元無気力少年の戦場
5月。育成計画が終わり、ようやくまともに書けるようになったあの子は、ガチでヒットを狙いたいと言った。
「キャラの心情の文を加えてください。ストーリーだけじゃダメです。この場面でこのキャラはこう思ったからこう動いたって言うのを伝えられるように。技術としてわざと描かないのもありですが、意識して書くようにお願いします」
僕も本気になる。それだけ深く読後が良いものを作りたい。そう言う彼が書いた恋愛小説を読み、あれこれとダメ出しをする。
彼はあたふたし、メモを取る。
これが、よく見る担当編集と作家の姿ではないだろうか。
「1巻で伏線を張り、2巻でそれを一気に回収する。そしてそれを生かして3巻を書く。これを忘れないで下さい」
彼はメモを取るのに必死だった。
「新人作家を、ですか」
「ああ、君にはもうすでに実績があるからな。もう一人頼みたい」
「まあ良いですけど」
「実はまだ受賞した事も伝えていないんだ。メールして、ここに来る約束を取り付ける。大まかにはこんな感じだが、分からない事があれば聞いてくれ」
「了解です」
メールを送信し、予定の空いている日を訪ねる。
新人作家、深海 真水は僕と同い年にもかかわらず、会えるのは1月後とかなり多忙なようだった。
にしても女性の担当は初めてだから緊張するな。
「早見君、今年の分だよ〜」
僕の机の上に積まれたのは大量の本。去年とはまた違う賞の選考対象達である。ちなみに去年から僕が読んだ本は全部3次で落とされた。何故読ませたし。まあこれも勉強なんだろうな。社会なんて無意味な事を不条理にやらされる場所だっていう。
ちなみに深海真水は去年の12月の小説に応募してきた作家である。まだ読んでなかったから、こちらも読まねばならない。まさか僕が担当なんておもわないじゃん?大賞受賞って事はそれだけ実力もあるって事だから助かるな。
にしても最近仕事が多いような気がする。覚悟はしていたがこれからもっと多くなってくんだろうな。
やっぱり編集者は忙しいんだな。嵐のように仕事は舞い込んでくるし津波のように〆切に追われるし。それは作家もだが。
だが知れば知るほど面白い業界だ。宝石のように作家は磨かれていくし、地震のように一つの事が周りに影響を及ぼす。一人一人が違っても、作るものは似ていたりする。
僕は、この世界が好きなんだろう。
かつて抱いていたあの気持ちとは違うとしても。
僕は、間違いなくここが好きになっている。
それが、『成長』なのだろうか。
未だ棘がささる胸に、そう問いかけた。
ついに明日完結です。ここまで来れたことに感涙です。
きっと皆さんが読んでいなければここまできていなかった。全ての読者に、感謝を。




