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その四

 この日、ようやく包帯が取れる。

キョウコは、緊張した面持ちで病室のベッドにいた。


(はあ、緊張する……)


「入るわよー」


 看護婦が入ってくる。


「じゃあ、取っちゃおっか」


「……」


 コク、と頷く。

看護婦が包帯をほどいていく。

顔を晒すのは、包帯を交換する時だけで、それ以外で誰かに見せることは無かった。

包帯がほどけ、完全に撤去されると、看護婦に質問した。


「大丈夫、ですか?」


「ほら、自分で確認して」


 手鏡を取り出し、キョウコに渡す。

恐る恐るその鏡を覗くと、


「……これ、私?」


「そ。 自分に自信持ちなさいよ」


 キョウコの表情は(ほころ)んだ。

鏡の自分は、火傷を負う前と、殆ど変わらなかった。

所々、水ぶくれのような後が残るものの、時間が経てば治るだろう。

腕の包帯を剥がした。

何事も無かったかのように、無傷の肌が現れる。


「……」


「……良かったね」


 キョウコの腕に、涙が落ちた。








 それから、キョウコは車椅子で外に出ることが増えた。

包帯が取り除かれ、春の日差しを直接浴びることが出来る。

暖かい風が、髪を撫でる。

葉っぱの擦れる音、鳥のさえずり、全てが心地よい。


(手術をやって良かった)


 キョウコはようやく、光を手に入れた。

今まで、ずっと暗い病室に隠れ、人目に着かぬよう生きてきた。

そんな日々は、心を荒ませた。

次第に、自分をこんな風にしたヤツらを許さない、そんなことばかり考えるようになった。

そこに、ロウが現れた。

ロウが、自分を導いてくれた。

携帯のラインが鳴る。


(ロウさんかしら?)


 携帯の表示には、ムロ、の文字。


(……はあ)


 キョウコはため息をついた。









 やって来たのは、シンジュクク。

ムロが、包帯の取れた顔を見たい、と食事に誘ってきた。

改札で合流し、デパートへと向かう。


「手術が成功して良かったですなぁ!」


「……」


 ムロは上機嫌で、手術の成功を自分のことのように喜んだ。

しかし、キョウコの気分は乗らない。


「キョウコさん、どうしました?」


 とうとう、キョウコは切り出した。


「私とムロさんじゃ、釣り合わない気がします」


「……き、急にどうしたのですか?」


 突然、キョウコはターンして来た道を引き返した。


「キョウコさん!?」


 ムロが走って来る。


(ああ、うっとうしい……)


 キョウコが車椅子のスピードを上げる。

そして、携帯を取り出すと、ロウ宛てに文面を入力した。






 ムロさんにストーカーされて困ってます。

今度、相談に乗って下さい。







 多少罪悪感を覚えたが、そのまま送信した。

電車に乗っている最中に、ロウからラインの返事が来た。

キョウコは、会えるならすぐに会いたい、と返事をした。


(ロウさんに、会える!)


 仕事上がりに病院に来る、とのことで、車椅子をこぐ手に力がこもる。

病室へと戻って来ると、扉をノックする音。


「ロウさん?」


 扉が開かれた先に立っていたのは、ムロだった。

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