元無気力少年の日常Ⅶ
「なるほど……売れるためには書き続けることが大事と……」
「ええ。書き続ける事で技術の向上を主に、色々な面で成長することができるでしょう。多くの読者が求めているのはレベルの高い作品です。ストーリーや文章、磨きあげられたものを読者に提供してこそ、私たちには価値があると言っていいでしょう」
「では、最近の流行りである異世界転移や転生に関して、売れ筋に走るのは間違っているという読者に対して、どう思いますか」
「私が書いてきたものは学園モノですから、そう言われた経験はありませんけど、確かにTwitterなどのSNSでは、まれに見かけますね。まず一つ言いたいことは、売れなきゃ作家は死ぬしかないということです。例えば、渡 航さんのような兼業作家ならまだしも、私のような専業作家は稼ぐ手段を他に持っていませんから、生活が出来ません。編集社からしても、売れない作家などゴミに等しいでしょう」
「では、佐原先生は売れるためには書かれているのでしょうか」
「答えにくい質問ですよね。そりゃ売れれば嬉しいですし、好きだからっていう理由もありますから」
こいつらはこれの名目を忘れているのだろうか。これはインタビューではなく、対談なんだが。
「でも、一番は、負けたくないってのがありますね」
「誰かライバルがいるのでしょうか」
「私が勝手にそう思ってるだけなんですけどね。あの子は、私の事を覚えてませんから」
「それって早見さんが財布に入れてる……」
「それ以上は言わないで」
佐原の声音が変わる。それは、僕にとっては勿論、佐原や月夜にとっても、大きい地雷だからだ。
「彼女は、瑞乃ちゃんはもう、戻ってこないんだから……」
僕達はあの出来事から、多くの事を学んだ。無くしたものは戻らないということも。失ったものは帰らないということも。僕達は、大切なものに二度と、手を振られないのだ。
共に過ごした日々は、個々にその記憶があって成り立つ。記憶がなければ、それはただの、真っ白な空間なのだ。二度と手の届かない。声の届かない。それが今の僕達と水上瑞乃の、関係なのだ。
「おつかれ。なんか奢ろうか?」
あれからすぐに対談は終了した。
主に佐原が限界だったパターンだ。
「じゃあ、25日になんか買ってもらおうかな?」
「別に構わんがあんまり高いものは勘弁してくれよ」
「わかってるって。じゃあまた、学校で」
「ああ、じゃあな」
1時にもう一本投稿します。




