それにより、私は。3
結局、二人に振り回されて僕はいつも以上に疲れた。
最後に入ったスタバで、水上が席を立った時。
「……何か言いたい事があるんじゃないのか。」
僕は佐原に話しかけた。
佐原はしばし小難しい顔をしていたが、観念したのか、盛大に笑みを浮かべた。
「あちゃーやっぱ隠せないか」
と、前置いて、続ける。
「お母さんに言われたんだ。作家になるなら、東京に行きなさいって」
つまり、ここからはかなり離れる事になる。それは高校に入って1年経った今から考えれば、相当に辛い事ではあるだろう。
「にしても理不尽だな。何も東京に引っ越す必要はないだろうに」
「作家になるって事は、少なからず東京に行く機会は増えるでしょ?ここからなら飛行機とか新幹線使わなきゃいけないから、お金が必要なんだって」
それぐらい経費で落とせるのではないだろうか。いや、それでも金は必要になるか。
「だから、東京で一人暮らししろって。笑っちゃうよね。高校やめて、作家になれって言う親って、珍しいと思う。なにせ不安定も不安定だしね」
今のこいつは、賢く利己的に、物分かり良く、割り切ろうとしているように見せる。だが、だがそれは、
「ありがとね、早見君。瑞乃ちゃんには先に帰るって言っておいて。さよなら」
口に出そうとした時には、すでに遅かった。
寂しそうに揺れる肩が、遠くに見えるのと同時に、僕の視界には泣きそうになっている少女が、映った。
「へぇ。佐原さん、東京に行くのね」
まあ、僕の相談相手と言えば、言わずもがな月夜である。
改めて考えると、以前水上に言われたように確かに相手の気持ちを弄んで利用している節がある。
「で、貴方はどうするつもりなのかしら?」
どう言う意図で聞いてきたのか、僕にはすぐには分からなかった。そんな僕を尻目に、月夜は続ける。
「佐原さんを、止まるのか止めないのか、を聞いているのよ」
随分と久しぶりに心を読まれた気がした。
「僕には止める権利なんてない。それが佐原の幸せになるとも限らない。なら、東京で一人で頑張るのが、あいつの目指すべき幸せ、じゃないのか」
「それを本心で言っているのなら、貴方はつくづくたちが悪いわ」
「お互い様だろ」
にやりと、笑い合う。
そして答える。
「僕はーー
あいつに幸せになって欲しい?どの口が言ってるんだ?
あいつと一緒に居たい?それは僕の本心とはかけ離れた答えだろう。
なら、僕が出す答えとは、一体なんだろう。
「僕は、あいつにラノベ作家としてこの部にいて欲しい。でもそれは無理だろう。ならせめて、せめてあいつが笑顔で去っていけるようにするのが、僕の役目だ。」
あれから数日経ち、佐原は東京行きの飛行機に乗るために空港に行った。
「楽しかった、な」
それが佐原が最後に残した言葉だった。最後になんか、しないけど。
「この数日は結構ドタバタしたな」
「ケーキ作ったり、部屋飾り付けたり、色々やったもんね」
「ほんとに空港まで行かなくて良かったの?お兄ちゃん」
「佐原さん、きっと今頃泣いてるだろうからっていう読君の配慮よ、留美ちゃん」
「読、頑張った。ナデナデ」
なんだか一人、金髪碧眼、とても身長の小さいいかにもハーフな女の子が、筋違いの事を言ったような気がするが……
「と言いつつ、ほんとは早見が泣いちゃいそうだからだったりして」
いや、多分泣かないと思うけども。結構悲しんではいるけどな。小学生の頃カンナが転校した時ぐらいのダメージはあったんだよ。
ん?不意にスマホが震えた。
「佐原からメールだ」
ふっと、僕は笑う。なるほどあいつらしい。そんな事を考えながら、窓の外を見る。
飛行機雲が綺麗に線を描いていた。
お久しぶりです。前回から間が空いてしまい、誠に申し訳ございません。
はい、佐原さん退場です。次に出るのはラスト3話あたりになるとおもいます。
そういえばこれで3章『佐原彩理は選べない』完結となるんですが、3章全3話ってなんぞや……となったので、章管理はもう無くそうと考えています。これが予約投稿なので、これがupされる頃には章なんて概念は消えているかと。
1ヶ月間の休載を得て、僕の調子も完全復活!そして無常は8月までに完結します!多分!
というか8月1日にもうすでに1話の書き終わっている新作を投稿するので、さすがに死にます。
では、後2ヶ月(予定)の間、お付き合いください。




