3号機 ユルサナイ
「はい、お待たせ。ご希望通りの肉じゃがに和風コールスロー、そしてイア特製具沢山お味噌汁!たんとお食べ」
「すごい、あんな短時間でこんなに…」
俺がシャワーを浴びていた15分程度で3品も作ってしまうなんて、さすがアンドメイドといったところか。
「ほら、冷めないうちに食べちゃいなさい」
「うん、いただきます」
どの料理もとても美味しかった。特に肉じゃがはどこか懐かしい味がした。
「イア、この肉じゃが…なにか特別な味付けでもしているのか?」
「いいえ、私の記憶ストレージに入っていたレシピをそのまま再現しただけよ。アンドメイドなんだし、そのくらいは朝飯前なんだから」
なるほど、あらかじめ複数のレシピがインプットされているというわけか。
「このコールスローも、味噌汁も美味しい…今まで食べた料理の中で一番美味しいよ」
「も、もう、そんなに褒めないでよ…恥ずかしい」
あ、また赤くなった。
食器を洗う音が部屋に響く。それがどことなく心地よい。今まで自分でも料理なんてしてこなかったから、新鮮でもあった。
「そういえば、イアはそんなに仕事ができるのに、どうして捨てられていたんだ?」
「…!?」
手に持つ皿を落としてしまうほど、あからさまに動揺している。
「大丈夫か!?怪我とか…」
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめん…なさ…」
「イア…?」
体が震え、頻りに謝っている。
これはただ事ではない事情があるのだろう、しかし俺にはそれ以上何かを聞くなんてことはできなかった。
「今日は早めに休もう。俺もそろそろ眠いし…」
俺は立ち上がり、寝室に向かおうとした。しかし、その行動は俺の服の裾を握るイアの手によって阻まれてしまった。
「イア…」
「ご、ごめんなさい…少しシステムエラーを起こしてしまったみたい…」
システムエラー…ね、そんな簡単な問題じゃない気もするけど。
「そうね、休みましょう。心配かけてごめんなさい、もう大丈夫よ」
「そうか、それならいいんだが」
この手の話題には極力触れないようにしよう。俺は心にそう決め、眠りについた。
次の日、俺は外から聞こえてきた音で起きた。
「なんか外が騒がしいな。何か祭りでもやってんのか?」
「ヒュウマ、やっと起きたのね」
イアはとっくに起きていたらしく、既に食事が出来上がっていた。
「イア、おはよう。今日も早いね。今日は何かやっているのか?」
「もう昼過ぎなんだけど…いいえ、何もないはずよ。でも騒がしいわね。食事を済ませたら少し見に行ってみましょう」
「そうだな」
言葉通り俺たちは食事を済ませて外に出ると、そこにいたのは大人数の人間たちだった。
「まるで行進しているように見えるな…」
「あれは…反アンドメイド組織…」
イアは険しい表情をしてそう言った。
「なんだって?あいつらのこと知っているのか?」
「知っているも何も、前に一度アンドメイド工場を襲撃した犯人があの中にいるの。名前までは把握していないけれど、顔は記憶ストレージに残っているデータと一致するから間違い無いと思うの」
アンドメイドが記憶ストレージを参照する時って、目の色が変わるんだな。
「また工場を襲う気なのかも…そんなのだめ…」
「イア、それはあまりに早計だ。進行方向にアンドメイド工場はないはずだ。あっちにはあっても国会議事堂くらいで…」
「国会議事堂…まさかあいつら…!」
俺はどうやら口を滑らせてしまったようだ。よく考えなくても簡単なこと、反アンドメイド組織なら、襲撃対象がその製造工場だけではないことくらい容易に想像できる。ましてやアンドメイドは国をあげて作られている、つまり国の頂点を狙えば…ということだ。
「落ち着けイア、そうと決まったわけじゃ…」
「行かなきゃ…止めなきゃ…!」
「だから落ち着けって、お前もアンドメイドなんだから巻き込まれる可能性があるだろ!」
「でも…!!」
珍しく声を荒げるイアに、俺は手を上げてしまった。イアは叩かれた左頬をおさえていた。
「ご、ごめん…」
「私こそ、ごめん。少し頭を冷やすわ」
俺たちは一度家の中に戻った。
「イア、気持ちはわかるけど、まだあの人たちが何かすると決まったわけじゃない。それに、もし何か起きたとしても、イアが行ったところで状況が好転するとも思えない。むしろ悪化するだろう。だから今は耐えてくれ」
「うん…ごめんなさい」
イアは俯いてしまった。
「今日はゆっくり休んでいいよ。毎日働いてもらってるし、今日は俺が家事するからさ」
「そっか、ありがとう」
とは言ったものの…料理なんてしたことないし、掃除だって片付けるどころか余計散らかしてしまうから、正直何もせず外食した方が無難というものだ。
「でもそんなことしたらイアが黙ってないだろうしなぁ。どうしたもんか…」
「ヒュウマ、やっぱり私がやろうか?」
見かねたイアが声をかけてきた。しかし俺だって男だ、ここで引くわけにはいかない。
「大丈夫、俺に任せとけ!」
「で、できたのがこれ…なのね」
食卓に並べられているのは鶏肉だった黒い塊だった。
「一応確認だけど、料理名は?」
「か、唐揚げ…ですかね」
ものすごく大きなため息が聞こえた。
「面目無い…」
「仕方ないわね…今日は外食にしましょう」
結局こうなってしまった。
その日の夜中のこと。俺は爆発音に叩き起こされた。
「なんなんだ、こんな夜中に…」
「ヒュウマ、早く逃げて!」
イアが慌てた様子で部屋に飛び込んできた。
「イア、何が起きているんだ?」
「例の組織が所構わず攻撃を仕掛けているみたい。ここももうすぐ巻き込まれ…」
イアが言葉を言い終える前に窓ガラスの割れる音が室内に響いた。
「くそ、逃げるぞイア!」
俺たちは裏口から逃げ出した。
外に出た俺たちが見たのは、瓦礫の山に積まれたアンドメイドたちだった。
「おいおい、あいつらはこんなことがしたかったのかよ…いくらロボットとはいえ、気持ちのいいものじゃないぞ」
「……さない」
イアの様子がおかしい。目の色も赤くなっている。
「どうした、イア?」
「許さない…ユルサナイ…!!」
「おいイア、どこ行くんだ!?」
まるで暴走したかのように、イアは突然走り出してしまった。俺もそれを追いかけるが、アンドメイドの本気ダッシュに人間が追いつくわけもなく、完全に見失ってしまった。
「どうしたんだ、イア…」