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異能者組織《鷹宮》

──忌み子。それ即ち、忌み嫌われる存在。

だから俺たちは工夫なり隠すなりして、象徴である瞳を人目に見せぬようにしてきた。それが露見すれば、ほぼ確実に今の人間関係は拗れてしまうのだから。


しかし、人々は言う。

忌み子(異能者)など、所詮は御伽噺の中での話だ』と。

忌み子の存在を否定する人間がいるのは喜ばしい事ではあるが、それが『災厄を齎す人種』である事を否定しているワケではないのだ。


だからこそ──これからも、存在は秘匿し続けなければいけない。自らの安寧の為にも。世に混乱を来さぬように。





「そ、そんな……事って……!?」


「どうやら、有り得るらしいな」


包み隠さず曝け出された眼を見て、少なくとも動揺している天音。

そんな彼女を見て笑いつつ、動揺も治まったであろう頃を見計らって、俺は口を開く。


「『忌み子』という人種は、人ならざるもの。つまり、異端の存在。それ故に、その素性を秘匿してきた」


だが、と言い、身振り手振りを加えて続ける。


「それはあくまで()()だけだ」


「表面……?」


「よく考えてみて欲しい、この日本という国の歴史を。二〇〇〇年という永い歳月の中、先人が『忌み子』の存在を良くも悪くも(ないがし)ろにするという事は、まず、有り得ない」


「というと……?」


……ふむ。同じ人種なら、とうに気が付いているかと思ったのだが。仕方ない、俺の口から言う事にしよう。

天音の隣に座っている鈴莉に視線を送り、アイコンタクトをとる。

その返答は、瞬き一回。つまり、承諾の意だ。


「……忌み子、またはそれに次ぐ『異能者組織』の結成だよ。恐らく、この名は聞いた事があるだろうね。……《鷹宮》という組織を知っているかい?」


「え、えぇ。確か──会社ですよね? 確か大通りにもありました」


「それは《鷹宮》の表の顔に過ぎない。本質は、異能者組織だ」


「……マジですか?」


「マジだ。《鷹宮》という企業の現会長は俺の祖父、鷹宮清十郎だが、彼自身が限られた者のみにそれを伝えている。一般には秘匿する事を大前提としてね。まぁ、その中に俺も入るワケだが」


……だが、可笑しい。天音が忌み子なら、既に《鷹宮》に加入していても不思議ではない。だがこの発言からすると、コイツは《鷹宮》の本質すら知らない事になる。


──そこが大きな問題なのだ。

忌み子という人種は生まれてその存在を認識されれば、必ずその家族が国家機関を通じて国に報告しなければならない。

その場合、忌み子という存在は世間には秘匿されるが、国のごく僅かな──主に、上層部の──人間には知られるワケだ。


何故報告をしなくてはならないのか、という理由としては唯一つ。

国が、忌み子という存在を護る為に。その子の人権を護る為に、だ。

それを目的とし、その後、国から異能者組織へと情報が伝達され、そこに保護されるような形になる──のが、本来の手順である、んだが。


「知らない、というとなぁ……話は別かぁ」


何らかの理由で《鷹宮》が引き取らなかった、という読みも出来るが、そんな話は過去に事例はない。

そもそも《鷹宮》に入っている忌み子は、現段階で俺一人だけだ。それだけでも十二分に稀有なのに、二人目が入れば大騒ぎだろう。

そんな情報は耳にしていないのだから、やはり、国に申し出ていないのか……?


