1号機 アンドロイドメイド・イア…起動
わたしがここに存在る理由……そんなのわたしたちには必要ない。ここにいる、ただそれだけでいい。だけどわたしは……
2XXX年、科学技術が著しく発達し、人工知能・AIが様々な場所で利用されている時代。その最たるが完全自立型職業サポートロボット、通称アンドメイドだ。
飲食業や運送業、電車やバスなどの交通機関など、人間が行なっていた業務のほぼ全てがアンドメイドで行われている。その影響で人口のおよそ8割が無職となってしまった。
そんな無職対応政策として国から支援金が支給されている。とはいえ雀の涙だが。
斯くして俺、ヒュウマはアンドメイドには任せられない仕事をやっている。その仕事というのは不要となったアンドメイドをスクラップにする事だ。
アンドメイドには人間らしさを出すために”ココロプログラム”が搭載されているため、同じアンドメイドをスクラップにする光景を見せるわけにはいかないという事らしい。
「ヒュウマ、今日はもう帰っていいぞ」
「わかりました、お疲れ様です」
今日は量が少なかったから早く仕事が終わった。
「今日はどんなお宝が眠っているかなぁ?」
俺はこの鉄の山からまだ使えそうなものを拾って改造し、オリジナルのアンドメイドを作っている。
とは言っても、一からプログラミングして指示した動きしかしない俺の手作りアンドメイドなんて、一般的なアンドメイドに比べればもちろん前時代的で使い物にならないけど、俺は作ることに意義があると思っている。
「っとと、なんでこんなデカいまま捨てられて……」
鉄の山を歩いていると、何やら大きなものに躓いた。
「これ、ほぼ新品のアンドメイドじゃないか……!」
本来なら”ココロプログラム”を抜き取り、残った外側だけをスクラップにするのだが、このアンドメイドは何も手をつけられていない状態だった。
「ボス、これ内側抜いてないっすよ?」
「あぁ、そいつはプログラム異常で廃棄されたやつだろう。最近じゃ滅多に見なくなったが、欲しけりゃ持って帰っていいぞ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
ボスからの許可も出たし、俺はそいつを持ち帰ることにした。
「アンドメイドをこんなに間近で見たの初めてだなぁ。本物の人間みたい……」
銀色の綺麗な髪に透き通るような肌感、整った顔立ちにサファイア色の瞳。
世間に出回っているアンドメイドは基本みんな同じ見た目だが、このアンドメイドだけは異質だった。
「これが人間なら、間違いなく好きになるだろうな……」
俺はなんとかして起動できないか、いろいろいじってみた。しかしさすがは国をあげて作ってるだけのことはある。全く仕組みがわからなかった。
「どうなってんだ……起動スイッチもないしプログラミングで動いてるわけでもないし……もしかして充電切れとか? いや、でも端子なんてどこにも見当たらないし、そもそもアンドメイドは充電式じゃないって聞いたことあるしなぁ。多分ココロプログラムを起動できれば……って、それができないんだっけ、こいつ」
諦めて放置しようとした、その時だった。
「カンゼンジリツガタ ショクギョウサポートロボット アンドロイドメイド メイショウ イア キドウシマス」
「な、何事だ!?」
理由はよくわからないけど、とりあえず起動したらしい。
「え、えっと……」
「初めまして、私はイアと申します。あなたのお名前は?」
さすがロボットと言うべきか、堅苦しい喋り方をしている。
「お、俺の名前はヒュウマ。イア、だっけ?」
「はい、私はイアです。何かご用でしょうか?」
すごい、ちゃんと会話ができてる……って当たり前か。
「とりあえず、家事とかいろいろやってもらおうかな。まずは掃除から……」
いくらアンドメイドが爆発的に普及しているからといっても、一般家庭に、まして無職の家に専用アンドメイドなんているわけもなく、さらに俺は家事全般苦手ときた。ここまでいえば察してもらえるだろう……そう、我が家はちょっとしたゴミ屋敷になっているのだ。
「かしこまりました。それでは掃除を開始いたします」
「あ、あとさ……その喋り方、やめない? 堅苦しいしさ」
「わかりました。では、言語設定をカジュアルモードに変更いたします」
イアはそういって目を閉じた。しばらくして突然目を見開いたかと思ったら
「まったく、何をどう間違えたらここまで散らかるのよ……ほら、掃除の邪魔よ」
「へ……?」
これじゃカジュアルというより、完全にお母さんみたい……まぁ俺親いないんだけど。
「……キャー!変態!えっち!スケベ!!」
なぜか俺は唐突に往復ビンタをくらい、そのまま部屋から追い出された。
「いってて……急になんだよ……」
理由は簡単だった。
「あぁ、そういや服着てなかったな」
おか……イアに部屋から追い出された俺は、本屋に来ていた。
アンドメイドの使い方などが詳しく載っている解説書が売っているらしく、それを探しに来た。
「えーっと、アンドメイドアンドメイド……あった」
アンドメイドとの付き合い方…安直なタイトルだが、わかりやすい。俺はその本を手に取りレジに向かった。
もちろん、カウンター越しに立つのはアンドメイドだが、さすが接客用ロボットといったところだろう。
「ご家庭用にアンドメイドを買われたんですね。アンドメイドは繊細なので大事にしてあげてくださいね」
「は、はぁ……」
まるで人間と話しているようだった。
本屋から帰る途中、俺は買った解説書を読んでいた。
「アンドメイドはバッテリーや電源の類が搭載されていないため、半永久的に使用することが可能……すごいな、それ。なになに、その代わり人間が生きていくのに食事が必要なように、アンドメイドも食事をしなければいけません……ウヘェ、まんま人間じゃん」
どうやらアンドメイドの燃料は人間と同じみたいで、人間と同じものを、人間と同じように摂取して稼働しているらしい。どういう原理なのかとか、そこまで詳しいことは書いてないし、多分政府お得意の国家機密ってやつだろう。
「……いつか解剖させてもらおうかな」
「誰を解剖するの?」
「ヒェっ!?」
突然目の前から声が聞こえて、俺は驚きのあまり声が裏返ってしまった。
「い、イア、なんでこんなところに……」
「ヒュウマの帰りが遅いから迎えに来たんじゃない。何してたの?もう掃除終わったから部屋入っていいわよ」
やっぱりお母さん……
「ってあれ、その服……」
家を出た時は全裸だったのに、いつの間にか服を着ていた。しかもこれ…
「あぁ、ヒュウマの服を借りたわ」
やっぱり……まるで一時期流行った彼シャツみたいだ。