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法司者  作者: ひとひら
24/26

少年

 選挙は無事に終わり、それぞれの王が馬車へと乗り込んで行った。

 すると、最後に出発したスタング王の馬車を追い駆けるようにして、小さな人影が姿を現す。

 そしてその影は、「王様! 王様!」と、叫びながら駆け寄ろうとするが、勢いよく転倒してしまった――。


「大丈夫!?」


 直ぐに駆け付けたサーシャが後ろから抱き上げ声を掛ける。俺らも辿り着いて見てみると、涼ちゃんくらいの年の少年だった。


「うん……お姉ちゃん、ありがとう」


 立ち上がる少年の身形は酷いものだった。穴だらけの衣服にメンズのヘップサンダルのようなものは千切れ掛かっている。


「一体、どのような理由で近いたのですか?」


 シーレさんが尋ねた。


「これを王様に渡したくて……」


 見ると一通の手紙を大事そうに持っていたのだが、転んだ拍子にクシャクシャになってしまい、砂まで被ってしまっていた。


「手当……」


 涼ちゃんが少年の擦り剝いて出血している場所を指差していく。

 俺らはヨゼラ王に願い出て、少年を館へ連れて行くことにした――。


 □


「イタイッ!」


「少しの辛抱です」


 少年は、ミリアさんの手当てをしかめっ面で受けている。


「して、少年。名は何と申す?」


 ヨゼラ王が両の手を腰に当てて尋ねた。


「……マルツです」


 マルツ少年はシャグツ国の人間で、直訴する為にスタング王を追い駆けてここまでやって来たという。それを聞いたヨゼラ王は、警備は一体どうなっておるのやらと不安げな顔をしていた。

 そして手紙はというと、恐らく彼が一生懸命に書いたんだろう。〈王様へ〉から始まる、僅か数行の拙いものだった。


「父ちゃんが! 父ちゃんが死んじゃう!」


 マルツ少年は、突然、せきを切ったように泣き出してしまった。


「泣いていては、事情が伝わりませんよ?」


 サーシャは彼の頭を優しく撫でてやりながら宥める。

 シーレさんはハンカチを取り出して、少年の頬を伝う涙を拭ってやる。

 そして涼ちゃんは、「シャキッとせんか……」という、励ましの言葉を送っていた。


「俺の父ちゃんは、大商人様の畑で働いてます。俺も手伝ってます。みんな働き詰めで、休みなんかありません。朝も、昼も、夜も関係なく働かされてます。弱って死んでく人達もたくさんいます。父ちゃんも風邪をこじらせて具合が悪いのに、駆り出されてます……どうか、どうかお願いです! 父ちゃん達を助けてください!」


 一頻り泣いた後、マルツがつっかえつっかえではあったが、一生懸命に話しをしてくれた。

 そうしてそれを聞いたヨゼラ王が、「他国に干渉するわけにもいかぬしの……」と、直面している難題と合わせて表情を曇らせたので、俺は自分の意思を伝えた。


「この件は、私達が引き受けます」


 王は安堵の色を浮かべた。けれど、忌まわしき王の討伐について俺が尋ねてみると、その様子を直ぐに戻してしまった。


「確かに、我が国だけで討伐するというのは難題です。過去においては幾度か連邦の国々力を合わせ戦ったこともありますが、残念ながら返り討ちに遭っております……。ですが、首尾よくいった暁には、連邦における我が国の地位は確かなものとなるでしょうし、それに万が一の場合には、〈あと一息の処で逃げられた〉とでも言うつもりです」と、そう言って、「にしても、我が国だけに押し付けるとは……」と、苦笑していた――。


「で、忌まわしき王キュベリスって、何なの?」


 午前中と同様、俺の部屋に集まっていた。シーレさんの話によると、どうやら蛇に似たモンスターということだった。


「聞く処に依ると、建国以前から南の砂漠地帯を根城としており、近づく者は人のみならず、鳥、獣、全て餌としているようです」


「それで砂を採りに行こうとした時に、犠牲者が出た訳ですね?」


「はい」


「……勝算は、あるのかな?」


 そして俺のその問いに答えられる人は、この中にはいなかった。



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