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日が暮れ、辺りが暗くなりました。
魔法使いがキッチンのオーブンを開け、
香ばしい匂いのするアツアツのパンたちを、ひとつひとつトングで挟んで取り出していると、
ドアの開く音が聞こえました。
「ただいまー。
あー、楽しかったー」
ロボットの声です。
車輪をゴロゴロ転がし、こちらへ向かってきています。
魔法使いは、カラになったオーブンを閉め、
はめていたミトンを外して、後ろを振り返りました。
「ロボットさん、おかえりなさい。
あのね、ちょっと話があるの」
魔法使いが、そう言うと、
キッチンの前を通り過ぎてしまったロボットは、
そのままバックして、また戻ってきました。
魔法使いの方へ向き直り、顔を上げて尋ねます。
「えー、なにー?。
何の話ー?。
オイラ、疲れちゃったから早く休みたいんだけどー」
「あのね、
動物さんたちが、あなたのウソで困っているの。
もう、ウソをつくのをやめてほしいの」
それを聞いたロボットは、
不満そうな顔になって言い返しました。
「えー、
オイラ、ウソなんか言ってないよ」
「でも、
動物さんたちは、ウソをつかれたって・・・」
「だったら、
その動物たちの方がウソを言ってるんだよ。
オイラ、本当のことしか話さないもん。
それより、さっきも言ったけど、
オイラ、疲れちゃった。
書斎の隅に行って眠ってるから、
電気石、交換しといてね。
じゃあね」
ロボットは、
そう言うと向きを変え、
4つの車輪をゴロゴロ転がし、書斎の方へ行ってしまいました。
魔法使いは、
右手を頬に当て、またため息をつきました。
朝になりました。
今日は、
空を、灰色の雲が覆っていました。
湿り気のある風が、そよそよと吹いてます。
ロボットは、目を覚ましました。
「ふぁぁ・・・。
あー、よく寝たぁ。
さて、今日もたっぷり遊ぶぞー・・・って、
あれ?。
オイラ、こんなところで寝たんだっけ?」
そう言ったロボットの正面には、
魔法使いの家の前にあるチューリップ畑と、
その真ん中を突っ切って向こうへ延びている、1本の道がありました。
後ろを振り返ると、玄関のドア。
ロボットは、ちょっと不思議に思いましたが、
すぐに気を取り直し、
「まぁ、いいか。
さて、遊びに行こうっと」
と、車輪をゴロゴロ転がし、
チューリップ畑の間に延びる道を、元気よく走り始めました。
でも、徐々にスピードが落ちてきて、
チューリップ畑をもうすぐ抜けるというところで、ついには止まってしまいました。
「おかしいなぁ・・・。
体が動か・・・ない・・・し、
それ・・・に段々と・・・眠く・・・なっ・・・」
「・・・」
「・・・」
上空を流れる雲が、
ちょっとだけ厚くなりました。
風が吹き、
チューリップ畑の、色とりどりの花が揺れています。
ロボットは、
しばらくして、また目を覚ましました。
「あれ?。
何か知らないけど、
オイラ、いつの間にか眠ってたぞ?。
どうしたんだろう・・・。
そう言えば、
庭を走ってたら、力が入らなくなってきて、
体が動かなくなっちゃって、
それで、段々と眠くなってきて・・・」
ロボットは、その場でちょっと考えました。
でも、分かりませんでした。
少ししてから、
また魔法使いの家の方に向き直すと、
そのまま、ゴロゴロと戻っていきました。
「あ、魔法使いさん。
何だか、体の調子が悪いみたいなんだ。
ちょっと診てくれよ」
ロボットは、
ちょうど玄関から出てきた魔法使いに向かって、そう言いました。
魔法使いは、ロボットに訊き返します。
「あら、どう悪いのかしら」
「走ってたら、
よく分からないけど、体の力が入らなくなってきてさ。
それで段々と眠くなっちゃって・・・」
「あぁ、それね、」
魔法使いは、そう言って頷くと、
言葉を続けました。
「実は、
昨夜、眠ってるあなたに魔法をかけたの。
電気石の力じゃなくて、風の力で動くように変えたのよ。
イガイト、キョウフウ、ネコノハナイキ。
ほら、
これで、自分の頭の上を見てみなさい」
魔法使いは、ちょっとだけ屈んで、
魔法で出した手鏡を、ロボットに渡してやりました。
ロボットは、その手鏡を受け取ると、
早速、自分の頭の上を見てみます。
「あ!、
いつの間にか、風ぐるまが付いてる!」
ロボットの頭の上には、細長い棒が立っていて、
その先っちょに、
ねずみ色をした風ぐるまが付いていました。
風に吹かれて、クルクル回ってます。
魔法使いは言いました。
「その風ぐるまが回ると、あなたの体にエネルギーが貯まっていくの。
それで、しばらくの間は動けるわ」
ロボットは、
魔法使いを見上げて、言いました。
「それだと、風が吹いてないと、
オイラ、すぐに動けなくなっちゃうじゃないか」
魔法使いは、
「ヌレルト、シボム、ネコノシッポ」と、マジナイの言葉を唱え、
ロボットが持っていた手鏡を消しました。
そうして、
それからロボットを見て、
「そうね。
でも、そのときは動物さんたちに頼んで、
頭の風ぐるまを、ふーふー吹いてもらえば良いわ」
と言いました。
「そんなのやだよ!。
元に戻してよ!。
何でこんな風に変えたんだ!」
ロボットが、ぶーぶー文句を言うと、
魔法使いは答えました。
「あなたが動物さんたちにウソばっかりついて、迷惑をかけているから、
これはその罰よ。
あなたがちゃんと反省して、もうウソをつかないって約束してくれるなら、
風ぐるまじゃなくて電気石で動く元の体に、また戻してあげるわ」
「やだよ!。
すぐに戻してよ!」
「だめ。
あなたがちゃんと反省するまでは、そのままよ」




