今は、知らないから幸せなだけなんだ。4
「再来先生、どういう事ですか」
瑞乃が学校に来なくなってから1週間がたった。
何の連絡もなく、何の脈絡もない。瑞乃の姉である水上瑞葉と会ったのが最後である。
もちろんこの1週間探し回っていたわけだが、担任教師の再来先生ですら知らないのが現状である。
「すまない。私の方でも調べてるんだがまだ何も……」
いつ聞いても再来先生の反応は変わらない。
今わかっているのは、この近くの病院にはいないという事だけだ。
だが、かくれんぼももう終われるだろう。
如月家の跡取りである華月さんが協力してくれているのだ。多分そろそろ調べあがる頃だろう。
ちょうど携帯が震えた。
今時に珍しいメール。つまり、差出人は僕のラインを知らないがメアドは手に入れられる環境。つまり。
水上瑞葉だろう。
「やあ、悪かったね。この1週間連絡出来なくて」
1時間後、僕は電車を乗り継ぎとある病院に来ていた。
その病室には、紛れもなく、水上瑞乃の文字が飾られていた。
「もともと脳は限界だったんだよ。去年の秋くらいで。あの時は警察のお世話になるほど歪んでたから、今とは大分違うだろうけどね」
警察のお世話ーー脅迫。それも、自分自身を。自身の知らぬ間に。
「で、しばらくは幸福な状態が続いていたから大丈夫だったみたいだけど、それも遅延の一つでしかなかったみたいだ」
パズルのピースは、当てはなるところにしか当てはまらない。
間違った方法は、正しい方法とは、違う結果しか見出せない。
「もともとは、よく笑う子だったんだよ。なのに、中学3年の頃からいじめられて……高校に入ってからはもっと酷くなって……」
瑞乃は、何を思ってここにいるのだろうか。今でも、僕を好きでいるのだろうか。それとも。
「残酷だよね。周りの状態が良くなっても、植えつけられた種は育ち続けてたんだから」
もう僕の事など、忘れているのだろうか。それとも。
「本当に少し前までは元気だったんだよ?なのに……何で……この子は今まで楽しそうにしてたじゃない。今私は幸せだって言ってたじゃない!」
その目に浮かぶ水滴は、何を思ってだろう。妹を守れなかった自分への怒りだろうか。昔の瑞乃について知らなかった、知らなかった僕達にだろうか。それとも。
「なのに……なのに……!!」
全て忘れてしまった水上瑞乃に対しての想いだろうか。
「何で……!!この子は、もっと幸せになれるはずだった!!今のままで!!記憶を失う理由なんて、もうなかったのに!!」
気づけば、僕の足元にも、熱を帯びた水滴が、少しずつ、ポタポタと、落ちていた。
「読君!!」
僕が病室を出た頃、月夜が来た。
「水上さんは……」
「全部忘れて、眠ってるよ、ぐっすり」
きっと僕の顔は赤く腫れている。
「そう……」
「ごめん、月夜。僕今、すごく辛い」
「当たり前よ。好きな人を、恋人を失ったんだから……」
「辛いのに、悲しいのに、苦しいのに」
僕は今、何を思っているのだろうか。そんな事を考えてしまうほどに、僕の頭は動いていない。
「泣くしか、出来ないんだよ……」
瑞乃がついに記憶を失ってしまいました……
この展開自体は初めから考えてたんですけどね。
まず瑞乃の名前の由来が『水の泡』ですし。




