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あるところに、
ひとりの年老いた魔法使いとたくさんの動物たちが暮らしていました。
魔法使いと動物たちは仲良しで、
毎日、平和に楽しくのんびりと過ごしていました。
ある晴れた日の、気持ちの良い昼下がりのことです。
魔法使いが自分の家で、
寒がりのヘビのために、長い長いトンネルのような腹巻きを編んでいると、
窓をトントン叩く音と、声が聞こえてきました。
「おーい、魔法使いさん。
大変だー、大変だー」
魔法使いは、
編み物をやめ、顔を窓の方へ向けました。
見ると、
外に、1匹のリスがいました。
大変だー、大変だー、と言いながら、
その小さな手で、窓をせっせと叩いてます。
魔法使いは、
よっこらせ・・・と言って、椅子から立ち上がりました。
窓の方へ歩いていき、窓を開けると、
リスに向かって言いました。
「おや、リスさん。こんにちは。
どうしましたか?」
「魔法使いさん、
モーちゃんの頭が、森の木の洞にすっぽり嵌っちゃって抜けなくなっちゃったんだ。
早く来てくれよー」
「あらら、それは大変ね。
すぐに行きましょう」
魔法使いは、そう言って、
リスと一緒に出掛けていきました。
森に入ると、
うーん、うーん、という声が聞こえてきました。
「魔法使いさん、
ほら、モーちゃんはあそこだよ」
立ち止まったリスが、
そう言って、向こうにある1本の木を指差しました。
魔法使いも足を止め、そちらを見てみます。
すると、
1匹のモモンガが、木の洞に嵌ってしまった自分の頭を抜こうと頑張っていました。
「あら、本当ね。
早く行って、助けてやらなくちゃ」
魔法使いは、そう言って、
リスとともに、モモンガのモーちゃんのところへ駆けていきました。
「ハナーレ、コジマノ、ネコノニクキュウ」
木の下に着いた魔法使いは、マジナイの言葉を唱えました。
すると、
モモンガの嵌っていた木の洞が、突然ボワンと大きくなりました。
「やったー、頭が抜け・・・うわっ」
頭を勢いよく抜いたモモンガは、
そのまま、宙を真っ逆さまに落ちていきます。
でも、
器用に体をクルンと捻ると、お腹を下にし、
手足を大きく広げ、
スイーっと大きな円を描いて、
魔法使いとリスのところへ、ゆっくりと下りていきました。
「魔法使いさん、どうもありがとう」
下に下りたモモンガは、
魔法使いを見上げて、お礼を言いました。
「いえいえ、どういたしまして。
それはそうとモモンガさん、あんなところで何をしていたの?」
魔法使いが尋ねると、モモンガは答えました。
「わたし、クルミを探してたの。
あそこに世界一美味しいクルミがある・・・って、ロボットさんが教えてくれたから。
でも、なかなか見付からなくって、
それで、
もっと奥を探してみようと思って、無理して頭を突っ込んだら抜けなくなって・・・」
すると、リスが言いました。
「だから言ったじゃないか。
あんなヤツの言うことなんか全部ウソに決まってるって」
「えー。
でも、もしかしたら本当にあそこに世界一美味しいクルミがあるかもしれないでしょ?。
わたし、
一応、探してみようと思って・・・」
「で、モーちゃん、
その世界一美味しいクルミ、あったの?」
リスが尋ねると、
モモンガは、ガックリと項垂れて言いました。
「ううん、無かった・・・」
「ほら、やっぱりウソだった。
僕も、
昨日、あのロボットにウソをつかれて酷い目に遭ったんだ。
『あの草の実、潰して手足に塗るとスベリ止めになるよ』って言われて、
それで試しに塗ってみたらツルツル滑っちゃって、
すぐにすってんころりんと転んで池の中に落っこちて、ズブ濡れになっちゃったし、
タヌキのターちゃんも、寝付きが悪くて困ってるってロボットに相談したら、
