字通りその時生きていた世界中全ての者じゃ」
「それって人類だけじゃ無くて……」
「そう、全ての生物。 虫や動物、果ては植物まで全てじゃ」
「馬鹿な!! 有り得ない!!」
気付けば俺は立ち上がっていた。 全人類でさえ有り得ないと思っていたのに、それどころか全生命体だと? そんな事ができる訳無い。
「そう言った者達と思念を伝達できる者もおったからのぅ……。 更に言えば先程お主は何百万人の人々が集まらないと不可能と言っておったな??
それを鋭いと言ったのはな、我を生み出すのに何億もの命が犠牲になったからじゃ。 勿論人間だけでは無く他の動物達も合わせてな……」
「なっ!」
話が突飛した様に思い、その先が言葉が出て来ない。
「そう言ったの犠牲の上にたまたま我は生み出されたのじゃ。 目覚めた時の事は今でもよく覚えておる。 誰かが入ってきてはそのまま我の中に溶けて消えていく感覚を今でもはっきり覚えておる。
その一人一人の想いを、願いを無駄にしないように暗闇の中を必死になって進んだ先に、もう駄目だと思ったその先に僅かな光を見つけた事を……そしてそれこそがカミヤが作ってくれた道じゃった。
そうして目覚める事が出来た我は皆の想いを無駄にしないためにも人類を、いや、この世界を救う使命を果たそうと決めたのじゃ」
ちるは目にうっすらと涙を溜めながら一言一言必至に話てくれた。
……正直言えば俺はまだ納得は出来ていなかった。 一体どう言った成り行きで何億人の人々が自らの命を引き換える事に賛同したのか。 それに動物や植物と思念を伝達できた者って言うのも気になる。
そんな疑問が俺にはまだ沢山あった。
だけど溢れる涙を拭うちるにそれ以上何も聞くつもりにはなれなかった。
何億といった人達が犠牲になり二人の能力者によってこの世に生まれた。
きっとその背景は当時を生きていない俺には理解できない事なのかも知れない。
それに結局どんな話をされていても俺はちるを信じている。 理解や納得が出来ないだけでこの話だってちるの言う通り本当の事なんだと思う。
そもそも神のいるこの世界の事を理論的に一つ一つ理解するなんておこがましい事なのかもな。
今の俺がするべき事は、この話を話してくれたちるに感謝をする事だろうしな。
「本当に俺の想像なんて遥かに超えていたな。 ちるの両親、いや、犠牲になった全ての者達がこの世界を守ってくれたんだな。 ありがとう。 ちるにとって大事な話を俺に話してくれて」
「こ、この話はな。 誰も知らない事なのじゃ。 勿論、文献資料と言ったものも一切無いし、その当時の生き残りの者の記憶は不都合が無いように書き換えられておる。 大規模な自然災害によって今の世界の形が出来たとな。 お主に話したのはお主が今の世界で唯一の能力者で有りソフィアの能力が薄まりつつある時代の人間であったからじゃ。 そうでなければこの話に聞く耳を持つものなどおらんからのぅ」
ちるは近くにあったテッシュを手に取り鼻をかんだ後、小さな声で続けて言った。
「今日、お主にこの話を出来て良かった。 ずっと誰かにソフィアとカミヤ、いや、大勢の人々や動植物、彼等の奇蹟を伝えたっ方のじゃ。 ありがとうのぅ」
「俺の方こそこんな凄い話を、世界の英雄達の話を聞かせてくれてありがとう」
俺は立ち上がったまま深く頭を下げた。
「お主が頭を下げるなんて珍しいのぉ、それも今日教えてもらった事なのか?」
ちるは静かに笑っていた。
俺は頭をあげ、ちるにつられて笑う。
きっと俺にはまだまだ知らない事ばかりなんだろう。
人類が滅亡しかけたと言われる三百年前その時に一体何があったのか。 不都合のない様に記憶を記憶を書き換えたって事は、三百年前に人類が滅びそうになったのはもって別の原因があったのだろうか??
気にならないと言えば嘘になる。
でも今はまだ話を聞く時じゃ無いんだと思う。 取り敢えず今日はちるがどうやって生まれたかを知る事が出来た。
それで充分だった。
続きはまたちるが話したくなった時にでも聞こうと思う。 まだ出会ってから一年、きっと時間はまだまだあるだろうしな。
でも最後に一つだけ大した事では無かったけど少しだけ気になった事がある。
「ちるはさ、なんの神様になるんだ?? 俺も詳しくは知らないが神様ってのも色々いたんだろ? ソフィアはちるをどんな神として認識させたんだ? やっぱり人類の神って事になるのか??」
「おっと! それは重要な事じゃな、言い忘れておったわ。
そうじゃなぁー、どうせなら当ててみせよ!! ちなみに人類の神ってのは違うぞ」
いつもの調子に戻ったちるは頬を緩めて話す。
当ててみろかぁ。 人類の神ってのは結構当てに行った分迷うなぁ。 大地、海といった自然的なものなのだろうか??
それともソフィア自身を神と認識させたとか?? いや、ちるの話を聞くとそれは無いと思える。
……一体なんだ??
俺は真面目に悩み色々考えた末に最初に考えた自然の神様だと言う結論をちるにぶつけた。
「ぶー!! 惜しいっちゃ惜しいのぅ!! まぁそれだけ考えてもわからぬのならもう正解は出ないじゃろうな!!
仕方ない、我直々に教えてやろう!!
聞いて驚くが良い!!
我はこの星、地球そのものの神なのじゃ!!
まぁソフィアがそう決めただけじゃがな!! ソフィアは地球に意思を持って欲しかったと言う事になるのかのぅ??地球擬人化じゃ! どうじゃ? 萌え萌えな展開じゃろ??」
そう言ってちるは立ち上がりいつもの体制で高らかに笑った。
最後の方はきっとまた新しいアニメを見たのだろう。 すぐ影響されるのは何時もの事だ。
それにしても地球の神様ねぇ……本当に昔の人ってのはとんでもない発想をするもんだ。
本当にまいっちゃうくらい凄いよな。