どうしたものか……と腕を組んで考えていると、不意に天音から声が掛かった。


「確かに《鷹宮》という組織は知りませんが……天音、異能なら持ってますよ?」


「だったら、尚更可笑しいな。《鷹宮》は忌み子と異能者の双方を統括している巨大組織だ。その規模は全国に及ぶし、多かれ少なかれ《鷹宮》の血を引いている者なら自然に加入はしているハズなんだよ」


忌み子なら、国に申し出を。《鷹宮》の血を引く異能者なら、自然に加入している。

その双方も行っていないとなると、異常事態だな。


「鈴莉、ちょっと天音と話でもしてて。電話してくる」


「ふぇ? ……誰に?」


ソファーから立ち上がって廊下に行こうとする俺に、疑問の声を上げる鈴莉。

その問いに答えるべくスマホを取り出し、電話帳を開き、彼女の名前を出す。


「……結衣さんだ」





『──なるほどねぇ。確かにアタシもそんな話は聞いてないわ』


「だろう? 一応は天音を《鷹宮》に引き入れたいんだけど、細かい素性が分からなければ危険だ。本家の人間なのか、分家なのかも判断が必要だし」


二階の踊り場でしゃがみこみ、半ば愚痴るように俺は言う。

せめてもの情報として、天音の姓名、忌み子である事、異能を有している事を結衣さんに説明した。

そして、《鷹宮》の内部を伝えた事も。


『特徴からして、忌み子よね。学者の研究データによると、忌み子は原則として《鷹宮》の本家筋から生まれるんだけど、その確率は極めて低い。もしかしたら、身内かもしれないわよ、その子。政府の報告からでも、忌み子が一人いるだけでも恐ろしいのに』


「冗談はよせ。っても、否定出来ないのが怖いな」


ここで言う《鷹宮》本家筋は、俺の父方の家系だ。

つまり、現《鷹宮》会長の俺の祖父と、今は亡き父親、そして俺。僅かに離れてるけど、結衣さんも本家筋に入る。


となると、父親か祖父が二股──いや、有り得ないな。うん。

邪な考えを捨てるために頭をブンブンと横に振り、思考を戻す。

そして、再度口を開いた。


「とにかく、鷹宮天音の身分割り出し。周辺も隈無く、だ」


『……了解』


無慈悲な電子音と結衣さんの声を聞き留め、俺はまた電話帳を開く。二人目のお相手は、《鷹宮》会長である俺の祖父だ。

忙しいのかと思い、やはり止めようかとも思ったが、数回のコール音の後、それはすぐに出た。


『……蒼月か。何の用だ、こんな時間に。鈴莉ちゃんとの結婚でも決まったか?』


「それはまだ。今日はちょっと、重大な話がね」


受話器の向こうから聞こえてきたのは、少しばかり嗄れた老人の声。

前より声が低くなったなー、とか考えつつ、一発目から本題へと入る。


「おじいちゃん、鷹宮天音って子、知ってるかな?」


『……何だと?』


「鷹宮天音。忌み子なんだけど、政府にも報告してないし、《鷹宮》にも入ってないんだよ。それに姓も同じってところも妙に引っかかってさ」


『…………わ、儂は知らん。そもそもそんな名前、聞いた事ないぞ』


「そうかー……」


聞いた事ないのは当たり前だろうが。《鷹宮》に入ってないんだから。

と胸中でツッコミつつも、口には出さない。

数秒の沈黙の後、受話器から声が掛かる。


『……で、忌み子じゃと?』


「うん、忌み子だって。紅と茶のオッドアイ。この目で見たから間違いないよ」


『なら、こちらに引き入れる方針で行こうか。担当は?』


「そこら辺は結衣さんとかがやってくれるから、おじいちゃんは自分の仕事に専念してなさいよ。大丈夫、心配いらない」


『うむ、任せた。じゃあの。こっちは任せとけ』


と短く告げて通話を終えた我が祖父。

そこら辺も昔から変わらないなー、と思いつつ、リビングへと戻る。

そして、トランクをせっせと運ぼうとしていた鈴莉へと問い掛けた。


「鈴莉、今日からここに引越しか?」


「うん、そうそう。……でさー、その件で話があるんだけど」


ほら、と言って天音を立ち上がらせた鈴莉の顔は、茶目っ気満々。

何かを企んでいるであろう事は間違いないが、それが何処までの度合いなのか。

立ち上がった天音は俺を見て極端にキョドり、目を泳がせつつも、ハッキリと言った。


「あ、天音も──ここに住んで良いですか?」



~to be continued.

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