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「よいしょ、こらしょ。
よいしょ、こらしょ。
ふぅ、やっとこさテッペンだー。
あー、疲れたぁ。
ロボットさんって、
小さいけど、けっこう重たいんだねー」
男の子は、
トラの野球帽を脱ぎ、額の汗を拭って、
それから、
持っているトラの野球帽を、顔の横でパタパタさせました。
ロボットは、
男の子の方に向き直して言いました。
「ありがとさん。
おかげで、
坂を登るの、だいぶ楽だったよ。
助かった。
はい、
これ、返すよ」
ロボットが、
持っていたニワトリの風見鶏を、男の子の方へ差し出すと、
男の子は、
「あ、もうちょっと持ってて。
汗、まだ全然乾いてないから。
ふぅ、あっちぃ」
と言って、上を向き、
シャツの胸元を掴んでパタパタさせつつ、顔の横では帽子をパタパタさせました。
「うん、分かった。
もうちょっと待つ」
ロボットは、伸ばしていた手を引っ込めました。
少ししてから、
自分の手元にある、ニワトリの風見鶏を見ます。
風見鶏は、
尾羽の赤いプロペラをクルクルと回しながら、
あっちを向いたり、こっちを向いたりして、
キィ・・・キィ・・・と、甲高い音を響かせています。
「あ、もういいよ。
汗、だいぶマシになったから」
トラの帽子を再びかぶった男の子は、そう言って、
ロボットの顔の前で、手を広げました。
ロボットは、
「あいよ」
と言って、
その男の子に、風見鶏を返します。
男の子は、
「じゃあねー。バイバーイ」と言って、丘の向こうへ駆け下りていきました。
でも、すぐに止まって、
また、ロボットのところまで駆け上がってきました。
「ロボットさん、
そういえばさー、
確かさっき、良いこと教えてくれるって言ってなかった?」
男の子が尋ねると、
ロボットは、ハッとしました。
忘れてました。
「ゴメンゴメン、うっかりしてた。
えーっと・・・、
あ、そうだ!」
そう言って、手を叩いたロボットは、
ちょっとだけ前に進み出て、
今、男の子が駆け下りて行こうとした道を手で指して、
言葉を続けました。
「えと、
そっちの道さー、
実は、小さな穴がそこら中にたくさん開いてて、
とっても危ないんだ。
イタズラ好きのモグラさんが、
今朝、いっぱい作っちゃってね」
「え?、そうなのー?」
「だから、
少し遠回りになるけど、
こっちの細い道を通って、丘を下った方が安全だよ」
ロボットは、
細い脇道を指して、そう言いました。
男の子は、
脇道をじぃっと見て、
少ししてから、
向きをゆっくりと変えていって、穴がたくさんあると言われた道を見て、
それから、ロボットの方を振り向きました。
「ねぇ、
ロボットさんの教えてくれた、こっちの細い道ってさー、
こっちを下っていったところと同じ場所に着くー?」
男の子は、
脇道の方と、もともと下っていこうとしていた道の方を順番に向き、
尋ねました。
ロボットは頷き、答えました。
「うん、同じところに出るよ。
ここをまっすぐ下っていくと、ガラクタ置き場に突き当たるでしょ?」
「物がたくさん捨てられているところー?」
「そう。
そっちの細い道を通っても、そこに着くよ」
「そうなの?」
「うん」
「あとさー、
ロボットさん、
さっき、遠回りって言ってたけど、
それって、どれくらい?。
あんまり遠回りだと、雨になっちゃう。
ママに怒られちゃう」
「大丈夫。
そんなに変わらないから」
「ほんとー?」
「うん、本当」
男の子は、
少しの間、じっと考えていましたが、
やがて、
「じゃあ、
僕、こっちの道で帰ろうっと。
ロボットさん、
教えてくれて、ありがとう。
バイバーイ」
と言ってロボットに手を振り、
それから、細い脇道へ入っていき、
元気よく駆けていきました。
ロボットは、
ちょっと待ってから、
さっき自分が、「モグラの穴がたくさんある」と言った方の道へ向き直しました。
そのまま、ゴロゴロと走り出します。
「さぁ、
早くこの坂を下りて、先回りしなきゃ。
隠れるのは、どこが良いかなぁ。
ガラクタ置き場・・・は、ちょっとイヤだから、
その手前の、ブナの木の裏でいいか。
急に、わっ!・・・って言って飛び出したら、
あの子、すっごく驚くぞー。
急げ急げー」
そんなことを口にしながら、
車輪を4つとも勢いよくゴロンゴロンと回し、頭の風ぐるまもグルングルンと回し、
猛スピードで坂道を下っていきます。
そして、あと少しで下に着くというところで、
ロボットは、
ちょっと先の地面に、小さくて黒い何かが落ちてることに気が付きました。
そこら中に、たくさん落ちています。
「ん?、
何だ、あれ?。
・・・って、穴じゃないか!」
そうです。
モグラたちは、
今朝、
本当に、道にたくさんの穴を開けていたのです。
ロボットの話は、ウソでは無かったのです。
「おおお、止まれねー!。
もう穴を避けきるしか・・・って、あー!」
穴にばかり気を取られていたロボットは、
その手前に落ちていた石に気付けませんでした。
けつまづき、
倒れて、
その勢いのまま、ゴロゴロと転がり続けて、
坂の残りを、一気に下っていきます。
「うおぉぉ、
目が回るぅうぅうぅうぅ・・・」
ロボットは、
坂を下り終えても、まだ転がり続けました。
そうして、やがて、
ガラクタ置き場の、壊れた冷蔵庫に、
ガッシャーン!・・・と大きな音を立ててぶつかると、
跳ね上がり、すぐに落ち、
僅かに転がり、
それで、ようやく止まりました。
「・・・」
ロボットは、なかなか起き上がりませんでした。
気を失っていました。
雨が降り始めました。
倒れたままのロボットの体に、ポツポツと雨粒が落ち、
その音で、ロボットは目を覚ましました。
「うーん、何とか無事だったか。
ひどい目に遭った・・・。
起き上がらないと・・・」
そう言って、起き上がろうとしましたが、
ダメでした。
力が入りません。
「くそ、エネルギー切れか・・・。
あれ?、でも・・・」
ロボットは、
地面に落ちる雨粒を見ていました。
雨粒は、斜めに落ちています。
「おかしいな、風は吹いてるのに・・・。
どうして・・・」
そう呟いたロボットの目に、あるものが映りました。
ガラクタ置き場の冷蔵庫、その手前の地面に、
灰色の、ひしゃげた風ぐるまが落ちていました。
「・・・そっか」
ロボットは、
また、気を失いました。




