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新たな家族は騒がしい

「天音も──ここに住んで良いですか?」


その華奢な身体から発されるには相応しいと思わせる、嘆願と僅かに哀しみの色が混じった声。

それをしかと聞き留めた上で、俺は即座に決断を下す。その答えは既に決まっていた。


「……一応は『保護』という名目だけどね。いいよ、おいで」


とは言ったものの、まだ彼女には知られてはいけない。俺が天音の素性を洗い出せ、と命令した事を。これから先に行うであろう事を。

それがバレれば、彼女が万が一にも《鷹宮》以外の何か──現在で確認されている、他の異能者組織──に付いていた際、火の粉が此方に降りかかるかもしれないからだ。


「ほ、ホントですか!? ありがとうございます!」


「良かったね〜、天音ちゃん。ねぇねぇあっくん、妹が出来たよ! 妹!」


満面の笑みと共に深々と頭を下げる天音に、妹が出来たと喜ぶ鈴莉。

一人暮らしだった我が家にも、とうとう騒霊が訪れたようだ。近所迷惑だな。

周りに悪い噂が流れるのもアレだし、後でデシベル規制でも掛けておこう。


「家族が増えるのはいい事ではあるが……あ、もうこんな時間か。夕飯作んなきゃな」


と、壁掛け時計を一瞥する。時刻は七時に近くなっており、俺が予定していたプロットとは掛け離れていた。

そもそも鈴莉と天音の襲来で予想外の出来事だからね。これ以上騒ぎが起こらないように願いたいよ。


胸中で神頼みしつつソファーから立ち上がり、一人キッチンに向かう俺の耳に入ってきたのは、


「あっくんのゴハン、物凄い美味しいからね! 食べなきゃ損だよっ!」


「え、マジですか? それは良い事を聞きました」


「私がここに移り住もうとしたのも、五割方ゴハンが目的なんだよねぇ……」


「そんなにですか!?」


という、ホントの姉妹みたいなお話の光景。

いや、鈴莉。お前コミュ力高すぎだろ。しかも俺のゴハンが目的とか。本来の目的は何処行った。嬉しいけどさぁっ!


内心ニヤニヤしつつも平静を装い、買ってきた食材(多すぎて冷蔵庫に入らなかったから入れるの諦めた)を取り出す。


さぁ、今日は少しばかり頑張るか。そうだなぁ……鈴莉の好物でも出してやるかな。

鈴莉の引越しに、家族が増えたという記念すべき第一回目、ここで祝わずして何時祝う?


