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僕たちは歌姫に恋をする  作者: 玉城霞
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リュウの葛藤

予備校の授業が始まる前、リュウは一人の男子生徒から声をかけられた。同じ学校で同じクラス、学校でもそこそこ話す生徒だ。

「リュウ、お前さ、最近菅とか君嶋明日香とかと仲良いって本当か?」

「ああ、まあ、な。」

そんなウワサが広まっているとは、みんな受験生なのに暇なのかと思う。

「菅ってあの、やべえ奴だろ? しかも村上ちゃんとも親しげにしてるっていうじゃんか? どういうことだよ。お前は村上ちゃんと君嶋、どっちと付き合ってんだ?」

高校生くらいの年齢で男女が仲良くしているとなれば、すぐそういうことになる。リュウは心底うんざりした。

「どっちとも付き合ってねーよ。それにトモヤは、話したら分かるけどそんなにやべえ奴じゃねーって。」

「そうかねえ……。でもよお、菅の奴、なんで夏でも長袖着てるか知ってるか。」

男子生徒は好奇心に目を光らせた。リュウは、これまで見かけたトモヤの姿を記憶の糸でたぐりよせた。全校集会、体育祭、球技大会……確かに、全て長袖を着ていたかもしれない。

「知らねえよ、なんでだよ。」

「リスカしてる、って噂だぜ。」

「は……。」

リュウは言葉を失った。そんなのデマだ。誰かが面白がって流しただけだ。そう言いたいのに、二の句が継げない。なんとなく、思いあたる節があるからか、それとも……

「あいつがそういうこと、しそうな奴だからか。」

「まああいつ、学校ですげー浮いてるって話だし、見た目からしてもうやべーし。ストレスなんじゃねえの?」

リュウは頭を抱えた。そんなこと信じたくない。嘘だと思いたいのに、心のどこかでそれを受け入れている自分がいる。

「君嶋明日香もまあやべーって話だしな。ま、お前も同類だと思われないように気をつけな。」

そういうと男子生徒は予備校で指定された自分の席に向かった。

トモヤが、リストカット。本人に聞けるような話題ではない。デリケートな問題のために、サヤやアスカに相談することは、本人のプライドを傷つけるだろう。しかも、アスカまで噂のタネにされているなんて、どういうことだろう。どうしたらいいのか分からずに、リュウは予備校の授業中、ずっと悩み続けた。


リュウの悩みの種はそれだけではなかった。先月受けた模試が返却されたのだ。結果は志望校合格率は五分五分、といったところだった。これはもっと勉強に充てる時間を増やさなければいけないかもしれない。音祢ミクの曲作りの時間も減るだろう。リュウは模試の結果を前に嘆息した。

……諦めたくないのだ、大学も、曲作りも。


それに輪をかけるような出来事がおこった。

その翌日のことだった。リュウが英語のプリントを提出しに職員室へ顔を出すと、一人の男性教師から声をかけられた。

「おっ、坂井。どうだ? 勉強のほうは。」

「はぁ……。まぁぼちぼちです。」

模試の結果が芳しくなかったことは伏せておいた。この教師は英語担当とはいえいかつい顔をしている。リュウは入学当初からなんだかこの教師が苦手だった。距離の取り方に違和感がする。信頼関係もできていないのにずけずけものを言うような。軽く身を引いて距離を空けたが、ぐいと近寄ってきた。

「お前よぉ、最近菅や君嶋と仲良くしてるって聞いたが……。」

声をひそめ、耳元でささやく。教師とはいえ、生徒の人間関係にまで口を出してくるのはいかがなものだろう。リュウは眉をひそめた。

「そうですが……。それが何か?」

「そうか、ならいいんだ。菅、あいつ人付き合いが苦手だろう。かわいそうだから、仲良くしてあげろよな。」

リュウは一気にこの教師への不信感が募るのを感じた。“かわいそう”? “仲良くしてあげる”? 一体何様なんだろう。

「それとな、君嶋のことなんだが……。」

今度はアスカ。トモヤに比べれば特に問題があるようには感じないが、もしかしたらリュウの予備校仲間が言っていた“やべー奴”と言われている理由が分かるかもしれない。リュウは身構えた。

「お前からも言ってくれよ、『歌手になりたい』なんて馬鹿げた夢、諦めるようにな。」

「……!」

そんな話、アスカの口から聞いたこともなかった。もしかしてそれが、“やべー奴”と言われている所以だろうか。

「あいつは……どうするって言ってるんです? 歌手になるために……。」

「音大に進みたい、って言ってるんだ。自分で調べたらしく、設備や講師やらがそろってる学校にな。でもなぁ、音大ってのは学費が高いわりに将来性がないんだぜ? ご両親も反対してるしな。俺は三者面談で何度も『お前には無理だ、才能がない。』って言ってるのに聞かなくてなぁ……。」

「別に……いいじゃないですか。才能がないとか無理だとか、どうしてあなたが決めつけるんです……!」

図らずも、大きな声が出てしまった。教師の面食らったような視線にしまった、と思うが、もうとまらない。

「あいつに音楽の才能があるの、俺はあんたより知ってんだ! 歌手になりたいっての初めて聞いたけど……夢を見るくらいいいじゃないか! 俺たちまだ高校生だぞ……なんでこんな……。」

ふとリュウは、先日帰ってきた模試の結果を思いだした。

「大人の尺度で、なにもかも決められなきゃなんないんだ!! 縛られてばかりいるんだから、夢見るくらい好きにさせてくれよ!!」

気がつけば、職員室にいる教師たちや生徒の視線が一斉にリュウに注がれていた。もう全部言ってしまえ、と息をつく。

「それから……俺はトモヤと“仲よくしてあげてる”んじゃありません。あいつ、音祢ミクのことになると止まらなくって……曲作りにすごい情熱をもってて、面白いやつだから。俺が一緒にいたいから一緒にいるんです。」

英語担当の教師や、その他の生徒の視線を背中で受け止めながら、リュウは職員室を後にした。


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