その三
約束したのは、シンジュククにある映画館。
腕は比較的自由に動かせる為、一人で車椅子をこいで、駅へと向かうことが出来る。
シンジュククへは物ノ怪ラインで3駅。
駅員に案内され、電車の先頭に乗り込み、車椅子専用の位置で到着するのを待つ。
映画は20時からスタートで、19時に改札前で待合せの予定である。
ホームから改札を抜けると、既にムロが待っていた。
「こっちですぞ!」
ムロがキョウコに気付いて、手を振る。
ムロと合流すると、早速映画館へと向かった。
先に映画館の券売機でチケットを購入。
「今日は手術の成功祝いということで、私が奢りますぞ」
「あ、ありがとう……」
映画館には、「fate」のファンと思しき客層で溢れ、中にはアニメキャラクターのコスプレをした者までいる。
この時ばかりは、ムロの魔法使いの格好も違和感は無い。
「上映までしばらく時間がありますな。 何かご馳走しますぞ」
「えっ、そんな、悪いですよ!」
「はっは、遠慮なさらず」
車椅子の後ろに回り、無理矢理カウンターへと連れて行かれる。
1500円もするfateオリジナルホットドッグセットを購入すると、映画館内にあるイートコーナーへと向かい、空いてるテーブル席に着く。
一気に財布の中身が空になったが、気を取り直して、ムロは話を振った。
「ところで、マリファナ・フレンズは見ましたかな?」
「あ、はい。 一応、3話までは……」
「流石キョウコさん、リサーチが早いですな!」
キョウコもアニメは嫌いでは無い。
ムロとは話が合うし、付き合うならロウよりもこちらの方が現実的に思える。
そんな考えが頭の片隅にあった為か、キョウコも、ムロのことを完全に無視することはしなかった。
「間もなく、fate、の入場開始です」
アナウンスが流れ、2人はチケットに書かれた第5スクリーンへと向かった。
映画の上映が終わり、映画館を後にする。
ムロは興奮して、一人でブツクサ言っている。
「こんなに面白い映画は久々見ましたな! 私は個人的にもう一度見に来ますぞ」
映画の内容を語りたいから、どこか店に入らないかと言われたが、遅くなるからと断る。
帰りがけ、キョウコはさり気なくロウの話題に触れた。
「……ムロさん、今日はありがとうございました。 ロウさんに頼まれて、私の面倒見て頂いて」
「いえいえ、ロウ殿は関係ありませぬよ」
「……ロウさん、最近元気ですか?」
すると、一瞬、ムロの表情が曇る。
「やはり、気になりますか」
「えっ……」
「はっは、ではまた」
結局、ロウのことは聞き出すことが出来なかった。