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9号機 再会

 激しい銃声、耳を裂くような金属音、鼓膜を震わす爆発音。まるで戦争をしているような音が鳴り響く中に俺はいた。いや、まるでも何も戦争中なんだけど。

 戦争とは言っても、人間とロボットの無機質な戦いだ。

「それにしてもさ、どこからこんなに湧いてくるんだこいつら…毎日結構な数倒してんのにまだ出てくんのね」

「ミナミが弱音を吐くなんて珍しいな、明日は雨でもふグフォアっ!?」

 ミナミが投げた何かが俺の腹部にクリーンヒットした。

「あ、ごめん手が滑った」

「お前何投げ…ってこれアンドメイドの頭じゃねぇか!」


 アンチロイドに入ってから数週間が経ち、俺もだいぶ戦闘に慣れてきた。それでも、アンドメイドを撃つのは今でも心が痛む。

「さて、こんなもんかな。ヒュウマ、そろそろ帰ろうか」

「あぁ、そうだな」

 暴走していたアンドメイドをあらかた倒した俺たちは本部に帰ろうとしていた。

「待ってくれ、ミナミ」

「何よ、まだいたの?」

「いや、そうじゃない…けど…」

 建物の屋根の上に人影が…正確にはアンドメイドの影が見えた。

「あれ人間…いや、アンドメイドよね。あんなところで何してるの?気づかれる前に撃つわよ」

 ミナミは小銃軻遇突智(かぐつち)を構えた。

「待て、あれは…イアだ…!」

 間違いない、俺がイアを見間違えるはずがない。

「イアって、前にもそんな名前言ってたよな?もしかしてあんたのアンドメイドなのか?」

「あぁ…イア聞こえるか、俺だ、ヒュウマだ!降りてこいよ、話をしよう!」

 必死の叫びもイアには届かなかったのか、どこかに去って行ってしまった。

「待って、イア!」

「落ち着けヒュウマ、あいつの目を見たろ!目が赤いってことは覚醒起動してるってことだ、こっちの声なんて聞こえるわけないだろ!」

 俺は完全に冷静さを失っていた。ずっと姿を見せなかったイアが目の前に現れ、今も無事に生きている、その事実がわかっただけで安心した。けど同時に、あの赤い目を見て戦いは避けられないという現実に向き合えなかった。




 気を失った俺は医療班に運ばれ、目を覚ました時には医務室のベッドで寝ていた。

「やっと起きたか」

「ミナミ…俺は…」

 ベッドの横にはミナミが座っていた。ずっと看取ってくれていたのだろうか。

「三日、ずっとうなされてた。あんたがどれだけイアってやつのことを想っているのかわかった。だからこそ、あんたはもっと強くなった方がいい。力ではなく心が、な」

「…わかってるけど、やっぱりキツいわ…」

「そうだろうね。すぐに強くなれなんて言わないよ、私もいるんだ、何かあったら話してよ」

「うん…ありが…って、何してんの」

 ミナミは俺の頭を撫でていた。

「ん?いや、あんた一応年下だし、たまにはお姉さんっぽいことしとこうかなって」

「そ、そっか…ありがとう…」

 物心ついた時には独りだった俺には初めての感覚で、なんだか気恥ずかしかった。


「とりあえずあんたはしばらく休暇を取りなさい。その間は私がなんとかするから」

 そう言うミナミは、今まで見たことないような笑顔をしていた。

「それだと負担が…」

「私の実力はずっとそばで見てきたあんたが一番知ってるでしょ?」

「それはそうだけど…」

 それでも、俺は自分の無力さを認めたくなかった。

「ミーちゃんがこう言ってるんだから大人しくしといた方がいいよ」

「だ、だれっ!?」

 どこからともなく、白衣を着た男が現れた。

「ねぇ、その呼び方やめてって言ってるでしょ?」

「だって呼びやすいんだもん」

「もん、じゃないわ!アホ!」

 俺はここに来てから置いてきぼりになることが多いような気がする。

「申し遅れました、僕は医療班長のタツミです。ミーちゃんとは関西の学校で同じサークルに所属していた関係なんだ」

「なるほど…あ、俺は…」

「知ってるよ、期待の新人ヒュウマ君、でしょ?敬語なんて使わなくていいから、気軽にタッくんとでも呼んデボッ」

 それはさすがに気軽すぎるのでは…と突っ込む間も無くミナミの正拳突きがタツミの腹部に入った。

「あんたは馴れ馴れしすぎるんだよ」

「そう言うミーちゃんこそ、先輩に対してその拳はないでしょ…」

 タツミの方が年上だったんだ…と思ったのは内緒にしておこう。

「それじゃ、私はあんたが目を覚ましたこと報告してそのまま部屋に戻るから。先輩、くれぐれも手を出すんじゃないよ」

「そんなことしないよ、きっとね」

 ミナミは去り際に再度鋭い拳をタツミにお見舞いして行った。

「うぐっ…本当容赦ないな、あの子は…あぁごめん、決して君のことを忘れていたわけじゃないからね」

「男でも…食っちゃうタイプの人なんですか…」

「だから違うってぇ!!」




 ミナミが帰った後、俺はそのまま簡単な検査を受け、自分の部屋に戻った。

 意識がなかったとはいえ、三日ぶりの自分の部屋に懐かしさを覚えた。

「ただいま…って誰もいないけど」

「お帰りなさい」

「うぉえ!?」

 誰もいないはずの部屋で誰かの声が聞こえた。しかしその声は聞き覚えのある声だった。

「い、イア…なわけないか」

「そうだよ」

 姿は見えないのに会話が成立している…ような気がする。

「どこにいるんだ、イア!出てきて顔を見せてよ!」

「ここにいるじゃない」

 ハッとして窓の外を見た。すると向かいの建物の屋根にイアがいた。

「そんなとこにいたら見つかるだろ、早くこっちに…」

「必要ない。あなたの顔が見れただけで満足」

「待って!」

 またどこかに去ろうとするイアを、俺は呼び止めた。今度はちゃんと聞き入れてくれたようだ。

「今、どこで何をしてるの…?」

「……そのうちわかる。今はまだ、知らなくていい」

 イアはそう言い残して去ってしまった。

「イア…目が赤くなかった…本当に俺に会いにきてくれただけなのか…だったら、もっと話をしたかったのに…」

 俺はいつの間にか眠りについていた。

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