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生徒会長、新世界へ羽ばたく。

「ねぇ、会長、そんなところでたそがれちゃって、どうしたんです」


 中庭のベンチ(特注のロココ調・サイドにryosuke saitoの刻印あり)に座り、放課後に僕は夕日を眺めながら、物思いにふけっていた。


「みどりくんかね、なぁに、ちょっとした妄想さ」


 副会長の女、名前は田中みどり。仕事はできるが名前が平凡すぎて会長選で落選し、僕の下についた。完全なる僕のしもべだ。


 僕が持っていたペットボトルの中のお茶をたしなんでいると、みどり女史は僕の隣に座り、このような世迷い言をはいた。


「妄想って、エッチなことでも?」


「ぶはぁっっっっっ!!」


 僕は口の中の茶を空中に吐き散らした。


「な、なにを言うんだ、急に」


「アハハ、会長、驚きすぎですよ」


 僕は下ネタのような品位を欠く言葉にはあまり耐性がない。彼女にはそれを見抜かれている。カリスマ性が半端ない僕の権威にひがんで、意地の悪いことをいってくる。


「妄想というのはだ、きみも知っているだろうが、神の啓示についてだよ」


「会長の家って、たしかクリスチャンでしたね」


「そうだ。いつになったら、僕のもとに神の啓示が授けられるのだろうと、ふと考えてみたんだ」


「……え、神の啓示がくる前提なんですか?」


「? 当たり前じゃないか、僕は生徒会長だぞ」


 みどり女史はきょとんとした顔で、まるで理解できないような態度だった。美しくもなく、醜くもない、賢くもなく、馬鹿でもない、すべてが平均的な日本人女性はよく、この顔で僕を見つめることがある。


「会長は、自分の役職をなんだと思っているんですか?」


「なにって、……ふふん、ずばり神だ」


 みどり女史はぽっかり口を大きく開けて、なぜかあきれている。なんだろう、僕の話に、理解できないほどの理論的跳躍があったのだろうか?


「ともかく、僕はもうじき会長の座を退かねばならん、本来なら永久に生徒会長であらねばならない僕が、任期規定などというタイムリミットのせいで、全権力を手放さなければならないのは我慢ができんのだ」


「ゆっくりしたらいいんじゃないですか、うちはエスカレータ式で大学に進学できますし、受験に忙しいわけでもないし」


「分かっていないな、みどり女史よ。生徒会長に休日はないのだ」


「あるとおもいますけど……」


「はぁ、僕はもっと生徒会長として、世界に羽ばたくべきなのだ。しかし、僕は日本という鳥かごにとらわれたまま、大学で四年も過ごさねばならない。僕という巨大な存在は、大学という枠組みの中では大きすぎて入らない!」


「えぇ……入れますよ」


「どうやってだ」


「いや、普通に、正門から、堂々と、歩いて」


「――ハッ、笑止千万! そんな物理の話をしているのではないよ、僕はもっと高尚な概念の話をしているっ!」


「ふつうに青春すれば良いんじゃないですかぁ」


「青春にうつつを抜かしているようでは、革命はあり得ないよ。はぁ……僕の支配すべき、次なる世界はいずこへ。主よ、教え給え」


「……せっかくイケメンなのに、残念な人だ……」


 僕は主に祈りを捧げるべく、校舎の向こう側の夕日に向かって、アーメンと言った。すると瞬く間に太陽の光が僕の全身を包み、神々しく輝き始める!


「えっ、会長、ちょっと、どうしたんですかっ!?」


 背後でみどり女史が慌てふためいているが、すべては無駄だ。僕は直感で、これが神の啓示だと悟った。ついに僕は神聖にして絶対不可侵の生徒会長として羽ばたくときがきたのだと感じた。


 そのまま僕は光の中に消えた。後のことは頼んだぞ、副会長。そう最後に言い残し、跡形もなく、消え去った。


「か……会長が、……消えちゃった。たいへんだ!」


 田中みどりはすぐにその辺を歩いていた職員を捕まえ、訴えた。


「先生っ、斉藤会長が行方不明です!」


「は? 斉藤会長って、誰だ?」


「え? ……そういえば、誰だっけ」



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