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生徒会長、降臨

 目の前がぐるぐる回って、乗り物酔いのような気分に陥った。それから目を開けると、僕は真昼の光を浴びていた。


「ここは、……どこだ」


 主からの応答はない。どうやらどこかの村落らしい。安っぽい木造建築が軒を連ね、畑が見える。かなりの田舎だ。


「ふ……ふふふ、分かるぞ、主よ、ここから僕の覇道を始めよ、というのだな」


 立ち上がり、人気のない道を歩いていると、ぼとり、と音がした。若い娘が一人、脇道で僕を見て立ち尽くし、運んでいたジャガイモ入りのかごからジャガイモがこぼれていた。


 娘は茶髪のロングを位置の低いところで束ねてポニーテールにしていた。外国の者なのか、やたら彫りの深い顔立ちをしている。そしてなぜか耳が長い。先天性の奇形なのかもしれない。


「なんだ、そこの女史、僕を見つめて、……さては惚れたな?」

「よ、予言者さま……」

「うん? なんだって」


 娘はジャガイモのかごを投げ捨てて、いきなり走り出し、僕の元まで来るとしゃがみ込んで僕の足にすがりついた。


「お願いします、予言者さま! 私たちをお導きください、お願いします!」

「は? 予言者だと、どういうことだ」


 娘は涙ぐみながら、お願いします、お願いしますと連呼し続けた。わけが分からないままでいると、ふいに腹が鳴った。やけに腹が減っていたのだ。


「あ、予言者さま、おなかがすいていらっしゃるのですね! 私のウチで食べていってください!」

「ほう、いいのか、ではごちそうになろう」


 ――彼女の家まで案内されて、ぼろい木造二階建ての家に入れてもらった。中には誰もいなかった。


「家の者は」

「そ、外に働きに出ています。しばらくしたら帰ってくると思います」


 娘はかなり緊張している様子。まぁ無理もない。僕は生徒会長なのだから。緊張して当然だ。


「名はなんという」

「フェンリィと申します」

「ふぇんりぃ? どこの国の者だ」

「国ですか? ここはバリザイ共和国です」

「……ばりざいきょうわこく、か」


 僕の天才的頭脳が一瞬にしてひらめいた。そんな国はない。そして娘が嘘をついているそぶりはない。つまり、……ここは異世界っ! 


 シチューのような料理を出されて、食べてみる。味が薄いが、腹が減っている分、おいしく感じた。


「ふむ、悪くないな」

「はぁっ……よかった」

「して、フェンリィ女史よ」

「はい」

「きみは僕のことを、予言者と呼んでいたね、予言者とは何だ」

「え……、ご存じないんですか」

「あぁ、まるでない」

「えっと、じゃあ、ちょっと待っててください」


 彼女は二階に上がり、一冊の古い本を持ってきて僕によこした。


「これがうちの村に代々伝わる、予言者信仰の本です」

「ふむ」


 本の表紙には意味不明な象形文字が記されていて、僕には読めなかったが、まじまじと見つめるうちに、なんだか読めるような気がしてきた。


「最初のページに、あなた様のことが書いてあります」

「どれ」


 最初のページを開いてみると、そこには黒髪に白い肌をした学生服姿の人間の写真と、その隣に紹介文が書いてあった。


「なになに、予言者の降臨?」


 紹介文の題名が読めた。まさか、言語学の才能まであるとは、僕の天才性もいよいよ極まってしまったな。さすがは生徒会長といったところか。……自分で言うことでもないか。はっはっは!


「はい、三百年に一度、この村を救うために予言者さまが降臨なさるという言い伝えがあるのです」

「それが、この僕、であると」

「はい、その絵に描かれているとおりの服装をしてらっしゃいますし、それに、髪が黒いですから、間違いありません」

「ほーう」


 さすが僕だ……。知らぬ間に、三百年に一度の存在になっている。ここまできたら、世界の因果律が僕に全力で味方しているとしか思えないっ……思えないっ!


「あとで予言者さまの降臨を村の者にも広めなきゃ……」

「まぁ何でも良いが、しかし予言者と呼ぶのはやめてもらおう」

「ではなんとお呼びしたら」


 ふっ、と僕は一度鼻で笑い、無知な娘にドヤ顔で言ってやった。


「生徒会長と呼びたまえ! はーはっはっは!」

「せいと、かいちょう?」


 またしてもきょとんとした顔だ。どこの国の女も、反応が大して変わらんな、と思った。


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