表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

その五

「来ない、で……」


 病室まで追ってきたムロに、キョウコは恐怖を覚えた。


「キョウコさん、こんな状況で言うのもアレですが、私、あなたのことが……」


「ムロ、てめーっ」


 背後から、声がした。

ロウである。

ムロの胸倉を掴むと、何してんだ! と、責め立てる。


「聞いたぞ! 黒闇さんにストーカーしてんじゃねぇよ!」

 

「そっ、そんな……」


 ムロがチラとキョウコの方を見やる。


「……」


 キョウコは、視線を逸らした。

今度はムロが叫ぶ。


「そんなにこの男が良いのですかっ! なら、この世から消すしか無いっ」


 ロウを突き飛ばすと、手にしていたものを掲げる。

隠していたのは、メス。

窓から差し込む月明かりが、それを照らした。

キョウコが息を呑む。

ロウが後退ると、相手に指先を向けた。


「別にお前に恨みはねー。 俺に魔法を撃たせるな」


「……」


 膠着状態。

ムロが一歩でも動けば、ロウの炎の魔法で焼かれて死ぬだろう。


(……)


 その時、ムロでもロウでも無い、別な影が動いた。

その影は、2人の間に割って入る。


「そん、な……」


 ムロは、消え入るようなか細い声で呟いた。


「ロウさんには指一本触れさせない」


 キョウコが両手を広げ、ムロの前に立ちはだかった。

ムロはショックを隠しきれず、メスを持つ手が震える。


「そこまでして……」

 

 そして、笑い出した。


「は、はははっ…… くっそ、もう少しでやれると思ったのによ」


 ムロは白状した。

自分は、体目当てでキョウコに近づいた、と。

メスを放り投げると、ドアへと歩いて行く。


「ムロ、てめぇ……」


 ロウが、最低だな、と吐き捨てる。


「男なんてこんなモンですよ。 ロウ殿」


 ロウの肩を叩いて、そのまま廊下へと出ると、階段を降りる。

出てくる涙を必死に拭いながら、ムロは病院を後にした。








 

「大丈夫かよ」


 ロウが近づくと、キョウコは泣き崩れた。

ムロに対して、自分は何て酷い仕打ちをしてしまったのか。

その罪悪感に、キョウコは耐えられなくなった。


「そんな怖かったのかよ。 ……あの野郎」


 本当は、違う。

ムロは、自分に良くしてくれていた。

それでも、ロウが好きという感情を抑えることは出来なかった。

自分に嘘をつくことは、出来なかった。


「ロウさん、怪我が完治したら、私は出所しないといけません」


「……ああ」


「だから…… 最後にお願いがあります」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