フューチャー・レポート
3200年8月15日。
なんとなくだけれど、
日記を書き始めようと思う。
もしかしたら、この地獄のような生活がいつか終わって、
この日記が歴史書の様になるかもしれない。
って言うのは建前で、
人類総一人っ子計画で、僕の妹になるはずだった子が殺されたから書いてる。
インターネットは常に臨時政府に監視されてて、
好き勝手描けないから、紙に。
今年でいよいよ31世紀が終わる。
確か日本では終戦記念日、なんだってね?
まぁ、僕も日本人なんだけど、
今は人類が全員、アルプスの麓に集められてるから、あんまり分かってないんだ。
人類総一人っ子計画のせいで、
130億人いた人類は、遂に1億人を切った。
御老体は65を超えて、定年を迎えると容赦なく殺され、
子供も二人以降は問答無用で殺処分。
この間まではコレが常識だって思ってたんだけど、
偶々インターネットで1千年紀前の、
みんなが書き込むタイプの掲示板の記事で、
『少子高齢化でニートなワイ、老人にキレられる』って言う題の記事があって、
今の状態がおかしいって知ったんだ。
現在、臨時政府の発表によると、
地表は約250度まで気温が上昇してるらしく、
氷河が溶け、海面が上昇してるらしい。
しかも上昇した海面は常に100度近い温度をしてるのだとか。
だから人類は地下に逃げ延びた。
お偉いさん方は宇宙に逃げて行ったけど。
まぁ、この状態は24世紀末になった状態らしいんだけどね。
それ以来、地表に出るには、
臨時政府の許可が必要で、
物凄い高温から体を守る為に防熱スーツを着用する事になってる。
防熱スーツのデザインはそのまんま宇宙服だけど。
そういえばお隣さんが地上に出る為のチケットを買ったんだけど、
発注ミスで沢山届いたんだと。
お裾分けで一枚貰っちゃったから、
今度、行く予定なんだ。
地下は常に冷却されてて、
何処から持ってきたのか、土もある。
家畜も何匹か連れてきてるみたいで、
肉や野菜は全然取れる。
栄養バランスしっかり摂る!
コレ、地下生活の鉄則ネ。
テレビ番組ではニュースとかは地震とかの速報しか無い。気象情報とか昔は有ったらしいね。
バラエティも偶にしかない。
それ専用の仕事がないから、
街のみんなで作りました、っていう学芸会レベルの番組。
基本ツマラナイ。
一番はアニメだよね。
昔のアニメの録画データとかが物置から発見されたとかで、
テレビで毎日流れてる。
僕はこの、昔のもっと昔のゲームをするアニメ。ゲームとか今無いから、見てて楽しい。
えーっと、後書くことは……無いね。
今日はこの辺で終わるよ。
追伸、三日坊主になったらスイマセン。
3200年8月22日。
前回書いた時から1週間経ってしまった。
まぁ仕方ない。飽きやすい性格と忙しい毎日が災いした。
今日筆を取った理由はお隣さんだ。
お隣さんが一昨日、地上に出て行ったっきり、
帰ってこない。外を写真で撮ってくるって、
物凄い張り切ってたのに。
もしかすると事件に巻き込まれたのかもしれない、って心配してたんだけど、
今日になって臨時政府からメールが届いた。
なんでも事故があって、亡くなったって。
予想はしてたけど、ショックだったよ。
村の誰かが、遺体を返してくれって言ったけど、
臨時政府からの返答は、「燃え尽きたから無理」というあっさりした回答だった。
燃え尽きた?250度くらいで?
疑念が湧いてきた。
だって人を焼く火葬場だって1000度だって、
ネットには書いてある。
おかしい。そういう風に村の人に伝えると、
今度は遺骨を返せと、ある男の人が連絡してくれた。
だけどそのお返しは、政府にその男の人が連れ去られるって結果だった。
これでこの村の疑念はかなり深くなった。
村の誰しもが臨時政府に疑問を持ってる。
明日は僕が行く番だ。
少し怖いけど、行って真実を確かめなくちゃ。
もしかすると臨時政府に騙されてる可能性が高いのだから。
3200年 9月3日
前回書いた時から、また随分と経ってしまった。
今回僕が地表に出て、疑念が解決した。
隣人さんは間違いなく政府に消された。
カメラの予備メモリーが落ちていたのだ。
通常、地表に出た時には制限がかけられ、
半径500m以上は出れず、
崖に囲まれた場所に出入り口が作られているのだが、
隣人さんは果敢にも崖を登り、
その写真を撮っていたのだ。
そこには、森と動物が写っていた。
250度の地表に、燃えない森と死なない動物?
もしかすると、そういう風に進化しているのかもしれないが、その可能性は限りなく低い。
僕は決心して、宇宙服の頭を取った。
……暑くもなく、空気が吸えない事もない。
そこは間違いなく自然だった。
僕は予備メモリーをポケットに入れて持ち帰り、
ネットの全人類情報共有サービスに載せた。
生憎、僕は日本語しか分からないけど、
科学の力で全言語に瞬時通訳してくれるのだ。
反応は、思ってたよりも熱かった。
最初は昔の写真だと、批判する声もあったものの、
画像データ分析により、今年撮られた写真だということを示すと、
次第に賛同者が多くなって行った。
なんでも、周りでも不審な死を遂げた人が結構な数いるそうで、
子供や老人を殺す臨時政府とは名ばかりの独裁政権に、
恨みを持った人も多かったみたいだ。
ネットは政府が徹底管理しているため、
このサービスも見られるだろうが、
ネットの恐ろしさは拡散の速さだ。
既に青い鳥のアプリでは、
何千、何万、いや、何千万という人々が呟いている。
もう、こうなると政府の手には負えないだろう。
そんな中、革命を起こす日時が飛び交っている。
どうやら明日の朝、全人類で政府を倒して、
自由を取り戻すんだとか。
さっそく村の人たちにも伝えたよ。
……みんな知ってたけど。
さて、今日はここら辺で終わるよ。
また明日。きっと明日で日記は終わるだろうけど。
3200年9月4日
無事に臨時政府が倒された!
これでみんな自由だ!
今日で日記を書くのは終わり!
いつの日かこの日記が誰かに見られるように!
---------------------------------------------------------------------
私は偶々この星に立ち寄った。
宇宙のワープ中に船が壊れてしまい、
この星に着陸。
この星の寿命は僅かなのに、
生命が海にしか居ない。不思議な星だ。
と、思っていたのだが、
どうやらずっと昔には栄えた跡があり、
今は全て壊れてしまっている様だ。
しばらく散策していると
そこで、偶々この死体が握りしめた日記を見つけた。
何が書いてあるか分からなかったので、
超高精度の翻訳機で内容を把握した。
この世界が滅んだ理由が謎だったが、
この日記を見れば簡単に理解できた。
地下空間を冷却するのに使っていたのはフロンだったようだ。
地下へ続く扉を発見したが、開けっ放し。
見事にオゾン層は破壊され、
あの恒星から降り注いだ紫外線により、
死滅。言い方を変えれば絶滅か。
この星の人類とやらは、嫌によく深かった様だな。
自由とやらを求めすぎた結果に絶滅。
面白くもない冗談だな。
物思いにふけり遠くを見つめる、
機械仕掛けのその男は、
煙を口から吐き出し、宇宙船の修理に戻って行った。