私の気持ちと。7
いよいよ最後の試合だった。
そして、東雲にとっての運命の試合だった。
僕に思いつく東雲に現実を教える方法は、たった一つだった。
試合には勝つ。だが、僕はほとんど取らない。万が一負けそうになった時負けないようにコントロールするぐらいだ。周りから何を言われようが関係ない。どうせこの大会で個人賞1位僕だしな。2位(水上)と100枚以上離れてるし。
東雲が鵜飼に告白する確率は、東雲が多く取る程、アピール出来たと感じ上がるはず。もっとも、その告白は、匿名の正義の手によって、壊れるのだが。
「東雲、力抜いて深呼吸。手首回して、足も伸ばしとけ」
試合へ向けて、軽く体操をする。さすがに僕もそんなに集中力持たないし正座も長くしていると死ぬ。
「よし。始めようか」
札を並べ始める。東雲の得意札を東雲の近くに。逆に苦手な札を遠くに。これまでのデータから取る確率の高い札が割と多くある事に今気づく。
こいつ、結構頑張ってんだな、と。
その頑張りを無駄にする権利が、僕にあるのかとも思ったが、僕は、僕の考え方で動こうと考えを新たにする。
ネタはもう、出来上がっている。
「なにわずに〜」
僕が手を出さない分、試合は激戦となった。
東雲が1枚取れば向こうも1枚取る。向こうが1枚取れば羽衣が1枚取る。
ひたすらにその繰り返しだった。
勝負が動いたのは終盤、ラスト20枚ぐらいとなった頃。
今までに取った札は均等になっている。
鵜飼が、誰も寄せ付けない程の速さで取り出した。
2枚3枚と、向こうがリードしていく。
こいつ、最後強いタイプか。
僕は常に強いので、最後に強いタイプを相手取った事がない東雲からすれば番狂わせも良いところだろう。口尖ってるし。
仕方ない。最後ぐらい僕もやってやろう。ちなみにこの試合僕3枚しか取ってません。
「みかき〜」
バンっ!音同時に手はしっかりと札の上にあった。
続いて4、5枚取ってバランスを元に戻した。
普段はこんな事はないのだが、熱くなってしまったのか僕は考える事をやめ次々と札に手が伸びていく。
それは、最終的に僕達を勝利へと導いた。
さて、クラスの順位も1位だった。僕も個人で1位だった。
まあ、これは関係ないのだが。
ここからは、東雲がどう動くか。それが今回のシナリオ通りなら、余計な労力を使わずにばらまくだけで全てが終わる。
東雲が教室から出て行く。
誰にも気づかれないようにそれを追う。
ウズウズしているところを見ると緊張と幸福が同時に襲ってきているのだろう。足元はしっかりしているはずなのに、ふらふらとしているように見えた。
東雲は校舎裏の花畑へと歩いて行った。
その上一番近くにある教室は、第1多目的室。その上にある教室は第3多目的室だ。つまり、僕らの部室。
僕にとっても都合が良い。鍵を取りに行く。ここからなら職員室を通っても三分程で部室に着くだろう。
5組はまだ終学活中のようだ。なら間に合うだろう。
準備は出来ている。後は鵜飼が来れば完璧。
彼の世界が歪むまで、もう少し。
窓の外を見ながら、思いふけった。
鵜飼が駆け足で現れる。窓を開いた。
「ずっと前から好きでした!私と付き合って下さい!」
一言二言交わした後、そう言った東雲の顔は、泣き顔に近く紅くなっていた。
そして僕は、窓の外に向けて合計36枚の写真を、投げ捨てた。
それは、3股をかけている証拠の写真。彼は最近肩まであった髪をバッサリと切ったそうなので、髪が短くなっている時と長い時の写真を混ぜておいた。
上から降ってきたそれを見て、東雲は、ここが僕達の部室である事に気付いた。
鵜飼は発狂している。
僕に出来るのはここまで。
それでも良いと言うのならあの二人は付き合うだろうし、東雲がそれを拒絶すれば鵜飼は社会的に消える事になる。
全ては、東雲次第だ。
あれからしばらくたった。具体的には2週間程。
鵜飼の事は特に話題に登らなかった。しかし東雲が彼氏無しとクラスメイトに言っていたところを見るとつきあってなく、表沙汰にもしなかった、というところか。
ふむ。僕なら速攻でイロイロ潰しに行くのに。
東雲はあれから部室には来ていない。
今ではあの時のような騒音はなく、ただただ静かだ。
時折誰かが誰かに向けて言葉を発する場面もあり、たまに全力で遊んだり。これがこの部活の日常。これが、当たり前の、はずだった。
***
「水上さん、最近読君の事で気づいた事はあるかしら?」
「?特に変わったところはないと思うけど」
「そう、ならいいわ。また明日」
「うん、バイバイ月夜ちゃん!」
一人になり、考える。
近くにいすぎると、気づかなくなるものだって事を。
実際に彼女は気づかなかった。
でも、遠くにいすぎても気づけない。
彼との間には、適切な溝が必要不可欠なのだろう。
2章完結っと。
3章もかなり短いです。
…………←ネタが底をついた人。
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