『この葉っぱを煎じて飲むと、グッスリ眠れるよ』って言われて、
それで飲んでみたらオナラが止まらなくなっちゃって、
『どーしましょ、どーしましょ』って、
オナラをぷーぷーしながら、自分のお腹をせっせとポンポコ叩いていたし、
ホント、
アイツ、ウソばっかり。
魔法使いさん、ちょっと懲らしめてやってよ。
じゃあね。
行こ、モーちゃん」
リスは、
プンプン怒ってそう言うと、モモンガと一緒に森の奥へ駆けていきました。
魔法使いは右手を頬に当て、困り顔になって言いました。
「はぁ、どうしましょ。
拾ってきたの、やっぱり失敗だったかしら」
そのロボットは、
1週間前、
丘の下にあるガラクタ置き場で、魔法使いが見付けたものでした。
あちこち破れたソファーやら点かなくなったテレビやら錆びついた三輪車やら、
空き缶やら穴の空いたカサやらヒビ入りの大きな鏡やらの中に混じって、そのロボットは捨てられていて、
それを見た魔法使いは、ちょっと可哀想に思い、
「ノビール、ノビール、ネコノシタ」
と、マジナイの言葉を唱えて宙に浮かせ、
家に持ち帰りました。
魔法使いは、
まずは、
ロボットの全身に付いたホコリを、ハタキでパタパタと払い落として、
次に、
布巾を使って、
丸い目や四角い口、寸胴のボディを隈なくゴシゴシと拭いてやりました。
それから、外れていた左腕をくっつけると、
足代わりの4つの車輪のネジをしっかりと締め直し、
剥げていた塗装をきれいに塗り直し、
壊れたバッテリーの代わりに電気石を入れてやり、
最後に、
「サワルト、アツーイ、ネコノミミ」
とマジナイの言葉を唱えて、命を与えました。
そうして、
そのロボットは、魔法使いと動物たちの新しい仲間になったのでした。
「はぁ、どうしましょ」
まだ右手を頬に当てたまま、川辺の道を歩いていた魔法使いは、
ため息混じりに、そう呟きました。
もう、10回以上は呟いてます。
「あ、
魔法使いさん、こんにちは」
上から声が聞こえたので、見上げると、
1匹のヒバリが翼を広げ、魔法使いの頭上をクルクルと飛んでいました。
「あら、
ヒバリさん、こんにちは。
これからどこに行くの?」
魔法使いが、そう尋ねると、
ヒバリは言いました。
「カエルさんの合唱会が池の畔であるって聞いたから、
そこに向かっているんだ。
もうすぐ始まるって言われたから、急がないと」
魔法使いは、驚いて言いました。
「あら。
カエルさんの合唱会は、確か明日の夕方のはずよ」
「え?。
でも、新入りのロボットさんは、
もうすぐ始まるって、さっき教えてくれたけど・・・」
「ちょっと待ってて。今からカエルさんに訊いてみるわ。
フユハフックラ、ナツハビローン、ネコノハラ。
・・・もしもし、カエルさん?。
あ、驚かせてしまってごめんなさい。
合唱会って、いつからかしら?。
・・・そう、やっぱり。
ありがとう。
練習頑張ってね。それじゃ」
カエルとの話を終えた魔法使いは、
肩に止まって、ひと休みしていたヒバリに言いました。
「合唱会、やっぱり明日の夕方からみたいよ」
「えー。
じゃあ、ロボットさんの言ったこと、
ウソだったの?」
「そうみたい」
魔法使いがそう返すと、
ヒバリは、
頭の羽毛を起こして、ピィピィ鳴いて怒りました。
「もー、また騙されちゃった。
ホント、いい加減にしてほしいわ。
魔法使いさん、教えてくれてありがとうね。
じゃあね」
ヒバリは、
そう言って魔法使いの肩から飛び降りると、
翼をパタパタ動かし、あっという間に空の高いところまで上がりました。
そして、魔法使いの遥か頭上でクルリと円を描くと、
翼を大きく広げたままで、スイーっと帰っていきました。
魔法使いは、
右手を頬に当て、歩き出しました。
ため息混じりに呟きます。
「はぁ、どうしましょ」
2020/4/5
「summer echo」の次の話は、もう少しかかります。