そう張り切る俺の目に映るのは、まな板の上に置かれた少しばかり買いすぎた材料と、リビングで和気あいあいと喋っている騒霊二人である。





さて、時は変わって夕食時。

食卓に並ぶのは鈴莉の大好物であるチーズ乗せハンバーグと、余った挽肉で作ったつくね汁。他にも作ろうと思ったが、天音のお腹がヤバいとの事で割愛した。


鈴莉は大好物のハンバーグ一個に白米を茶碗三杯の比率で食べ、シメのつくね汁に白米をインしているところ。

鈴莉がインしたところで、ドン引きの目を向けつつも彼女は再度話を続けていく。


「──で、ですよ。この御方は夜に一人佇んでいた天音に声を掛けるだけでなく、暴走族に襲われかけたので助けてくれたワケです。その時の安心感といったら、もう……!」


向かいに座っている天音は感謝感激雨あられといった風で俺を賞賛し、隣に座っている鈴莉はというと、


「うわぁ、あっくんマジ天使。私には何もしてくれないのにぃ……」


おい、お前もこれ見よがしに白米よそるんじゃない。何杯目だ。五合近く炊いておいたハズが無くなりかけてるぞ。

とツッコミを入れても、今のコイツらには通じない事が分かっているので。大人しく話を合わせておきます。


「時と場合だよ。ってか天音、さっきから『御方』を連発してるが、いい加減止めてくれ。せめて別の呼び方で呼んでくれ」


「で、ですよ。安心して公園の入口付近の電柱に身を隠したはいいんですけど、相手二人はナイフを持ってたワケです。そこで()()()()()は──」


「サラッと無視した上に追い討ち掛けてきた!?」


「五月蝿いです。少し黙ってて下さい」


……あれれー? さっきまでの気弱な態度は何処へ行ったんだろ。

しかも『お兄ちゃん』とか呼ばれてるし。全国のシスコーンに命狙われないか心配。まさか早々にそんな呼ばれ方するとは思わなかったわ、お兄ちゃん。


そうして俺の武勇伝を一通り語り終えた天音は箸を置くと、話し相手の対象を鈴莉から俺へと変えてきた。


「そーいえばお兄ちゃん、公園でのアレは何だったんですか? 何か拾ってチンピラ共に投擲してましたけど」


「出会って数時間の相手に真顔でお兄ちゃんとか言わないで。メンタルがヤバいから」


……で、アレか? と続け、端的に告げる。


「俺の異能だが、何か?」


「あ、やっぱりです? ですよねー」


納得したように頷く天音。どうやら予想がついていたようだが、あの時は俺が忌み子だという事を知らなかったハズだ。

とすると、彼女自身に近しい存在であったから、それほど驚いてはいないといったところだろうか。それはそれで、危険だな。


……というか、見られてたのか。まぁ、見られたのがコイツで良かったかもな。一般人だったら変な噂が立ちそうだからさ。


「まぁ、普段は使わないけどな。凡庸性が低過ぎるから」


「へぇ……」


天音のその呟きを最後にして、鷹宮家のリビングには静寂が訪れる。

こうなるとやはり気まずいモノで、人は何かを盛り上げようと方法を模索するワケだ。

そして思い立った案が、これである。


「……そういえば、鈴莉。何で家に引っ越そうと思ったのかの理由を聞かせて欲しいんだが。結衣さんからも聞いてないぞ」


「あ、えっとねー。ちょっと、家庭の事情ってやつかなー?」


「家庭の事情……?」


首を傾げる俺に鈴莉はハンバーグを一口……いや、二口ほど入れて、


「おややてんふぃんふぃは」


「親が転勤したのね。オッケーオッケー」


仕事の都合かな。確か鈴莉の両親って、《鷹宮》の支部で働いてたし。海外とかに移って忙しいんだろう。

で、鈴莉が一人になる間、幼馴染である俺のところに住めと。納得。


そうして一人で納得している俺に、驚愕の視線が向けられる。勿論、その主は一人しかいない。


「何でそれで分かったんですか!?」


「いや、俺と鈴莉、何年の付き合いだと思ってるんだ? かれこれ十年だぞ?」


「だぞ〜?」


的確にツッコミを入れてくる天音にマジレスし、手を繋いで仲良しアピール。

そんな俺たちにドン引きしたようで、瞬間冷凍でも出来そうなほどに冷たい視線をこちらに向けてから、


「はぁ……感服致しました」


「「分かればよろしい」」


「ホントに何様なんでしょうね、このカップルは」


と呟いた天音に、鈴莉が大仰に反応する。

いや、なぜそこで反応した。あとキラキラした瞳で俺を見つめないで。無言の圧力止めて。


そして深呼吸した鈴莉は何を言い出すかと思えば、


「ねぇ、あっくん! 付き合おう!」


「ノリが軽い。……ってか、だいたい小さい時から同棲してる時点で彼女感は皆無だ。寧ろ家族だが?」


「じゃあ、あっくんはパパだね!」


「いつの間に結婚した!?」


喜々と饒舌に発される言葉はツッコミどころ満載だよ。天音がツッコミ役に徹してたのに、俺がツッコんでどうするんだよ。コントかよ。


「まさかのリア充……。爆発しろ…………!」


箸を折らんばかりの勢いで物騒な事を言っている妹は無視し、大きく溜息をつきながらイスに深く腰掛ける。

思い返せば、この一日──特に後半──は予想外の出来事が多すぎた。

稀有だとされる忌み子にまさかのシチュで会い、幼馴染が家に引越し、ってな。


……まぁ、


ケセラセラ(なるようになれ)──か」



~to be continued.

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