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遠い昔の御伽噺

むかしむかし、太古ともいえるほど、昔の話。

当時、この世界の人類は皆『異能』と呼ばれる異端の能力を有していた。その発端は、一人の少年である。


とある東の島国の貧しい家に生を受けたその子は、生まれながらにして異質であった。

その国では標準的であった黒髪と黒い瞳を持って生まれたのではなく、黒い瞳と()()()を持って生まれたからだ。所謂、オッドアイである。


その眼と、その少年が有している異能を見た人々は驚愕した。

──少年は煙のないところに焔を起こし、自由自在に操る。

そして、祝福された。

──神の堕慧児(おとしご)だと。


勿論、その話はその島国全体に広まった。最高権力者である、《長》の耳にも入るのは容易かった。

少年はある時、《長》に謁見する事となる。


《長》は少年の眼と異能を見て、やはり驚愕した。そして、感嘆し、神へ感謝の祈りを捧げた。

《長》は少年へ命を下した。子を作れ、と。


このご時世、力ある者が上に立つ。それは国と国でも同様に。

《長》は考えた。『彼のような人材を国中に増やせば、もはや敵はいない』と。


少年は《長》の命通り、婚姻し、子を作った。

少年の血を引いたその子は、やはり片目だけ異なる色の瞳をしていた。


それから幾年もと時代を重ね、やがては《長》の望んだ通りに国中が異能を持つ人間らへと変わっていった。

そして異能を持たない人間は国から不要な者と見なされ、侮蔑の扱いを受け続けた。忌み嫌われ、蔑みの視線を向けられた。


その血は国を超え、やがて世界へと広まって行った。世界でも、同じような事象が起きた。

『持つ者』は優遇され、『持たざる者』は侮蔑される。

世の常、といっても良いほどだった。


世界が能力者の巣窟へと変わっていけば、そこでまた国同士の争いが起こる。

自らが自らの国の異能者を派遣し、争わせ、優劣を決する。

数多の人間が命を落としても尚、それは変わらなかった。


誰も声を挙げなかった。抗おうとしなかった。傍観するかのように生きていた。

だが、その国勢に密かに反対する者がいた。島国の、一人の幼い少女だった。

彼女も例によらず異能者であった。しかし少女という立場柄、争いには派遣されなかった。


……だからこそ、であろう。彼女が声を挙げたのは。


「人は能力が有るから、それを鼓舞しようとする。それを利用する者がいる。それが争いに繋がる。

かつての世界は平和だった。争いもなく、一人一人が侮蔑されずに生きていた。


それが今はどうだろう? 『能力』が原因で、『強大すぎる力』が原因で、人々は傷付いていく。

それもこれも、異能が、異能者が増えてからの話。

なら、異能者なんて、居なくなればいい。

元のように平和な時間を取り戻したい」


その発言を引き金として、人々が抑えていた本来の気持ちが露わになっていく。それは瞬く間に世界へ広がり、数多くの同意を得た。


そこで人々は考えた。『どうしたら、能力を解けるのだろう』と。

『使わない』のではなく、『解く』。そこに、彼等の確固たる意思が感じられるように思えた。


だが、その術は幾度と探せど見つからぬまま。科学技術も無いこの太古の時代に、それを詮索する事が間違いだったのかもしれない。


研究者らは思った。

『このままではまた異能を悪用する者が出て来ないとも限らない』

そして彼等が取った手段は、一つ。それはあまりにも残酷で、残忍で。しかし、それしか方法はなかった。


──『持たざる者』を残し、『持つ者』だけが滅びる事。


異能者の血を、完全に断ち切ろうと試みたのだ。

そしてそれを手助けするのは、『持たざる者』であった。

『持つ者』らは後々の世界の平和を願って、喜んで命を絶った。



──その一件を乗り越え、世界では『持たざる者』のみが繁栄し、以来、『持つ者』は現れなかった。

彼等は異能者を争いを呼ぶ者として蔑み、『忌み子』と非難した。


そしてその伝承は各国の『持たざる者』によって語り継がれ、人々の心に深く刻み込まれている。

──能力者、もとい、『忌み子』の存在が。




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