初デート(成功するとは言っていない)
上記の出来事から三日経ち、土曜日。
僕は珍しく、ものすごく珍しく、妹に病院行けと言われる程珍しく、外出していた。
帰ったら初めから口調が命形だった妹に提案と言う素晴らしい言葉を教えてあげよう。
で、今僕が何処に居るのかと言うと、電車の中だ。約2年ぶりに。何故そんなところにいるのかって?俗に言う、デートだ。僕風に言うならば、地獄だ。隣には水上瑞乃がいる。彼女曰く──
「ストーリー作りの取材がしたいんです」
だそうだ。何処に行くかは聞いていない。
水族館。暗くて視力が落ちそうだった。イルカショー。水が鬱陶しかった。
ショッピングモール。無駄に広い。ウィンドウショッピング。足が痛くなっただけだった。
遊園地。お化け屋敷。ジェットコースター。観覧車。何もかもつまらなかった。
死んだ。暇すぎるというのもあるし、疲れたというのもあって。やはりオタクは外出すべきではないな、うん。
────────────────────────
日曜日。休みの日でも早く起きる僕にしては珍しく、昼過ぎに目を覚ました。昨日の疲れが残っていたのだろう。
「お兄ちゃん遅い!」
冒頭で若干出てきたマイシスターの登場。これが萌える系の妹なら神回になっていただろうが。現実は残酷で、妹萌えなんか存在しない。これは小説、いわゆる2次元なんだから、『萌え』というのもあっていいんじゃないか?
「ああ、悪い。疲れてたみたいでな」
「昨日めっちゃ疲れてたもんね。どうだった?デート」
僕が何か言う前にすべてを理解するのはやめていただいてもよろしいだろうか。
「地獄だった」
正直に答える。
「月夜さん?羽衣ちゃん?」
「どっちでもないよ。この前入ってきた新入部員だ」
「またお兄ちゃんの周りに女が増えた……」
悲しそうな顔されたので、昼ご飯を食べて自室にこもる。おい作者、これ絶対妹出すためだけに書いてるだろ。
次の日の部活動にて。
「出来たよ。プロット」
そう言って、水上は2枚の紙を僕に差し出す。1枚目にキャラ設定。2枚目にストーリー。内容は学園ラブコメだった。
それに目を通し、感じた面白さ。とても魅力的なヒロイン。キャラの立った主人公。ストーリーすら完璧だった。プロットだけなのに、今までに読んだラブコメの中で、いや、小説の中で、一番面白いと感じた。作者のこの作品とは大違いだった。
「すげぇな…正直、ここまで面白いとは思わなかった」
そんな声が僕から漏れた。自分でもびっくりするくらいの、感動をあらわにした声が。
さらに、主人公とヒロインのデートシーンには、僕と土曜日の行動がしっかりと生かされていた。
はっきり言って、こいつは天才だ。乗り気でなかった文化祭の冊子作りが楽しみで仕方がなくなった瞬間だった。金なんて、どうでもいいと思えるくらいの。