万物の創造主《Toute la création》
さて、鈴莉が床にブチ撒けたコショウの処理をし終え。天音の着替えの時間も相まって、朝食の時間はいつもより少し遅くなってしまった。
……なんて事は昔からの日常茶飯事で、何があろうと和気あいあいと談笑しているのが我が鷹宮家なのだが──それも、今日ばかりは違う。
「さて、説明してもらおうか」
「万物創造……の事ですか?」
「それがお前の異能名って事で間違いないのか?」
「略称ですが、ほぼ合ってますです」
ふむ、と頷きつつ目玉焼きを1口食べ、思考を変える。
──万物というワード、どうやら聞き間違えじゃないらしいな。詳しく掘り下げる必要性が出てきたようだ。
「どうやら忌み子という事で、かなりレアな異能っぽいんですよねぇ。ネーミングは天音のおじいちゃんが考えたそうですが」
「……おじいちゃん、か」
そのネーミングといい、おじいちゃんといい、少しばかり思い当たる節が出てきたのだから……面倒だな。しかも今の俺の仮定だと、かなり近いところに位置していると思われる。
「それにしても、天音の人間関係は異能者が多いですねー。お兄ちゃんは忌み子であり、異能者。お姉ちゃんも異能者でしょう?」
「そういう血筋だからな、《鷹宮》は。それが変じゃない時点で、感覚が麻痺ってるんだ。……で、どんな異能なんだ? 万物創造ってのは」
「正式名称は『万物の創造主』。フランス読みで、『Toute la création』ですね。おじいちゃんがフランスが好きだったので、この名前にしたんですって。で、説明は少し小難しいので……口で言うより見せた方が早いかと」
言い、天音は箸を置いて、スっと虚空に手を翳す。
──刹那。
「……ふむ」「……へぇー」
その手には、先程まで無かったハズのワイングラスが握られていた。文字通り、瞬きの間に──である。
同じくその光景に感心している鈴莉と目を見合わせ、「凄いなー」と言いつつ肩を抱き寄せた。そしてさりげなく手を握る。
目の前の天音はGを見るかのような視線を送ってきたが、一向に終わる気配が無いのを察してか、淡々と言葉を紡いでいく。
「万物創造は『用途・形状・名称』さえ指定出来れば、天音が思ったモノは何でも創り出せます。多少なりとも制限はありますが、かなり有能な異能ですねー」
「って事は、部屋の家具類は……」
「です。学園都市内のコ○マ電気やニ○リに行って、色々見てきました。おかげで最新式のモノばかりですよ」
まぁ、眠かったんですぐに戻りましたけど。
と笑いながら告げた天音だが、正直言ってコイツは異質だ。
『万物創造』。これは今まで俺が見てきたどの異能よりも、利便性が高い。使いようによれば、攻めにも守りにも使えるような、まさに『万能』が如く異能だ。
……やはり詳細不明の忌み子とはいえ、これを放置しておくのはあまりにも危険すぎる。結衣さんからの調査報告次第では、《鷹宮》への引き入れも早急に対応しないといけないな。
そして何より気になるのが、この異能の媒体。
本来、異能というのは使用者の何かを媒体として展開されている。
それこそ魔力なり霊力なり言われているが、本質的にはどれも同じだ。それを俺たち異能者は纏めて、『氣』と読んでいる。
異能者は多かれ少なかれ氣を持っており、それは異能の強さには比例しない。
……つまり、だ。弱い異能でも莫大な量の氣があれば、多くの具現化が可能。
逆に強力な異能でも氣が少なければ、具現化回数は少なくなってしまう。
忌み子や本家筋の異能者は平常の比ではない程に氣が大きいとされているが、天音はどうなのだろうか。そもそも氣の存在を知っている事さえ危ういが。
「で、何を媒体として展開されてるんだ? 万物創造は」
「あー……。ぶっちゃけ────謎ですねぇ」
「「え?」」
「え?」
まさかの回答に面食らった返答をしてしまう俺たちに、またもや面食らったような顔をしてこちらを見据えてくる天音。
……まさかのまさか。本当に知らなかったとは。
「──ったく、本当にツッコミどころがありすぎるな。お前は」
「いや、それほど……でもぉ?」
「「褒めてない褒めてない」」
ツッコミどころ過多な天音と万物創造だが、その話は一先ずお終い。
さて、と話題を変え、俺は口を開く。
「……お昼すぎにでも、買い物行こうか。今気付いたが、流石に天音の服が一着だけってのも可哀想だからな」
昨日から変わらずの、白いブラウスに膝上十センチのスカート。それを寝間着替わりにしていたせいで、シワだらけである。
「あ、その件については大丈夫です。家から持ってこれますし」
「いんや、俺が鈴莉と出かけたいだけ」
「まさかの本音そっちですか!? ねぇ!? 公開イチャラブは止めてくださいよ!?」
「ちょっと、それは……ねぇ?」
「天音ちゃん、ごめん。……ムリ」
「キッパリと言い切りましたねお姉ちゃん! 何様ですか!?」
「あっくんの幼馴染だけど?」
「知ってますよそのくらい! 質問の意図が違いますーっ!!」
という朝から早々にコントが繰り広げられる、我が鷹宮家です。
~to be continued.