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神様に贈る言葉  作者: みんみ
シャル リー ロッテの疑心
16/50

アステルの世界


「では、順を追って話させて頂きますね。

 私が思うこの世界の大きな出来事、歴史の分岐点とも言える事柄は三つです。 

 先ずは何と言っても千年前に私の兄にあたるアステルが引き起こした戦争が一つ、ちる様が世界に初めてその姿を見せたのもこの時だと言われていました。

 そしてその戦争の結果、私の様な獣人がこの世界で生きて行く事を認められたのです」


「その話少しだけ詳しく教えて貰えるか? 獣人ってのは俺には全くわからない事なんだ」


 本当に獣人の存在を知らない事に再度驚く。

 

 長い事生きてきたけど誰かに獣人について説明するのは初めてだ。


「わかりました。 獣人と言うのは人の姿をした獣であり、人との1番の違いは私の様に尻尾が生えていたり爪が鋭かったり耳が良かったりと様々ですね。

 勿論これらの特徴も個人によって差はありますが、どちらにせよ一目見れば人であるか獣人であるかを見破る事は容易いです」


 私は自分の尻尾がノアに見える様に少しだけ体勢を変えた。


「ですが、生まれた時からこの様な姿をしていた訳ではありません。 最初はノア様の想像している通りの姿で間違えないと思います。 そしてその想像を覆したのがアステル兄様なのです」


「それも能力ってやつか?」


「そうです。 アステル兄様も見た目は普通の狼でしたが、その当時のどの人間よりも優れた知恵を持っていたのです。 そして兄様の能力はその叡智を他者にも分け与える事が出来たのです」


「知恵を他者に分け与える? そんな事出来るのか?」


 ノアは声を少し荒げて言った。


 その気持ちは私にもわかる、アステル兄様の力は今までも居た数ある能力者の中でも特に異質だと私自身も思っているのだから。


「ノア様が信じられない気持ちもわかりますが、アステル兄様の能力は本物です。 現に私がこうしてベル様やノア様と会話している事がその証明になるでしょう。 私はアステル兄様から一番最初にその知恵を授かりましたから」


「確かにシャルがこうして存在しているんだ、嘘では無いんだろうな……でもアステルに出来るのは知恵を分け与える事だけだろう? シャルが人間に近い姿をしているのはどうしてだ??」


「それも能力によるものです。 自分の姿と他者の姿を変化させる能力を持った者がシャル達の近くにいましたから、名前はルカ。

 シャルもアステル兄様もルカにこの姿に変えていただきました」


「理解できない事は殆ど能力だな、まぁそう言うものだと割り切るしかないか。

 でもシャルがその姿になったのは納得出来ても他の獣人はどうなんだ? さっきの話だと今は獣人の方が数が多いんだろ? アステルやルカってのは今も生きているのか??」


 流石に鋭い所を質問してくる。 

 だけど、なんだか少し奇妙な違和感を感じる。 ノアの質問は私がこれから話そうとしていた事柄ばかりだったから。 


「どうかしたのか?」


「あっいえ、なんでもありません。 話の途中でしたね。 結果から言えば、アステル兄様もルカも戦争によって命を落としています。 

 ですが今の獣人は生まれながらにして人間の姿とそれに準ずる知能を宿しています。 

 勿論個人差はありますし、人間の姿では無く獣本来の姿で生活している者もいます。 どちらを選ぶのかは本人の意思によって決める事が出来る様になっているのです」


「そんな仕組みが出来上がっているのか……それも誰かの能力って事になるのか? いや、流石に規模が違い過ぎる、ちるの力か??」


 ノアの質問に私は直ぐには答えられなかった。

 昔の話をしているとどうしてもアステル兄様の事を思い出してしまう、あの場に居ながら何も出来無かった後悔と共に。

 

「そ、その通りです。 詳しい経緯は省力し結果だけお伝えしますが、アステル兄様は数いる動物達と共に人間に戦いを挑んだのです。 その戦いは人類、いえこの世界で最大規模の戦いとなり両軍数えきれない程の命が無くなっていきました。

 どちらかが絶滅するまで終わらないと思われた時にそれを止めてくれたのがちる様だったのです」


 私はは一旦呼吸を整えた、このまま話すと少し泣いてしまいそうな気がしたから。

 

