ラスト
キョウコの最後の頼み。
それは、キョウコ、ムロ、ロウの3人で桜を見に行く、というものだった。
その日、キョウコは駄菓子屋で購入したおやつ300円分を用意して、病院の外へとやって来た。
「お待たせー」
車椅子をこいで、2人と合流すると、丘の上にある桜公園へと向かった。
坂を上る途中、ロウは車椅子を押しながら言った。
「つか、今日が最後の日だってのに、こんなヤツの顔なんて見たくねーんじゃねぇの?」
「こんなヤツとは、酷いですな」
ロウはムロのことをストーカーだと思っている。
キョウコは白状しようか迷ったが、ムロが口に人差し指を当てて、黙りを決め込むよう促す。
(二人だけの秘密ですぞ)
(……そうですね)
ふふっ、と二人は示し合わせたかのように、笑った。
2人が意思疎通しているのを感じ、ロウはぼやいた。
「何か、俺だけのけ者?」
丘の上までやって来た。
そこからは、街の景色が一望出来る。
「わあっ、すごい!」
近所では有名な桜の名所で、花は満開。
ピンクの淡い色が、視界を覆う。
早速、ムロがリュックからレジャーシートを取り出し、地面にひいた。
みなで持ち寄ったお菓子をその場に広げる。
ムロ、ロウが楽しそうにしているのを見て、キョウコは満たされた気持ちになった。
(これで、心置きなく出所できる)
突然、ムロが立ち上がって、歌を歌い始めた。
その曲は、恋をすると自然と鼻歌で口ずさんでしまう。
麦わらの帽子の君が
揺れたマリーゴールドに似てる
あれは空がまだ青い夏のこと
懐かしいと笑えたあの日の恋
ムロとキョウコが熱唱するのを見て、ロウは、またしても呟いた。
「お前ら、やっぱり仲いいじゃねーか」
キョウコが言った。
「ムロさんは、最高の友達ですから!」
終わり