「ちる様はなんとか話し合いで解決できないかと働きかけてくれました。 

 その結果両軍の代表者は戦いを中断し話し合いのテーブルについたのです。

 両軍共にかなり疲弊していた為に戦争を一時中断する事に反対するものは居ませんでした。 

 ですが……互いに多大なる犠牲を払った今、話し合いをした所でそう簡単に話が纏まる事はありませんでした。 

 その結果、両軍共に戦争終結の条件を提示する事になったのです」


「条件?」


「はい、そこでアステル兄様が人間側に出した条件こそがこの先の動物達の自由です。 人間に支配されるのでは無く共に共存して生きていける様に、自身の力とルカの力を後世の動物達にも明け渡えて欲しい。 それがアステル兄様の条件、いえ願いでした」


「なるほど、その願いをちるが叶えたって事か。 シャルの兄さんは本当に凄い獣人だったんだな、結果的に世界を大きく変えたのだから。 人間側が出した条件ってのはなんなんだ?」

 

「そ、それは……」


 ベル様の顔を横目で見る。 多分ベル様はあんまり聞きたい話ではないと思った、当時の人間側の代表はベル様の祖先にあたる人なのだから。


「シャル、私の事を気にする必要はないわ。 続きを話して良いのよ?」


 ベル様は私の視線を感じ取ったのか、こちらを向く事なくそう口にした。 

 余計な気遣いをしてしまった、ベル様は自身が好まない話だったとしても、それを隠す様な人じゃ無いのは私が一番わかっていた筈なのに。

 

 私はベル様に一礼し続きをノアへと話す。

 

「わかりました。 人間側の条件はちる様の力を使うというものではなく、とてもシンプルな事、獣人側のリーダーであるアステル兄様を処刑する事です。 

 戦争の発端を作った大罪人としての処刑。 人間の手によって処刑しこの戦争は人間側が勝利した事にする。 

 それが人間側の条件でした、そしてその条件をアステル兄様が受け入れた事で長く続いた戦争は終結に向かったのです」

  

 私の話を聞いたノアは顎を手で摩りながら少しだけ声の大きな呟いた。


「アステルの処刑か、確かに人間側からしたらそれは最も効果的な事かも知れない。 何にせよ一度勝利した事があると言った事実はもし今後同じ事が起こった時の人間側の希望にもなるし、敗北を刻まれた獣人側には抑止力にも繋がりそうだしな」


 ノアは関心しながら小さく頷いた後、私の方に目をむけ少し慌てた様に続けた。

 

「わ、悪かった!! シャルの兄さんが処刑されたって話なのに、効果的なんて言って……それにシャルもこの話するのは辛かったよな。 その、ごめんな」


 既に何回か見たノアの謝罪だが、常に心がこもっている様に感じられる。

 

私になんて謝る必要も無いのに、律儀なのか真面目なのか。 不思議な人だ。


「謝らないでください。 随分と昔の話ですし、それにアステル兄様も自分が処刑される事をわかって話し合いに応じた筈ですから。 公開処刑されるあの瞬間……兄様は笑っていましたから」



『シャル! 俺はこの世界を変えてみせる、それが俺が生まれてきた意味なんだから』 


 兄様は口癖の様にそう言っていた。 

 そして言葉通りに成し遂げたのだ、だからこそあの時兄様は笑っていたのだ。

 

「ありがとうシャル、おかげで獣人がこの世界に存在している理由はわかったよ。 まさに歴史の分岐点だな、残りの二つも教えて貰えるか?」


 ノアの言葉に私は我にかえる。 

 どうやら少し感傷的になっていたみたいだ。


 背筋をもう一度伸ばし、私はノアの質問に答えた。

 

「失礼しましたノア様。 残りの二つですが、実は私もそこまで詳しくはないのです、アステル兄様の時と違い完全に部外者になりますから。 

 ですので起こった事象だけを述べさせて頂きます。 先ずこちらを御覧になってください」


 ベル様が迷子になった時のために使う地図をノアへと見せる。


 古びていて見難い所もあるが縮小が自在に出来るので今はこれで十分だろう。

 今のこの世界の全体図が分かればすぐに理解してくれるものなのだから。

 

「……なんだこれ?」


 ノアは目の前の地図をまじまじと見つめている。 

 流石のノアもこれには驚いている様だ。


 ようやく少し人間らしい所が見えたかな?


「それが今の世界地図です」


 私は何処か得意げにノアへと告げた。


「こ、これが今の世界地図? これは本当に俺のいた時代の未来か? こんなのまるでっ! まるで異世界だ!!」


 今までのノアからは考えられない程の大声と、馴染みのない言葉が飛び出した事に私とベル様は思わず目を合わせ声を吹き出してしまった。


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